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その日、帰宅したハレス子爵をアンジェリーナ様と共に出迎え、侯爵家での顛末を話した。
「ローリィに怪我がなくて何よりだ」
「ありがとうございます」
苦笑しながらも私のことを気遣ってくれた言葉に素直にお礼を言った。
「それはそうと、君にドルグランから伝言がある」
外套を執事に手渡して手袋を外しながら子爵が私に向き直った。
「私にですか?」
ウィリアムさんとはこちらへ戻って一度ご自宅へ伺ってから殆ど会えていない。
「彼の弟が王都に戻ってきている。明日にも一緒に食事でもということだ」
「マシューさん、戻ってきたのですね」
一度会ったきりの師匠のもう一人の息子さんの顔を思い浮かべる。
「すいません。そんな個人的な伝言を子爵様にお願いしてしまって……」
「いや、いい。どうせ家に戻れば会うからと私が買ってでたことだ」
「伺ってもよろしいでしょうか」
お二人に伺いを立てる。今の私は子爵家にお世話になっている身だ。
「遠慮なく行ってきなさい。何なら我が家の馬車を使ってもいいが」
「いえ、ウィリアムさんのお宅は行ったことがありますから道はわかっています。それに、馬車なんてホリイさんがびっくりします」
「わかった。だが、行くなら人通りの多い昼間のうちに、それと遅くなるようならあちらに泊まってきてもいいから気を付けなさい」
「わかっています。ありがとうございます」
子爵がグスタフたちのことを警戒して言っているとわかり返事をする。
「明日はいないのね。どうやって時間を潰そうかしら」
アンジェリーナ様がつまらなそうに呟いた。
「おいおい、ローリィが来る前と同じようにしていたらいいだろう」
「何をしていたかしら」
本気で首を傾げて悩むアンジェリーナ様を見て、子爵は信じられないという顔をした。
「では、明日の夜は早めに帰る。外に食事に行こう」
「まあ、本当ですか!」
夫からの意外な誘いにアンジェリーナ様が顔を輝かせた。
「どこへ行くかは君に任せる。明日のことで予約が取れるかはわからないが」
「ああ、そうね。早く決めて連絡しなければ……何を着ていこうかしら」
久しぶりの夫との外食にアンジェリーナ様はすっかり心を奪われあれこれ呟きながら侍女長を呼びに行った。
子爵と私、執事のジベルさんが玄関に残された。
「そういうわけだから、こちらのことは気にせずゆっくりしてきなさい。あちらの奥方も君に会いたくて心待ちにしているそうだ」
「ありがとうございます」
「侯爵家では不快な思いをさせたようだ。だが、侯爵一人の言動を気にしているようではキルヒライル様のお側ではやっていけない」
「わかっています。腹は立ちましたが気に病んではいません」
嘘ではないないと私は真っ正面から子爵の目を見つめた。
「ドルグランの父親に鍛えられたからなのかな……君のその強さは」
アンジェリーナ様の話がかなり脚色されていたかもしれないことを考慮しても、侯爵がどのような人物かわかっているつもりの子爵が、普通の娘なら泣きべそをかいても仕方ない状況だと察して、それでも私がまったく気に病んではいないことに感心している。
実は前世ではアラサーでしたし、男社会でセクハラ、パワハラ紛いの扱いは受けているから慣れてます。とは言えないので
「そうですね」
とだけ答えた。
「技や体力だけでなく心まで鍛えるとは……指導者として欲しいものだ」
子爵の中で師匠の株がぐんと上がった。
「ローリィに怪我がなくて何よりだ」
「ありがとうございます」
苦笑しながらも私のことを気遣ってくれた言葉に素直にお礼を言った。
「それはそうと、君にドルグランから伝言がある」
外套を執事に手渡して手袋を外しながら子爵が私に向き直った。
「私にですか?」
ウィリアムさんとはこちらへ戻って一度ご自宅へ伺ってから殆ど会えていない。
「彼の弟が王都に戻ってきている。明日にも一緒に食事でもということだ」
「マシューさん、戻ってきたのですね」
一度会ったきりの師匠のもう一人の息子さんの顔を思い浮かべる。
「すいません。そんな個人的な伝言を子爵様にお願いしてしまって……」
「いや、いい。どうせ家に戻れば会うからと私が買ってでたことだ」
「伺ってもよろしいでしょうか」
お二人に伺いを立てる。今の私は子爵家にお世話になっている身だ。
「遠慮なく行ってきなさい。何なら我が家の馬車を使ってもいいが」
「いえ、ウィリアムさんのお宅は行ったことがありますから道はわかっています。それに、馬車なんてホリイさんがびっくりします」
「わかった。だが、行くなら人通りの多い昼間のうちに、それと遅くなるようならあちらに泊まってきてもいいから気を付けなさい」
「わかっています。ありがとうございます」
子爵がグスタフたちのことを警戒して言っているとわかり返事をする。
「明日はいないのね。どうやって時間を潰そうかしら」
アンジェリーナ様がつまらなそうに呟いた。
「おいおい、ローリィが来る前と同じようにしていたらいいだろう」
「何をしていたかしら」
本気で首を傾げて悩むアンジェリーナ様を見て、子爵は信じられないという顔をした。
「では、明日の夜は早めに帰る。外に食事に行こう」
「まあ、本当ですか!」
夫からの意外な誘いにアンジェリーナ様が顔を輝かせた。
「どこへ行くかは君に任せる。明日のことで予約が取れるかはわからないが」
「ああ、そうね。早く決めて連絡しなければ……何を着ていこうかしら」
久しぶりの夫との外食にアンジェリーナ様はすっかり心を奪われあれこれ呟きながら侍女長を呼びに行った。
子爵と私、執事のジベルさんが玄関に残された。
「そういうわけだから、こちらのことは気にせずゆっくりしてきなさい。あちらの奥方も君に会いたくて心待ちにしているそうだ」
「ありがとうございます」
「侯爵家では不快な思いをさせたようだ。だが、侯爵一人の言動を気にしているようではキルヒライル様のお側ではやっていけない」
「わかっています。腹は立ちましたが気に病んではいません」
嘘ではないないと私は真っ正面から子爵の目を見つめた。
「ドルグランの父親に鍛えられたからなのかな……君のその強さは」
アンジェリーナ様の話がかなり脚色されていたかもしれないことを考慮しても、侯爵がどのような人物かわかっているつもりの子爵が、普通の娘なら泣きべそをかいても仕方ない状況だと察して、それでも私がまったく気に病んではいないことに感心している。
実は前世ではアラサーでしたし、男社会でセクハラ、パワハラ紛いの扱いは受けているから慣れてます。とは言えないので
「そうですね」
とだけ答えた。
「技や体力だけでなく心まで鍛えるとは……指導者として欲しいものだ」
子爵の中で師匠の株がぐんと上がった。
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