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189 カーマリング侯爵家の事情
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侍女たちがお茶やお菓子、軽食をテーブルに並べている間、三人はずっと黙ったままだった。
何故アンジェリーナ様(私も頭数に入っている?)だけが呼ばれたのかその真意が読めず、私達は全身に緊張を走らせる。
侍女がお茶を茶器に注いでいると、邸の中から慌ただしい足音と騒がしい声が聞こえてきた。
「……ください!……様っ」
何事かと背後を振り返った私とアンジェリーナ様の目の前でバァンと扉が大きな音を立てて開いた。
「お嬢様!!」
「うるさいっ!!」
大きな音を立てて現れたのは赤みかかった金髪をポニーテールにし、シャツと細身の黒皮のズボンという格好をした少女だった。
いきなり現れた少女に唖然としていると、後ろからようやく追い付いた侍女がはあはあといいながら少女にすがり付いた。
「……ミレー………ミレーヌ……さま……お、お待ち……ください」
「ミレーヌ!突然何ですか!お客様に失礼ですよ!」
夫人が少女に叱責する。
「………すいません、お母様」
ミレーヌと呼ばれた少女は謝るものの、その視線は夫人ではなく私に注がれている。
お母様……と、彼女は侯爵夫人にそう言った。
と、いうことは彼女は侯爵令嬢?
つかつかと歩みを進めた少女は私のすぐ前で足を止めて頭から爪先まで眺めまわす。
「………まるであなたのミニチュアね」
アンジェリーナ様が思わず洩らした。
瞳は翡翠色だが、髪の色は私と同じくらい。
その出で立ちだけを見れば確かにそうとも言えるが。
「あなたが噂の男装の御仁?」
「お客様にきちんと挨拶もなしにじろじろと見るなど失礼ですよ」
「あ………」
母親に言われて彼女は手前に座るアンジェリーナ様に初めて気づいたように驚く。
登場は乱暴だったが貴族の令嬢らしく恥じらいを見せ、母親の側にすり寄るように移動した。
「お見苦しいところをお見せしてしまって。改めて紹介します。娘のミレーヌです。ミレーヌ、こちらハレス子爵夫人のアンジェリーナ様です」
「ミレーヌです。初めまして」
紹介されて彼女はアンジェリーナ様に向き合い、挨拶する。
「アンジェリーナ・ハレスです。初めまして」
勢いのある侯爵令嬢の登場に戸惑いつつもアンジェリーナ様も挨拶を交わす。
「それからこちらが、子爵夫人の付き添いのローリィ・ハインツさん」
夫人は苦々しそうに私を娘に紹介する。
「よろしく、ローリィ」
「よろしくお願いいたします」
紹介が終わり、三人が再び椅子に腰を下ろす。
侍女が溢れたお茶を片付け、新たなお茶を注いで主とその娘、招待客のアンジェリーナ様の前に茶器を置いていく。
「先ほどは娘が不躾な振る舞いをして申し訳ございません。このような無礼な娘に育てたつもりはないのですが、どこでどう間違ったのか……」
「お母様、私は……」
「黙りなさい!人の話の腰を折ることも充分失礼なことなのですよ!年が明けたらすぐに社交界へ出るというのに、またおしおきされたいのですか!」
ぴしりと夫人が娘の手の甲を叩く。
叩かれた彼女は恨みがましく母親を見た。
「あなたのせいですよ、ローリィさん」
娘の反抗的な目を見据えてから夫人が私に非難めいた視線を向けてきた。
「わ、私の………?」
「侯爵夫人……それはどういう……」
急な話の展開についていけず、アンジェリーナ様も思わず訊ねた。
何故アンジェリーナ様(私も頭数に入っている?)だけが呼ばれたのかその真意が読めず、私達は全身に緊張を走らせる。
侍女がお茶を茶器に注いでいると、邸の中から慌ただしい足音と騒がしい声が聞こえてきた。
「……ください!……様っ」
何事かと背後を振り返った私とアンジェリーナ様の目の前でバァンと扉が大きな音を立てて開いた。
「お嬢様!!」
「うるさいっ!!」
大きな音を立てて現れたのは赤みかかった金髪をポニーテールにし、シャツと細身の黒皮のズボンという格好をした少女だった。
いきなり現れた少女に唖然としていると、後ろからようやく追い付いた侍女がはあはあといいながら少女にすがり付いた。
「……ミレー………ミレーヌ……さま……お、お待ち……ください」
「ミレーヌ!突然何ですか!お客様に失礼ですよ!」
夫人が少女に叱責する。
「………すいません、お母様」
ミレーヌと呼ばれた少女は謝るものの、その視線は夫人ではなく私に注がれている。
お母様……と、彼女は侯爵夫人にそう言った。
と、いうことは彼女は侯爵令嬢?
つかつかと歩みを進めた少女は私のすぐ前で足を止めて頭から爪先まで眺めまわす。
「………まるであなたのミニチュアね」
アンジェリーナ様が思わず洩らした。
瞳は翡翠色だが、髪の色は私と同じくらい。
その出で立ちだけを見れば確かにそうとも言えるが。
「あなたが噂の男装の御仁?」
「お客様にきちんと挨拶もなしにじろじろと見るなど失礼ですよ」
「あ………」
母親に言われて彼女は手前に座るアンジェリーナ様に初めて気づいたように驚く。
登場は乱暴だったが貴族の令嬢らしく恥じらいを見せ、母親の側にすり寄るように移動した。
「お見苦しいところをお見せしてしまって。改めて紹介します。娘のミレーヌです。ミレーヌ、こちらハレス子爵夫人のアンジェリーナ様です」
「ミレーヌです。初めまして」
紹介されて彼女はアンジェリーナ様に向き合い、挨拶する。
「アンジェリーナ・ハレスです。初めまして」
勢いのある侯爵令嬢の登場に戸惑いつつもアンジェリーナ様も挨拶を交わす。
「それからこちらが、子爵夫人の付き添いのローリィ・ハインツさん」
夫人は苦々しそうに私を娘に紹介する。
「よろしく、ローリィ」
「よろしくお願いいたします」
紹介が終わり、三人が再び椅子に腰を下ろす。
侍女が溢れたお茶を片付け、新たなお茶を注いで主とその娘、招待客のアンジェリーナ様の前に茶器を置いていく。
「先ほどは娘が不躾な振る舞いをして申し訳ございません。このような無礼な娘に育てたつもりはないのですが、どこでどう間違ったのか……」
「お母様、私は……」
「黙りなさい!人の話の腰を折ることも充分失礼なことなのですよ!年が明けたらすぐに社交界へ出るというのに、またおしおきされたいのですか!」
ぴしりと夫人が娘の手の甲を叩く。
叩かれた彼女は恨みがましく母親を見た。
「あなたのせいですよ、ローリィさん」
娘の反抗的な目を見据えてから夫人が私に非難めいた視線を向けてきた。
「わ、私の………?」
「侯爵夫人……それはどういう……」
急な話の展開についていけず、アンジェリーナ様も思わず訊ねた。
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