転生して要人警護やってます

七夜かなた

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176 人を隠すなら……

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教会を隠れ蓑にしていた彼らはあっさりとそこを捨ていなくなってしまった。

雲行きが怪しくなったから逃げたとも考えられるが、いつでも出ていくつもりだったのではないだろうか。

「ティモシーたちが目撃した殺しについてですが、あれはフィリップ司祭の指示ではなく、グスタフの勇み足だったようです。弟のマーティンまで巻き込んでと、フィリップ司祭ともめていたとも言っていました」

「……フィリップとマーティンは兄と弟……グスタフとは良好な関係とは言えないかも知れないな」

彼らの関係はただ互いの利害が一致しているときだけ協力しあう。そんな不安定なものなのかもしれない。

「セイリオ殿下の………」

アリアーデ先生が何か思い当たるのか呟く。

「…………例の病のことか?」

殿下も何か気づいたようだ。

「何か気になることがあるのですか?差し支えなければお伺いしても?」

王都の中枢にいる黒幕のことでは核心に触れることは許されなかった。
そのことを考えればそう訊ねるウィリアムさんの気持ちも理解できる。

「………殿下がお飲みになった薬の症状が私が読んだセイリオ殿下のかつての病状報告に酷似していました」

「つまり?」

「フィリップという司祭私は直接会ったことはありませんが、彼と弟のマーティンがセイリオ殿下の子孫だと言うことなら、もしかしたらセイリオ殿下も同じことをされたと言うことを主張したかったのでは、そう思ったのです」

「セイリオ殿下もキルヒライル殿下のように薬で具合が悪くなったと、それが何かの陰謀だと知らしめるために、同じ薬を飲ませようとした?」

「それならその薬を彼らはどうやって手に入れたか、誰がセイリオ殿下に薬を盛ったかまで探らなければいけなくなるな」

今起こっている問題だけでなく過去の王室内の問題も持ち上がり、正直お手上げの気分だ。

「それで、フィリップたちの行き先について心当たりは?」

「…恐らく王都に向かったのかと、そう申しておりました」

「王都……王都の何処に?」

殿下が訊ね、しかしクリスさんたちは残念そうに首を横に振る。

「王都の協力者についてはフィリップ司祭とマーティン、それにマヤという女だけしか知らないらしく、レベロたちも王都のどこかとしか………」

「王都の人口と広さはここの比ではない」

エドワルト公爵領の人口は十万。対して王都は約九百万。領土の広さも十倍近い。

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら……だな」

「例の殿下が仰った黒幕の所でしょうか」

「いきなり本人の邸ということはないだろう。それなりに隠れ家が用意されていると思っていい」

「グスタフのこともマーティンのことも手配書が回っているはず。簡単に王都にたどり着けるとは思えませんが」

「相手がそれなりに実力があって地位があるなら抜け道はいくらでもあるだろう」

王都へ入る門は時間外は厳重だが、一旦門が開いてしまえばそれこそ多くの人間が出入りする。門番たちがサボっているとは言わないが、きちんとした身分証や通行証があれば全ての積み荷を検分するようなことをして、王都に入ろうとする長蛇の列を待たせるわけにはいかない。
王都へ入るための検問を経験したのでわかる。
時間内にできるだけ早く多くの人を通すためには、時には検問も甘くなる。
王都と言えど、要塞ではない。今はどこの国とも争ってはおらず、交易も盛んだ。

王都でそれなりの権力を持った実力者が後ろ楯にあれば、難なく検問はすり抜けられるだろう。


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