上 下
189 / 266

187 妹と弟

しおりを挟む
なかなか専念する時間がとれなくて更新が遅れてすいません。
◇◇◇◇◇◇


子爵の帰宅を待ってまずアンジェリーナ様が事情を説明し、その後私が書斎に呼ばれた。

書斎の書き物机に座った子爵が指し示したアンジェリーナ様が座るソファの向かいに腰を降ろした。

「経緯はアンジェリーナから聞いた。結論から言えば、カーマリング侯爵は難しい相手だが、我々が警戒している相手ではない」

国王陛下や宰相閣下がフィリップ司祭たちの協力者ではなかろうかと推察している人物がいることは聞いていた。
それがカーマリング侯爵かどうか疑っていたのだが、それを子爵は否定した。

「だが……」

安心した顔を見せた私に子爵が付け加える。

「裏で繋がっている可能性もあるし、今そうではないからと言ってこの先も関係ないとは言いきれない。用心はしておくべきだろう。アンジェリーナにも言ったが、侯爵家からの招待を我が家が理由なく断ることはできない」

「わかっています」

「このことは明日、ジークにも伝えておく。それにしても……君のその人気はどういうものなのだろうな。我が家でドルグランと剣の稽古をした際もそうだったが、男の私にはさっぱりわからない。きちんとドレスを着たところを見たことがないからわからないが、アンジェリーナと同じような格好をしても美人は美人なのだろうが」

店でのことも聞いているのか、子爵はしみじみと私を見て呟いた。

「物珍しがられているだけなのかもしれません」

日本でも男装した女性が舞台俳優として活躍する歌劇団もあった。
逆に男性が女装する演劇もあった。
それに熱狂する人がいたのだから、そういう意味で私を見ている人がいるのかもしれない。
確かに女としては背が高く、武芸のせいでそこそこ精悍な体つきはしていると思う。少しつり上がった目も凛々しく見えてしまうのだろうか。

「私は夫であるあなたをもちろん愛していますわ。でも現実的に夫としてあなたを愛するのとローリィを可愛がるのは別のこと。なぜ、と訊ねられるとうまく言えないのだけれど……本当の恋愛とは違う非現実な疑似恋愛とでも言うのかしら、自分にない魅力を彼女に感じているのでしょうね」

妻に愛していると言われ子爵が少し照れて咳払いする。

「ローリィが……女性から好意を持たれているのはわかった。カーマリング侯爵夫人もその点で好奇心を持たれて今回の招待に至ったのなら、それはそれで侯爵と新たな関係を築くきっかけになればいいが」

「そんなに上手くいくでしょうか」

「そんなに気負う必要はない。今回は夫人からの招待だ。侯爵本人が関わっているかも知れないが、茶会はあくまで当主不在で行われるもの。もちろん、侯爵の意に添わない相手を招待することはしないだろうから、そこは無関係とは言えないだろうが」

「フィリップ司祭やグスタフと関係ないならいいのです」

「キルヒライル様だが、もう暫くは公の席には姿を現さないつもりらしい」

ハレス子爵が急に話題を変えた。

「もうお体の具合はよろしいのですか?」

「これは秘密だが、修練は続けておられるそうだ」

そこまで調子が戻っていると聞いて私は素直に喜んだ。

もうひと月、キルヒライル様とはお会いしていない。
会いたい気持ちは募るが、それを子爵たちの前で言うこともできない。同じ街に居るのにとても遠くにいる気がする。

「セイリオ殿下の血筋と言うフィリップとその弟や側にいるだろうグスタフたちのことについて、今のところ情報は殆どない。だが、彼らが王位を狙っているならいずれ動きがある筈だと思っている」

「おおよその、目星はついているのですか?その、フィリップ司祭たちを匿っている人物に…」

訊いていいのかわからずこれまで訊けずにいたことを口にした。
カーマリング侯爵はその人物ではないと子爵はおっしゃった。

「何人かは……だが表だって陛下に反意がある者とは限らない。絞りこむのにはもう少しかかるだろう。この程度しか今は言えない。はっきり断定できるまで暫くは旧知の方々以外の接触は控えて欲しい」

「わかりましたわ」

アンジェリーナ様が頷く。

「君も窮屈だろうが」

子爵が私に向き合って申し訳なさそうにおっしゃった。

「いいえ……まるっきり引きこもっているわけでもありませんし、とても良くしていただいております」

親というよりは兄夫婦のような気持ちで慕っていると言えば失礼になるだろうか。

「遠慮はしないで。私はあなたが側に居て妹と弟の両方ができたみたいで楽しいから」

その表現に子爵は複雑な顔をした。

「……変な男にうつつを抜かすよりはましか」


しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...