転生して要人警護やってます

七夜かなた

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174 彼女のために

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再び鋼のぶつかり合う音がして窓の外を見ると、今度はエリックと打ち合うローリィの姿があった。

陽の光を受けて髪がきらきらと輝く。

彼女たちの打ち合いを見物しているマーサたちも見える。

彼女が闘うのを見たのは、初めてではない。

記憶の中の彼女は手に小型の武器を持ち敵に立ち向かっていた。

相手によって打ち合い方を変えているのか、それとも心境の違いか、先ほどとは少し勢いが違う。
それでも舞のように美しいと思った。
ウィリアムやエリックとのそれぞれの打ち合いを眺め、もともとの才能がどれほどあったとて、あそこまで腕をあげるために多くの時間を費やしてきたのだろうと考える。

彼女が何を思って伯爵令嬢という立場にありながら武術を極めようと思ったのか。
父親の死、王都への旅立ち、武術の腕、どれが欠けても、こうして彼女は自分の側に現れなかった。
アリアーデの言う運命論に賛同したわけではないが、違う形で出会ったとして、ここまで彼女に惹かれたかどうか。
綺麗なドレスを着て、化粧を施しただ綺麗な物に囲まれて育った令嬢なら、ここまで注目しなかったかもしれない。

昨夜、暗部の者からモリー嬢の拉致について報告を受け、どうやら彼女の替え玉がわざと拐われたようにするようだと聞いた時、その替え玉はローリィだとすぐわかった。

剣術を身に付けていないモリー嬢がそのまま連れ去られるよりは確かな方法だが、いくらローリィと言えども全く危険がないわけではない。

アリアーデの制止を振り切り、報告に来た暗部とともに屋敷を抜け出していた。

後を追っていた別の者と合流し、山の途中で待機していたエリックたちやフェリクスたちをやり過ごしてたどり着いた時にはすでに彼女は奴ら三人と刃を交えていた。

黙って見守るべきか迷ったが、気づけば背後から彼女を狙った男に矢を放っていた。

余計なことだったかもしれない。

今、上から彼女の動きを見ていると、あの矢がなくても彼女は状況を打破していたのではないか。

彼女の生い立ちがどうであれ、自分の護衛に推薦したハレス卿の見立ては正しかったと言える。

「大した腕前ですね」

隣で見ていたアリアーデが同じ事を口にする。

「実は夫は彼女の腕前について少し懐疑的な意見を持っています。いくらハレス卿の推薦でドルグランの弟子だと言っても、殿下の身の安全がかかっているのです。殿下の盾にもなり得ないのではと申しておりました」

「盾?私は誰も盾にするつもりはないぞ」

「わかっております。でも本気の打ち合いではないとは言え、素人の私でも彼女の身のこなしはなかなかのものだと思いますよ」

「そうか………」

そう呟くと、アリアーデが何を思ったのか急に吹き出した。

「…………何かおかしなことでも?」

「いえ、私は彼女の腕前を褒めたつもりだったのですが、殿下がまるで自分のことを褒められたように嬉しそうな顔をされておりましたので………」

アリアーデの指摘に思わず顔に手を持っていく。
ローリィのことを認められて、自分のことのように嬉しかったが、顔に出ていたことには気づかなかった。

「キルヒライル様のそのようなお顔が見れる日が来るとは思っておりませんでしたわ」

「そのような顔?」

窓に映る自分の表情を見て、今までと何が違うのかと思案する。

エリックとの打ち合いも終わり、マーサたちと何やら言葉を交わしている彼女が、不意にこちらを見上げた。

細かい表情はわからなかったが、彼女が僅かに頭を下げた。

「本気なのですね。でもお気をつけてください。キルヒライル様が彼女を大切に思っている程に、敵に弱味だと思われます」

「………わかっている」

大切なものは他にもある。兄や義理姉あね、甥や姪、国や国民も。
だがそれは自分でなくても護る存在はある。

武術が出来て、読み書きが出来て、女性ながら何故か同性からももてるという不思議な魅力を持った女性ひと

僅か十九才……色々な人の助けがあり、彼女は彼女の居場所を見つけてきた。

父の敵とも言える人物がわかったとは言え、相手はどこかへ姿を消した。

今、彼女はどんな気持ちでいるのだろう。

できれば、これからの時間とき、彼女のことを護れる自分でありたいと心から思う。

彼女の腕前を見る限り物理的には必要ないかも知れない。
「アリアーデ……」

彼女から目を離し、アリアーデを振り返る。

「はい、殿下」

「一度王都に、兄上に会いに戻ろうと思う」

「わかりました」

アリアーデが頷いた。


*******

一週間ほど、色々仕事で忙しく、更新が飛び飛びになるかもしれません。
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