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200 後味の悪い勝利
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「何をしている!さっさと自分の持ち場に戻れ!さぼっている者に給金をやれんぞ!」
使用人たちが仕事の手を止めて見物していたことに気づいた侯爵が一喝した。蜘蛛の子を散らすように皆が立ち去るのを待って中庭とテラスの境目で待つ私たちに向き直った。
「さて………」
机を指先でトントンと叩き、クラウス、私、ミレーヌ嬢へと順番に視線を動かす。
「クラウス……お前には失望した。女相手に手こずるだけでなく負けるとは……そんな人間に我が家の護衛主任を任せておくことはできん。お前はクビだ」
「そんな!旦那様!話が違います。楽に勝てるからとおっしゃったのは旦那様です」
「黙れ!いくら私がそう言っても、真剣にやらなかったお前が悪い!最初は油断したからと言って、結果実力が及ばなかったのは事実だ」
「ぐ!」
「今日までの給金はやる。エイダン、今日までの分を清算してとっととこいつを私の目の届かないところへ連れていけ!」
「……畏まりました」
側に仕えていた執事が気の毒そうな視線をクラウスに向けて、すぐに視線を逸らすと「こちらへ」とクラウスを促す。
解雇を宣言されクラウスは、納得できずにすぐには動かない。
「何をしている!命令を訊かずに居座るなら何もやらんぞ!」
そう言われてクラウスは歯ぎしりをして血管が浮き出るほどきつく拳を握りしめる。
「どうした。耳も聞こえなくなったか?」
侯爵の言葉にクラウスは押し黙って下を向く。
「エイダン……戻ってこい。金もいらないようだ」
「わかりました!出て行きます」
「……だそうだ、エイダン……計算してやれ。ところで、ミレーヌ!お前には見張りを付けていただろう。やつらはお前を取り押さえていなかったのか?」
「あの………クラウスが負けたのを見て驚いたのか腕が緩んだので、振り切ってきました」
「まったく、役に立たないやつらばかりだ。エイダン、そついつらもクビだ。二人がかりでミレーヌを捕まえておくこともできんのか」
執事は礼をして「畏まりました」と言い、クラウスはこちらをぎっと睨み付け、執事の後をついていった。
「往生際の悪いやつだ」
立ち去る護衛主任の後ろ姿に侯爵が吐き捨てるように言う。
勝負をした私としてはまさか解雇されるとは思わず後味の悪いものになった。
使用人たちが仕事の手を止めて見物していたことに気づいた侯爵が一喝した。蜘蛛の子を散らすように皆が立ち去るのを待って中庭とテラスの境目で待つ私たちに向き直った。
「さて………」
机を指先でトントンと叩き、クラウス、私、ミレーヌ嬢へと順番に視線を動かす。
「クラウス……お前には失望した。女相手に手こずるだけでなく負けるとは……そんな人間に我が家の護衛主任を任せておくことはできん。お前はクビだ」
「そんな!旦那様!話が違います。楽に勝てるからとおっしゃったのは旦那様です」
「黙れ!いくら私がそう言っても、真剣にやらなかったお前が悪い!最初は油断したからと言って、結果実力が及ばなかったのは事実だ」
「ぐ!」
「今日までの給金はやる。エイダン、今日までの分を清算してとっととこいつを私の目の届かないところへ連れていけ!」
「……畏まりました」
側に仕えていた執事が気の毒そうな視線をクラウスに向けて、すぐに視線を逸らすと「こちらへ」とクラウスを促す。
解雇を宣言されクラウスは、納得できずにすぐには動かない。
「何をしている!命令を訊かずに居座るなら何もやらんぞ!」
そう言われてクラウスは歯ぎしりをして血管が浮き出るほどきつく拳を握りしめる。
「どうした。耳も聞こえなくなったか?」
侯爵の言葉にクラウスは押し黙って下を向く。
「エイダン……戻ってこい。金もいらないようだ」
「わかりました!出て行きます」
「……だそうだ、エイダン……計算してやれ。ところで、ミレーヌ!お前には見張りを付けていただろう。やつらはお前を取り押さえていなかったのか?」
「あの………クラウスが負けたのを見て驚いたのか腕が緩んだので、振り切ってきました」
「まったく、役に立たないやつらばかりだ。エイダン、そついつらもクビだ。二人がかりでミレーヌを捕まえておくこともできんのか」
執事は礼をして「畏まりました」と言い、クラウスはこちらをぎっと睨み付け、執事の後をついていった。
「往生際の悪いやつだ」
立ち去る護衛主任の後ろ姿に侯爵が吐き捨てるように言う。
勝負をした私としてはまさか解雇されるとは思わず後味の悪いものになった。
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