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188 不審なお茶会
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「こちらへどうぞ」
アンジェリーナ様と共に最終的に案内されたのは中庭に面したテラスだった。
白いテーブルクロスのかかった丸いテーブルには中央に鮮やかな花が飾られている。
そこに一人の女性がこちらを向いて座っていて、私たちを見て立ち上がった。
艶やかな金髪を後ろで束ね、長い睫毛に縁取られたアーモンド型の宝玉のような翡翠の瞳。白磁の肌はシミひとつない。
瞳の色に良く似たドレスに身を包み、すっと立つその女性は紛れもなく正統派貴婦人だった。
「お招きいただきありがとうございます。侯爵夫人」
ドレスの裾を持ち上げお辞儀をしてアンジェリーナ様が挨拶をする。
侯爵夫人は事前の情報では四十代半ばと言うことだったが、三十代後半でも通るほどに若く見えた。
隣で私もアンジェリーナ様より角度をつけて黙ってお辞儀をした。
「ようこそ、ハレス夫人。夜会では何度かお会いしておりますが、こうやってお招きするのは初めてですわね」
そう言って夫人はアンジェリーナ様から私に視線を移す。
「あなたが噂の護衛の方ね」
「ローリィ・ハインツと言います」
私に代わってアンジェリーナ様が答える。
夫人は何故か私を見て僅かに眉根を寄せる。
「それで、あの子は?」
夫人が私たちを案内してくれた侍女に何やら耳打ちするのが聞こえた。
「先ほどお部屋に」
「そう。呼んできてもらえるかしら?」
「畏まりました」
侍女がその場を立ち去ると、夫人は再びこちらを向いた。
「ごめんなさい。どうぞおかけになって」
夫人が始めに自分が座っていた椅子と反対側の椅子をアンジェリーナ様に勧めた。
「あなたもここに居てください」
アンジェリーナ様が席についたタイミングで二人から距離を取ろうとした私に夫人が呼び止めた。
「………ですが………」
ご婦人がたの会話が聞こえそうで聞こえない位置に下がるのがいつもの私の立ち位置だ。
それを夫人が呼び止め、更にはアンジェリーナ様の隣の椅子に私を促した。
「おっしゃるとおりに」
アンジェリーナ様にそう言われ、私はアンジェリーナ様の後ろに控えた。
「ところで、他の皆様は?」
玄関に他の招待客の馬車がなかったのは、早く着きすぎたのだろうと思った。
だが、案内されたテラスにはテーブルがひとつ。椅子も四脚しか用意されていない。
どうみても他の招待客がいるようには見えない。
「皆様は………ご都合が悪かったようですわ」
それが真実でないことは私もアンジェリーナ様もわかっていた。
侯爵家から招待を受けて断れる地位にある人がそれほどいるとは思えない。
はじめから他の人は呼ばれていなかったのだろう。
先ほどとは違う侍女二人がワゴンを押してやって来たのを横目で意識しながら、私はアンジェリーナ様と顔を見合わせた。
アンジェリーナ様と共に最終的に案内されたのは中庭に面したテラスだった。
白いテーブルクロスのかかった丸いテーブルには中央に鮮やかな花が飾られている。
そこに一人の女性がこちらを向いて座っていて、私たちを見て立ち上がった。
艶やかな金髪を後ろで束ね、長い睫毛に縁取られたアーモンド型の宝玉のような翡翠の瞳。白磁の肌はシミひとつない。
瞳の色に良く似たドレスに身を包み、すっと立つその女性は紛れもなく正統派貴婦人だった。
「お招きいただきありがとうございます。侯爵夫人」
ドレスの裾を持ち上げお辞儀をしてアンジェリーナ様が挨拶をする。
侯爵夫人は事前の情報では四十代半ばと言うことだったが、三十代後半でも通るほどに若く見えた。
隣で私もアンジェリーナ様より角度をつけて黙ってお辞儀をした。
「ようこそ、ハレス夫人。夜会では何度かお会いしておりますが、こうやってお招きするのは初めてですわね」
そう言って夫人はアンジェリーナ様から私に視線を移す。
「あなたが噂の護衛の方ね」
「ローリィ・ハインツと言います」
私に代わってアンジェリーナ様が答える。
夫人は何故か私を見て僅かに眉根を寄せる。
「それで、あの子は?」
夫人が私たちを案内してくれた侍女に何やら耳打ちするのが聞こえた。
「先ほどお部屋に」
「そう。呼んできてもらえるかしら?」
「畏まりました」
侍女がその場を立ち去ると、夫人は再びこちらを向いた。
「ごめんなさい。どうぞおかけになって」
夫人が始めに自分が座っていた椅子と反対側の椅子をアンジェリーナ様に勧めた。
「あなたもここに居てください」
アンジェリーナ様が席についたタイミングで二人から距離を取ろうとした私に夫人が呼び止めた。
「………ですが………」
ご婦人がたの会話が聞こえそうで聞こえない位置に下がるのがいつもの私の立ち位置だ。
それを夫人が呼び止め、更にはアンジェリーナ様の隣の椅子に私を促した。
「おっしゃるとおりに」
アンジェリーナ様にそう言われ、私はアンジェリーナ様の後ろに控えた。
「ところで、他の皆様は?」
玄関に他の招待客の馬車がなかったのは、早く着きすぎたのだろうと思った。
だが、案内されたテラスにはテーブルがひとつ。椅子も四脚しか用意されていない。
どうみても他の招待客がいるようには見えない。
「皆様は………ご都合が悪かったようですわ」
それが真実でないことは私もアンジェリーナ様もわかっていた。
侯爵家から招待を受けて断れる地位にある人がそれほどいるとは思えない。
はじめから他の人は呼ばれていなかったのだろう。
先ほどとは違う侍女二人がワゴンを押してやって来たのを横目で意識しながら、私はアンジェリーナ様と顔を見合わせた。
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