転生して要人警護やってます

七夜かなた

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180 夜の庭で

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さやさやと吹く風に木の葉が擦れる音に混じって自分の呼吸がいやに大きく聞こえる。

「私は大丈夫です。あちらに羽織っていたブランケットが………これでは殿下が風邪を……」

殿下の背後にあるブランケットを指差し、慌てて外套を外そうとする私を、殿下は手で制して立ち上がってブランケットを取りに行ってくれた。

「いい香りがするな」

拾い上げたブランケットについた埃を払った殿下がそう言って顔を近づけ、そのまま正面で向かい合った自分と私に巻き付ける。

「こうすれば、もっと暖かい」

「で………殿下」

それほど大きくもないブランケットで二人を包むには無理がある。
実際、私と殿下の間には殆ど隙間がない。
胸の前で腕を交差し、かろうじて僅かな距離を保つ。
一気に体温が上がった気がする。
先ほど殿下を賊と間違えて攻撃した興奮もあって汗ばむ程だが、殿下を押し退けるわけにもいかない。

「王宮に一旦戻ろうと思う」

困惑している私の耳のすぐ横で殿下が囁く。

「……いつ、戻られるのですか」

くすぐったさに顔を上げることが出来ず、殿下の鎖骨あたりを見つめながら訊ねる。

グスタフやフィリップ司祭たちが王都に行ったらしいと聞いてから、何となくそんな気がしていた。

「明日、あさってのうちには………顔役たちの処遇を確認してフィリップの仲間を護送する手筈や諸々の後処理は警羅隊長やネヴィルに任せて……その代わりネヴィルだけでは大変だろうから、もう一人誰かを手配してもらうよう頼んだ」

すでに王都へ戻るための準備を始めているようだ。

「都に帰る前に見ておこうと、先ほど教会に行ってみた……まだ表だって歩くわけには行かないからな………何か警羅の者たちでは気づかない手掛かりがあるのではと思って」

「もう、お加減はよろしいのですか?」

書斎で倒れられた時のことを思いだし訊ねる。
今日一日も殆ど起き上がっていたので、ずいぶん良くなってきてはいるとは思う。

「アリアーデのくれる薬が効いたようだ。頭もずいぶんはっきりしてきている」

「それをうかがって安心しました。それで何か見つかりましたか」

うつ向いていても殿下は黙って首を振るのがわかった。

「めぼしいものは何も。私物も何もかも残されていなかった」

それは予想していたことだったのか、特に落胆しているようには聞こえない。

「お父上のことは………残念だった」

「……先ほどは申し訳ありませんでした。完全に八つ当たりです」

「……気持ちはわかる。犯人らしき者がわかったのに肝心の相手がどこかへ行ってしまったのだから………」

「怒っておられないのですか?」

「怒る?どうして………」

「なんだかあの時……そんな気がして……」

「そなたが………気にすることはない。あれは、私の勝手な感情だ。いきなり父親の命を奪われて悲しんでいたそなたの側に居てやれなかった」

「それは、殿下と知り合う前の話です。殿下が気になさることでは……」

「判っている……他人行儀だな………それも仕方ないか………一度そなたのことを忘れたのは私だ。もう名は呼んでくれないのか」

「殿下…………」

私はどう踏み込んでいいかわからなかった。
祭りの初日、殿下と気持ちを通じあったことを、殿下は思い出されたということだろうか。
今の状況だってそうだ。
単なる使用人に対してすることではない。

「……思い出されたのですか?」

無茶をして怒られたこともあった。いつから殿下が私に好意を寄せてくれていたのか……。
思いきって顔を上げた。

「……二人で襲ってた者たちを倒した後に抱き締めたこと………王宮で下履きが破れた踊り子にマントを貸したこと……ワイン娘の踊りや次の日のパレードでのこと………庭でのダンス……そして、そなたを特別に思っていること………」


明るい月の光に照らされ、彼の銀髪は淡く光を放っているように見え、濃紺の瞳は更に深みを増して濃くなる。

「私の記憶が間違っているなら、そう言ってくれ……同じとは言わないが、そなたも私に好意を持ってくれていたのではなかったか……?」

好意……その人を好ましく思う気持ち……

「…………間違って………いません」

小さい声でそう言う。すぐ側にいた彼には十分聞こえただろう。それは口角の上がった口元を見てわかった。





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