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204 師匠の顔力(がんりき)
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抱きつく私の頭をポンポンと叩いて師匠が優しく声をかける。
「なんだなんだ、小さい子どもじゃあるまいし」
「だって……」
「アイスヴァインに居たときもこんなじゃなかっただろう。離れて甘えん坊になったか」
「頭ではわかっていたけど、本当にお義父様の弟子……というか、もう一人の子どもさんみたいね。ふふ、満更でもないお顔ですね」
ホリイさんが背後から話しかける。
どんな顔をしているのかと顔を上げたが「見るな」と目を塞がれてしまった。
「ケチ」
ようやく手をどけるともういつもの顔に戻っていた。
「お茶を持ってきますね」
ホリイさんが積もる話もあるだろうからと二人きりにしてくれたので、二人で並んで椅子に腰掛ける。
「どうして急に王都へ?」
騎士団を辞めてからこれまでずっと王都に来ていなかった師匠がなぜここにいるのか。会えて嬉しいが不思議に思った。
「エミリさんは一緒ではないのですか?」
「マシューが仕事のついでにアイスヴァインに寄ってくれてな。ずっと気にはなっていたが、マシューが戻ると言うので便乗させてもらった。エミリも来たがったが今回はマシューたちと一緒に急ぎの旅になるからな、エミリは留守番だ。ルイス夫妻に頼んできた」
父がいた頃の執事の名前を師匠が口にする。
アイスヴァインにいる皆も変わりなく元気だと聞いて、まだそこを離れて半年程なのに何だかすごく昔のような気がした。
「気になる?」
「お前のことに決まっている。ウィリアムたちはここで生まれ育って来たから放っておいてもそれぞれ伴侶もいるし心配なんてしないが、お前はしっかりしているようで都会は初めてだ。どんな暮らしぶりか気になっていた。もっと早く来るつもりだったが、エドワルド公爵領に行ったと聞いていたから来る時期を見計らっていた」
私のことを心配してくれる師匠の言葉に胸が熱くなって、思わず口許が綻ぶ。
「ウィリアムから、前の伯爵様のことを聞いた」
私の顔色を見ながら師匠が話を切り出した。
「主犯の男はまだ捕まっていないらしいな」
黙って頷く私の手を大きな手で優しく包んでくれる。それだけで気持ちが暖かくなる。
「王弟殿下とのことも聞いた。護衛で雇われていたらしいな。教えたことが役に立って良かったと言っていいのか……他の生き方もあったろうに」
「誰に無理強いされたわけでもなく、その時その時自分の判断でやってきました。後悔はありません」
「まあ、そう言うことなら……だが、この人の多い王都で王弟殿下の護衛になるとか、ウィリアムが関係しているとは言え王族の方と関わりになるなど……」
「そ、そうだね」
皆は宰相からハレス子爵、そこからウィリアムさん繋がりで私がキルヒライル様と初めて会ったと思っている。だからこその師匠の発言だった。
キルヒライル様との馬屋での最初の出会いから手当てをしたことは今のところ二人だけが知る話だ。
「ん?なんだ?何かあるのか?」
小さい頃からずっと側にいる師匠は私の表情の変化に気づいたようで、逸らそうとする私の顔を覗き込んできた。
「別に……師匠のおかげです。師匠に武術を仕込んでもらったから……」
「誤魔化すな。俺に隠し事か?」
鋭い眼光で顔を近付けてくる。慣れていない者は思わずチビりそうな迫力だ。
「お、お義父様…………」
ホリイさんが持ってきたお茶のセットをガタガタと言わせて立ち尽くす。師匠の今の顔を見て怯えている。
「ホリイさん、す、すまん……」
「だ、大丈夫ですか、ホリイさん」
今にも卒倒寸前の嫁を見て、慌てて師匠が鬼の形相を解いた。
持った茶器を落とさなかったのは奇跡だ。
私も駆け寄り手に持った茶器のトレイを受け取った。
剣を交える時の真剣な師匠の形相に慣れている私は気にならなかったが、普通の人はこんな反応をするのかと改めて師匠の顔力の凄さを実感した。
「なんだなんだ、小さい子どもじゃあるまいし」
「だって……」
「アイスヴァインに居たときもこんなじゃなかっただろう。離れて甘えん坊になったか」
「頭ではわかっていたけど、本当にお義父様の弟子……というか、もう一人の子どもさんみたいね。ふふ、満更でもないお顔ですね」
ホリイさんが背後から話しかける。
どんな顔をしているのかと顔を上げたが「見るな」と目を塞がれてしまった。
「ケチ」
ようやく手をどけるともういつもの顔に戻っていた。
「お茶を持ってきますね」
ホリイさんが積もる話もあるだろうからと二人きりにしてくれたので、二人で並んで椅子に腰掛ける。
「どうして急に王都へ?」
騎士団を辞めてからこれまでずっと王都に来ていなかった師匠がなぜここにいるのか。会えて嬉しいが不思議に思った。
「エミリさんは一緒ではないのですか?」
「マシューが仕事のついでにアイスヴァインに寄ってくれてな。ずっと気にはなっていたが、マシューが戻ると言うので便乗させてもらった。エミリも来たがったが今回はマシューたちと一緒に急ぎの旅になるからな、エミリは留守番だ。ルイス夫妻に頼んできた」
父がいた頃の執事の名前を師匠が口にする。
アイスヴァインにいる皆も変わりなく元気だと聞いて、まだそこを離れて半年程なのに何だかすごく昔のような気がした。
「気になる?」
「お前のことに決まっている。ウィリアムたちはここで生まれ育って来たから放っておいてもそれぞれ伴侶もいるし心配なんてしないが、お前はしっかりしているようで都会は初めてだ。どんな暮らしぶりか気になっていた。もっと早く来るつもりだったが、エドワルド公爵領に行ったと聞いていたから来る時期を見計らっていた」
私のことを心配してくれる師匠の言葉に胸が熱くなって、思わず口許が綻ぶ。
「ウィリアムから、前の伯爵様のことを聞いた」
私の顔色を見ながら師匠が話を切り出した。
「主犯の男はまだ捕まっていないらしいな」
黙って頷く私の手を大きな手で優しく包んでくれる。それだけで気持ちが暖かくなる。
「王弟殿下とのことも聞いた。護衛で雇われていたらしいな。教えたことが役に立って良かったと言っていいのか……他の生き方もあったろうに」
「誰に無理強いされたわけでもなく、その時その時自分の判断でやってきました。後悔はありません」
「まあ、そう言うことなら……だが、この人の多い王都で王弟殿下の護衛になるとか、ウィリアムが関係しているとは言え王族の方と関わりになるなど……」
「そ、そうだね」
皆は宰相からハレス子爵、そこからウィリアムさん繋がりで私がキルヒライル様と初めて会ったと思っている。だからこその師匠の発言だった。
キルヒライル様との馬屋での最初の出会いから手当てをしたことは今のところ二人だけが知る話だ。
「ん?なんだ?何かあるのか?」
小さい頃からずっと側にいる師匠は私の表情の変化に気づいたようで、逸らそうとする私の顔を覗き込んできた。
「別に……師匠のおかげです。師匠に武術を仕込んでもらったから……」
「誤魔化すな。俺に隠し事か?」
鋭い眼光で顔を近付けてくる。慣れていない者は思わずチビりそうな迫力だ。
「お、お義父様…………」
ホリイさんが持ってきたお茶のセットをガタガタと言わせて立ち尽くす。師匠の今の顔を見て怯えている。
「ホリイさん、す、すまん……」
「だ、大丈夫ですか、ホリイさん」
今にも卒倒寸前の嫁を見て、慌てて師匠が鬼の形相を解いた。
持った茶器を落とさなかったのは奇跡だ。
私も駆け寄り手に持った茶器のトレイを受け取った。
剣を交える時の真剣な師匠の形相に慣れている私は気にならなかったが、普通の人はこんな反応をするのかと改めて師匠の顔力の凄さを実感した。
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