転生して要人警護やってます

七夜かなた

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150 マッサージ

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私は皆を書斎に残し、用意をするため一旦自分の部屋と厨房に寄る必要があるからと言うことで、先にジャックさんたちには殿下の寝室へと行ってもらった。

部屋に戻って荷物の中から香油を取り出す。前回はクリームを使ったが、ここは葡萄の産地。葡萄の種から抽出したオイルが手に入り、即席だが簡単なマッサージオイルを作っていた。乾燥したハーブをオイルに浸したエッセンスを混ぜた。今回はラベンダーを使う。蒸しタオルの準備をするため厨房に向かいながら、祭りが終わったらまたマッサージを……と言っていた殿下の言葉を思い出していた。

思っていた展開とは違うが、言葉通りにマッサージをすることになったことが何だか不思議な気分だ。

香油、蒸しタオル、乾いたタオル、お湯の入った洗面器を持ち寝室へ向かった。

中に入ると既にそこにいた全員の視線が私に注がれた。

「椅子は使われますか?」

前回は始めに椅子に座っていただいたため、ジャックさんが訊いてくれた。

「いえ……上体を起こして座っていただければどこでも構いません」

寝台横の机に荷物を置き、お湯の入った洗面器に香油の入った瓶を入れて温めるのを皆がじっと見ているのがわかり、かなりやりにくい。

「マッサージ……というものは、彼女が?」

私の持ってきたものと私を見比べ、殿下が問いかける。

「これは何のために?」

すぐ横から私が持ってきたものを覗き込みながらアリアーデ先生が訊ねる。

少し振り返り、上目使いにこちらを見るアリアーデ先生と目が合う。

「さっきは挨拶できなくてごめんなさい。アリアーデよ」

気さくに名を告げ、握手のために手を差し出される。

この場合はお辞儀をして畏まるのが本来だが、伯爵令嬢の彼女に握手を求められ応えないわけにはいかない。少しためらった後に私も手を差し出す。

「ローリィと申します」

「よろしくね」

「……はい」

小柄な彼女は私の手を握り、観察するように私を見る。

「あの、これは蒸したタオルで、首筋に当てて温めると首筋の血管が開いて血が通いやすくなります。これは香油で、そのままマッサージすると肌に摩擦が起こるので滑りを良くするのと、香りが気持ちを和らげてくれます」

「血管……医療の知識もあるのね。香油は何のオイル?香油は何が入っているの?温めるのはどうして?」

「これはグレープシードオイル……葡萄の種から取ったオイルです。そこにラベンダーから取ったオイルを使っています。温めるのは香りを立たせるのと、冷たいと肌につけた時に驚いてしまいますから」

アリアーデ先生の質問にひとつひとつ答えながら私は蒸しタオルを殿下に差し出す。

「では、こちらに背を向けてこれを首にかけてください」

渡したタオルを受け取り、向きを変えて首にかける。

「熱すぎませんか?」

「……いや……大丈夫だ」

「では、今から肩や頭を揉みます」

私は殿下の肩に手を触れる。

食べることも億劫な程に疲れていた前回よりはまだいくらか凝りは軽かった。

肩を揉み、首筋は折り曲げた指の間接で軽くなぞっていく。頭の方も押して行くと、横からアリアーデ先生とホーク先生が物珍しげに見つめる。
お医者様二人はこれはどういう風に、これはどういう効果が、と色々気になって質問してくる。

そこまで専門的には答えられないので、多分……だと思います。とあやふやにしか答えられず何だか申し訳なかった。

「いかがですか?」

ひととおりの指圧を終えて訊ねると、殿下は何やら考え込むようにようにしている。

「どこか痛いところがありましたか?」

心配になって訊ねると、はっと殿下が物思いから我に返りこちらを見た。

暫くこちらを見つめ、何か考え込むようにしていたが、「………いや、大丈夫だ。問題ない」と、それだけ答える。

「じゃあ、次はオイルを使います。少しこちらへ移動してもらえますか?」

寝台の奥に移ってもらい、大判のタオルをそこに敷いた。

それから温めたオイルを手に広げる。いい具合に人肌に温まっている。

「では殿下……上の服を脱いでいただけますか」



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