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187 妹と弟
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なかなか専念する時間がとれなくて更新が遅れてすいません。
◇◇◇◇◇◇
子爵の帰宅を待ってまずアンジェリーナ様が事情を説明し、その後私が書斎に呼ばれた。
書斎の書き物机に座った子爵が指し示したアンジェリーナ様が座るソファの向かいに腰を降ろした。
「経緯はアンジェリーナから聞いた。結論から言えば、カーマリング侯爵は難しい相手だが、我々が警戒している相手ではない」
国王陛下や宰相閣下がフィリップ司祭たちの協力者ではなかろうかと推察している人物がいることは聞いていた。
それがカーマリング侯爵かどうか疑っていたのだが、それを子爵は否定した。
「だが……」
安心した顔を見せた私に子爵が付け加える。
「裏で繋がっている可能性もあるし、今そうではないからと言ってこの先も関係ないとは言いきれない。用心はしておくべきだろう。アンジェリーナにも言ったが、侯爵家からの招待を我が家が理由なく断ることはできない」
「わかっています」
「このことは明日、ジークにも伝えておく。それにしても……君のその人気はどういうものなのだろうな。我が家でドルグランと剣の稽古をした際もそうだったが、男の私にはさっぱりわからない。きちんとドレスを着たところを見たことがないからわからないが、アンジェリーナと同じような格好をしても美人は美人なのだろうが」
店でのことも聞いているのか、子爵はしみじみと私を見て呟いた。
「物珍しがられているだけなのかもしれません」
日本でも男装した女性が舞台俳優として活躍する歌劇団もあった。
逆に男性が女装する演劇もあった。
それに熱狂する人がいたのだから、そういう意味で私を見ている人がいるのかもしれない。
確かに女としては背が高く、武芸のせいでそこそこ精悍な体つきはしていると思う。少しつり上がった目も凛々しく見えてしまうのだろうか。
「私は夫であるあなたをもちろん愛していますわ。でも現実的に夫としてあなたを愛するのとローリィを可愛がるのは別のこと。なぜ、と訊ねられるとうまく言えないのだけれど……本当の恋愛とは違う非現実な疑似恋愛とでも言うのかしら、自分にない魅力を彼女に感じているのでしょうね」
妻に愛していると言われ子爵が少し照れて咳払いする。
「ローリィが……女性から好意を持たれているのはわかった。カーマリング侯爵夫人もその点で好奇心を持たれて今回の招待に至ったのなら、それはそれで侯爵と新たな関係を築くきっかけになればいいが」
「そんなに上手くいくでしょうか」
「そんなに気負う必要はない。今回は夫人からの招待だ。侯爵本人が関わっているかも知れないが、茶会はあくまで当主不在で行われるもの。もちろん、侯爵の意に添わない相手を招待することはしないだろうから、そこは無関係とは言えないだろうが」
「フィリップ司祭やグスタフと関係ないならいいのです」
「キルヒライル様だが、もう暫くは公の席には姿を現さないつもりらしい」
ハレス子爵が急に話題を変えた。
「もうお体の具合はよろしいのですか?」
「これは秘密だが、修練は続けておられるそうだ」
そこまで調子が戻っていると聞いて私は素直に喜んだ。
もうひと月、キルヒライル様とはお会いしていない。
会いたい気持ちは募るが、それを子爵たちの前で言うこともできない。同じ街に居るのにとても遠くにいる気がする。
「セイリオ殿下の血筋と言うフィリップとその弟や側にいるだろうグスタフたちのことについて、今のところ情報は殆どない。だが、彼らが王位を狙っているならいずれ動きがある筈だと思っている」
「おおよその、目星はついているのですか?その、フィリップ司祭たちを匿っている人物に…」
訊いていいのかわからずこれまで訊けずにいたことを口にした。
カーマリング侯爵はその人物ではないと子爵はおっしゃった。
「何人かは……だが表だって陛下に反意がある者とは限らない。絞りこむのにはもう少しかかるだろう。この程度しか今は言えない。はっきり断定できるまで暫くは旧知の方々以外の接触は控えて欲しい」
「わかりましたわ」
アンジェリーナ様が頷く。
「君も窮屈だろうが」
子爵が私に向き合って申し訳なさそうにおっしゃった。
「いいえ……まるっきり引きこもっているわけでもありませんし、とても良くしていただいております」
親というよりは兄夫婦のような気持ちで慕っていると言えば失礼になるだろうか。
「遠慮はしないで。私はあなたが側に居て妹と弟の両方ができたみたいで楽しいから」
その表現に子爵は複雑な顔をした。
「……変な男にうつつを抜かすよりはましか」
◇◇◇◇◇◇
子爵の帰宅を待ってまずアンジェリーナ様が事情を説明し、その後私が書斎に呼ばれた。
書斎の書き物机に座った子爵が指し示したアンジェリーナ様が座るソファの向かいに腰を降ろした。
「経緯はアンジェリーナから聞いた。結論から言えば、カーマリング侯爵は難しい相手だが、我々が警戒している相手ではない」
国王陛下や宰相閣下がフィリップ司祭たちの協力者ではなかろうかと推察している人物がいることは聞いていた。
それがカーマリング侯爵かどうか疑っていたのだが、それを子爵は否定した。
「だが……」
安心した顔を見せた私に子爵が付け加える。
「裏で繋がっている可能性もあるし、今そうではないからと言ってこの先も関係ないとは言いきれない。用心はしておくべきだろう。アンジェリーナにも言ったが、侯爵家からの招待を我が家が理由なく断ることはできない」
「わかっています」
「このことは明日、ジークにも伝えておく。それにしても……君のその人気はどういうものなのだろうな。我が家でドルグランと剣の稽古をした際もそうだったが、男の私にはさっぱりわからない。きちんとドレスを着たところを見たことがないからわからないが、アンジェリーナと同じような格好をしても美人は美人なのだろうが」
店でのことも聞いているのか、子爵はしみじみと私を見て呟いた。
「物珍しがられているだけなのかもしれません」
日本でも男装した女性が舞台俳優として活躍する歌劇団もあった。
逆に男性が女装する演劇もあった。
それに熱狂する人がいたのだから、そういう意味で私を見ている人がいるのかもしれない。
確かに女としては背が高く、武芸のせいでそこそこ精悍な体つきはしていると思う。少しつり上がった目も凛々しく見えてしまうのだろうか。
「私は夫であるあなたをもちろん愛していますわ。でも現実的に夫としてあなたを愛するのとローリィを可愛がるのは別のこと。なぜ、と訊ねられるとうまく言えないのだけれど……本当の恋愛とは違う非現実な疑似恋愛とでも言うのかしら、自分にない魅力を彼女に感じているのでしょうね」
妻に愛していると言われ子爵が少し照れて咳払いする。
「ローリィが……女性から好意を持たれているのはわかった。カーマリング侯爵夫人もその点で好奇心を持たれて今回の招待に至ったのなら、それはそれで侯爵と新たな関係を築くきっかけになればいいが」
「そんなに上手くいくでしょうか」
「そんなに気負う必要はない。今回は夫人からの招待だ。侯爵本人が関わっているかも知れないが、茶会はあくまで当主不在で行われるもの。もちろん、侯爵の意に添わない相手を招待することはしないだろうから、そこは無関係とは言えないだろうが」
「フィリップ司祭やグスタフと関係ないならいいのです」
「キルヒライル様だが、もう暫くは公の席には姿を現さないつもりらしい」
ハレス子爵が急に話題を変えた。
「もうお体の具合はよろしいのですか?」
「これは秘密だが、修練は続けておられるそうだ」
そこまで調子が戻っていると聞いて私は素直に喜んだ。
もうひと月、キルヒライル様とはお会いしていない。
会いたい気持ちは募るが、それを子爵たちの前で言うこともできない。同じ街に居るのにとても遠くにいる気がする。
「セイリオ殿下の血筋と言うフィリップとその弟や側にいるだろうグスタフたちのことについて、今のところ情報は殆どない。だが、彼らが王位を狙っているならいずれ動きがある筈だと思っている」
「おおよその、目星はついているのですか?その、フィリップ司祭たちを匿っている人物に…」
訊いていいのかわからずこれまで訊けずにいたことを口にした。
カーマリング侯爵はその人物ではないと子爵はおっしゃった。
「何人かは……だが表だって陛下に反意がある者とは限らない。絞りこむのにはもう少しかかるだろう。この程度しか今は言えない。はっきり断定できるまで暫くは旧知の方々以外の接触は控えて欲しい」
「わかりましたわ」
アンジェリーナ様が頷く。
「君も窮屈だろうが」
子爵が私に向き合って申し訳なさそうにおっしゃった。
「いいえ……まるっきり引きこもっているわけでもありませんし、とても良くしていただいております」
親というよりは兄夫婦のような気持ちで慕っていると言えば失礼になるだろうか。
「遠慮はしないで。私はあなたが側に居て妹と弟の両方ができたみたいで楽しいから」
その表現に子爵は複雑な顔をした。
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