151 / 266
150 マッサージ
しおりを挟む
私は皆を書斎に残し、用意をするため一旦自分の部屋と厨房に寄る必要があるからと言うことで、先にジャックさんたちには殿下の寝室へと行ってもらった。
部屋に戻って荷物の中から香油を取り出す。前回はクリームを使ったが、ここは葡萄の産地。葡萄の種から抽出したオイルが手に入り、即席だが簡単なマッサージオイルを作っていた。乾燥したハーブをオイルに浸したエッセンスを混ぜた。今回はラベンダーを使う。蒸しタオルの準備をするため厨房に向かいながら、祭りが終わったらまたマッサージを……と言っていた殿下の言葉を思い出していた。
思っていた展開とは違うが、言葉通りにマッサージをすることになったことが何だか不思議な気分だ。
香油、蒸しタオル、乾いたタオル、お湯の入った洗面器を持ち寝室へ向かった。
中に入ると既にそこにいた全員の視線が私に注がれた。
「椅子は使われますか?」
前回は始めに椅子に座っていただいたため、ジャックさんが訊いてくれた。
「いえ……上体を起こして座っていただければどこでも構いません」
寝台横の机に荷物を置き、お湯の入った洗面器に香油の入った瓶を入れて温めるのを皆がじっと見ているのがわかり、かなりやりにくい。
「マッサージ……というものは、彼女が?」
私の持ってきたものと私を見比べ、殿下が問いかける。
「これは何のために?」
すぐ横から私が持ってきたものを覗き込みながらアリアーデ先生が訊ねる。
少し振り返り、上目使いにこちらを見るアリアーデ先生と目が合う。
「さっきは挨拶できなくてごめんなさい。アリアーデよ」
気さくに名を告げ、握手のために手を差し出される。
この場合はお辞儀をして畏まるのが本来だが、伯爵令嬢の彼女に握手を求められ応えないわけにはいかない。少しためらった後に私も手を差し出す。
「ローリィと申します」
「よろしくね」
「……はい」
小柄な彼女は私の手を握り、観察するように私を見る。
「あの、これは蒸したタオルで、首筋に当てて温めると首筋の血管が開いて血が通いやすくなります。これは香油で、そのままマッサージすると肌に摩擦が起こるので滑りを良くするのと、香りが気持ちを和らげてくれます」
「血管……医療の知識もあるのね。香油は何のオイル?香油は何が入っているの?温めるのはどうして?」
「これはグレープシードオイル……葡萄の種から取ったオイルです。そこにラベンダーから取ったオイルを使っています。温めるのは香りを立たせるのと、冷たいと肌につけた時に驚いてしまいますから」
アリアーデ先生の質問にひとつひとつ答えながら私は蒸しタオルを殿下に差し出す。
「では、こちらに背を向けてこれを首にかけてください」
渡したタオルを受け取り、向きを変えて首にかける。
「熱すぎませんか?」
「……いや……大丈夫だ」
「では、今から肩や頭を揉みます」
私は殿下の肩に手を触れる。
食べることも億劫な程に疲れていた前回よりはまだいくらか凝りは軽かった。
肩を揉み、首筋は折り曲げた指の間接で軽くなぞっていく。頭の方も押して行くと、横からアリアーデ先生とホーク先生が物珍しげに見つめる。
お医者様二人はこれはどういう風に、これはどういう効果が、と色々気になって質問してくる。
そこまで専門的には答えられないので、多分……だと思います。とあやふやにしか答えられず何だか申し訳なかった。
「いかがですか?」
ひととおりの指圧を終えて訊ねると、殿下は何やら考え込むようにようにしている。
「どこか痛いところがありましたか?」
心配になって訊ねると、はっと殿下が物思いから我に返りこちらを見た。
暫くこちらを見つめ、何か考え込むようにしていたが、「………いや、大丈夫だ。問題ない」と、それだけ答える。
「じゃあ、次はオイルを使います。少しこちらへ移動してもらえますか?」
寝台の奥に移ってもらい、大判のタオルをそこに敷いた。
それから温めたオイルを手に広げる。いい具合に人肌に温まっている。
「では殿下……上の服を脱いでいただけますか」
部屋に戻って荷物の中から香油を取り出す。前回はクリームを使ったが、ここは葡萄の産地。葡萄の種から抽出したオイルが手に入り、即席だが簡単なマッサージオイルを作っていた。乾燥したハーブをオイルに浸したエッセンスを混ぜた。今回はラベンダーを使う。蒸しタオルの準備をするため厨房に向かいながら、祭りが終わったらまたマッサージを……と言っていた殿下の言葉を思い出していた。
思っていた展開とは違うが、言葉通りにマッサージをすることになったことが何だか不思議な気分だ。
香油、蒸しタオル、乾いたタオル、お湯の入った洗面器を持ち寝室へ向かった。
中に入ると既にそこにいた全員の視線が私に注がれた。
「椅子は使われますか?」
前回は始めに椅子に座っていただいたため、ジャックさんが訊いてくれた。
「いえ……上体を起こして座っていただければどこでも構いません」
寝台横の机に荷物を置き、お湯の入った洗面器に香油の入った瓶を入れて温めるのを皆がじっと見ているのがわかり、かなりやりにくい。
「マッサージ……というものは、彼女が?」
私の持ってきたものと私を見比べ、殿下が問いかける。
「これは何のために?」
すぐ横から私が持ってきたものを覗き込みながらアリアーデ先生が訊ねる。
少し振り返り、上目使いにこちらを見るアリアーデ先生と目が合う。
「さっきは挨拶できなくてごめんなさい。アリアーデよ」
気さくに名を告げ、握手のために手を差し出される。
この場合はお辞儀をして畏まるのが本来だが、伯爵令嬢の彼女に握手を求められ応えないわけにはいかない。少しためらった後に私も手を差し出す。
「ローリィと申します」
「よろしくね」
「……はい」
小柄な彼女は私の手を握り、観察するように私を見る。
「あの、これは蒸したタオルで、首筋に当てて温めると首筋の血管が開いて血が通いやすくなります。これは香油で、そのままマッサージすると肌に摩擦が起こるので滑りを良くするのと、香りが気持ちを和らげてくれます」
「血管……医療の知識もあるのね。香油は何のオイル?香油は何が入っているの?温めるのはどうして?」
「これはグレープシードオイル……葡萄の種から取ったオイルです。そこにラベンダーから取ったオイルを使っています。温めるのは香りを立たせるのと、冷たいと肌につけた時に驚いてしまいますから」
アリアーデ先生の質問にひとつひとつ答えながら私は蒸しタオルを殿下に差し出す。
「では、こちらに背を向けてこれを首にかけてください」
渡したタオルを受け取り、向きを変えて首にかける。
「熱すぎませんか?」
「……いや……大丈夫だ」
「では、今から肩や頭を揉みます」
私は殿下の肩に手を触れる。
食べることも億劫な程に疲れていた前回よりはまだいくらか凝りは軽かった。
肩を揉み、首筋は折り曲げた指の間接で軽くなぞっていく。頭の方も押して行くと、横からアリアーデ先生とホーク先生が物珍しげに見つめる。
お医者様二人はこれはどういう風に、これはどういう効果が、と色々気になって質問してくる。
そこまで専門的には答えられないので、多分……だと思います。とあやふやにしか答えられず何だか申し訳なかった。
「いかがですか?」
ひととおりの指圧を終えて訊ねると、殿下は何やら考え込むようにようにしている。
「どこか痛いところがありましたか?」
心配になって訊ねると、はっと殿下が物思いから我に返りこちらを見た。
暫くこちらを見つめ、何か考え込むようにしていたが、「………いや、大丈夫だ。問題ない」と、それだけ答える。
「じゃあ、次はオイルを使います。少しこちらへ移動してもらえますか?」
寝台の奥に移ってもらい、大判のタオルをそこに敷いた。
それから温めたオイルを手に広げる。いい具合に人肌に温まっている。
「では殿下……上の服を脱いでいただけますか」
2
お気に入りに追加
1,930
あなたにおすすめの小説

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる