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182 王都の噂
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ロイシュタール国の王都ナダルで居を構える貴族たちの間でここ最近話題となっている事柄がいくつかある。
ひとつは王弟の病。
彼が自領の者に薬を飲まされたことは既に噂になっていた。
その後、領内の屋敷で王宮医師まで派遣されて治療をしていたが状態は芳しくなく、ついには王宮に戻り現在は治療を続けながらエリゼ宮に引きこもっているため、限られた者以外は面会できない。
エリゼ宮はかつて夫である国王を亡くして皇后となった王妃が住んでいた宮で、その王妃の名がエリゼと言った。
前王夫妻は既にこの世にいないため、現在は無人となっていた。
王宮内にあって、そこは隠居した皇后がごく少数の使用人で管理できるように比較的こじんまりとしている。
はっきりとした病名も発表されておらず、王弟の病状について公式に発表されていなめ命が危ないやら後遺症が重いなど色々な憶測だけが飛び交っている。
ふたつめは国王と王弟の不仲説。
仲の良い兄弟で有名だった二人だが、兄王が取った言動が弟の怒りを買い、今までにないくらいのケンカをしたという。
現在病気療養ということもあり王弟が引きこもっているため、今も兄弟ゲンカは膠着状態にあるらしい。
ケンカの原因については二人きりのときであったため、王妃すら知らされていないが、どうやら王弟の女性関係についてらしいという噂だった。
三つ目はどこかにジェスティア陛下の時代に失脚した王族の生き残りがいるという噂。
国王が密かに騎士団を動かし、行方を探しているとも、既に所在を突き止め監禁しているとも噂が広まっている。
現王の第一子であるルデリック王太子が王位継承の第一位となっている。その次が王弟キルヒライル殿下だが、彼は王位継承権を辞退しているので、その次に王位を継ぐ者は現在のところ誰もおらず、噂が真実ならその人物が王位継承上位者となる。
そして四つ目。
第二近衛騎士団副団長の奥方が最近護衛に雇ったという者のこと。
夫人が茶会や買い物に赴く際に必ず付き添う者が、最近貴族の奥方や令嬢たちの間で話題に上がっている。
護衛と言ってもそれは女性で、女性でありながら男装をし、それが様になっているとその姿を見た女性方から注目を集めている。
かつて夫人が参加した茶会で話をしていた男装の麗人だということで、今のところ子爵夫人が参加するこじんまりした茶会などにしか現れていないが、夫人が外出する際には必ず付き添ってくるため、その姿を人目見ようと夫人の元には茶会の招待状が殺到しているという。
「どなたからのご招待ですか?」
その日届いたいくつかの招待状をひとつひとつ確認していたハレス子爵夫人アンジェリーナ様の手が止まり、その差出人を見て固まった様子を見て私が訊ねた。
「………信じられない」
微かに声を震わせアンジェリーナ様が呟いた。
エドワルド公爵領から戻り、私はハレス子爵の邸で生活していた。
子爵夫妻とも面識があり、また、騎士団の要職に就くお方の邸宅であれば人手も多く警護もしっかりしているということもあった。
何よりアンジェリーナ様が諸手を上げて歓迎してくれた。
ここで私の王都での新たな生活が始まっていた。
ひとつは王弟の病。
彼が自領の者に薬を飲まされたことは既に噂になっていた。
その後、領内の屋敷で王宮医師まで派遣されて治療をしていたが状態は芳しくなく、ついには王宮に戻り現在は治療を続けながらエリゼ宮に引きこもっているため、限られた者以外は面会できない。
エリゼ宮はかつて夫である国王を亡くして皇后となった王妃が住んでいた宮で、その王妃の名がエリゼと言った。
前王夫妻は既にこの世にいないため、現在は無人となっていた。
王宮内にあって、そこは隠居した皇后がごく少数の使用人で管理できるように比較的こじんまりとしている。
はっきりとした病名も発表されておらず、王弟の病状について公式に発表されていなめ命が危ないやら後遺症が重いなど色々な憶測だけが飛び交っている。
ふたつめは国王と王弟の不仲説。
仲の良い兄弟で有名だった二人だが、兄王が取った言動が弟の怒りを買い、今までにないくらいのケンカをしたという。
現在病気療養ということもあり王弟が引きこもっているため、今も兄弟ゲンカは膠着状態にあるらしい。
ケンカの原因については二人きりのときであったため、王妃すら知らされていないが、どうやら王弟の女性関係についてらしいという噂だった。
三つ目はどこかにジェスティア陛下の時代に失脚した王族の生き残りがいるという噂。
国王が密かに騎士団を動かし、行方を探しているとも、既に所在を突き止め監禁しているとも噂が広まっている。
現王の第一子であるルデリック王太子が王位継承の第一位となっている。その次が王弟キルヒライル殿下だが、彼は王位継承権を辞退しているので、その次に王位を継ぐ者は現在のところ誰もおらず、噂が真実ならその人物が王位継承上位者となる。
そして四つ目。
第二近衛騎士団副団長の奥方が最近護衛に雇ったという者のこと。
夫人が茶会や買い物に赴く際に必ず付き添う者が、最近貴族の奥方や令嬢たちの間で話題に上がっている。
護衛と言ってもそれは女性で、女性でありながら男装をし、それが様になっているとその姿を見た女性方から注目を集めている。
かつて夫人が参加した茶会で話をしていた男装の麗人だということで、今のところ子爵夫人が参加するこじんまりした茶会などにしか現れていないが、夫人が外出する際には必ず付き添ってくるため、その姿を人目見ようと夫人の元には茶会の招待状が殺到しているという。
「どなたからのご招待ですか?」
その日届いたいくつかの招待状をひとつひとつ確認していたハレス子爵夫人アンジェリーナ様の手が止まり、その差出人を見て固まった様子を見て私が訊ねた。
「………信じられない」
微かに声を震わせアンジェリーナ様が呟いた。
エドワルド公爵領から戻り、私はハレス子爵の邸で生活していた。
子爵夫妻とも面識があり、また、騎士団の要職に就くお方の邸宅であれば人手も多く警護もしっかりしているということもあった。
何よりアンジェリーナ様が諸手を上げて歓迎してくれた。
ここで私の王都での新たな生活が始まっていた。
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