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148 探るもの
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書斎で工房などの帳簿と照らし合わせが必要だと話し合っているとき、レイさんが再び警羅隊の詰所から戻ってきた。
「殿下の容態は?」
ウィリアムさんが居ることを見て、少し前の書斎でのことを知らないレイさんが開口一番訊ねてきた。
切羽詰まった様子で訊ねるレイさんに私たちは書斎での出来事から、今は王宮医師の診察を受けていることを説明した。
「……そうか、実は相談があるのだが……」
「何かあったのか?」
ウィリアムさんが訊ね、レイさんがその前に座ってその場にいるみんなの前で話し出す。
モリーの家を見張らせていた警羅の者が、同じように彼女の家を探っている者を見つけた。
以前盗みで何度か捕まえたことのある者だと気付き、こっそり後を付けて締め上げたところ、頼まれてその家の娘について調べるように言われたことを吐いた。
警羅がそのことを隊長へ報告を上げ、どうすべきか考えこちらが彼らの動向に気づいていることを伏せたまま泳がせることにした。
「それで、そいつらはどんなやつに頼まれたと?」
「外套を被っていたのではっきりとはわからないが、顎に髭を生やしていたらしい」
「例の男か?」
モリーたちの家を探らせていたと言うことは、ティモシーを拐った者と関係がある可能性が高い。上手くこの機会を利用してティモシーを救い出せないだろうか?
「ただ探らせるだけではないだろう………何か仕掛けてくるのではないか?」
「敵を誘い出すなら、こちらからも動く必要があるな」
「モリーたちを危険な目に合わせるわけにはいかないぞ」
「………そのフランツさんの家を探りに来た奴等は、その後どうしている?」
「……今のところ家を突き止め、様子を探るだけのようだが、それだけでは済まないだろうな」
「念のためフランツさんたちを別の場所の匿った方がいいだろう」
皆でそれぞれ意見を出し合う。優先するのはフランツ一家の安全。
「わかった。隊長に言って手配してもらおう。それで家を無人にしてどうする?」
「俺たちで張り込む?」
クリスさんがそう言う。
「いや、待て……俺たちはあくまでここの護衛だ。警羅を無視して動くことはできない」
ウィリアムさんがクリスさんの意見に異を唱える。
自分たちは殿下の私兵で、街の治安について領主として殿下が無関係ではないと言え、取り仕切るのは警羅の仕事だ。
「モリーたちは大切な仲間です。クリスさんの気持ちもわかります。でも、ウィリアムさんの意見ももっともです。判断は警羅に任せた方がいいということですね」
「とりあえずそれも含めて隊長に話をしよう」
「殿下がこんな時でなければ判断を仰ぐのだが」
殿下の許可があればもっと協力できることもあるだろうが、現状は情報収集が関の山だ。
先ほどの様子を見れば、それが難しいことだと誰もが思う。
それに、今は顔役たちの横領の疑いも持ち上がり、一刻も早い殿下の回復を願うのであれば、無闇に心配事を増やすことも躊躇われる。
「勝手に動いて全てを後で知った殿下がどう思われるか……」
ティモシーのことを考えれば今は動くしかない。
そんなことを話し合っていると、ジャックさんがホーク先生とともに書斎にやってきた。
「殿下の容態は?」
ウィリアムさんが居ることを見て、少し前の書斎でのことを知らないレイさんが開口一番訊ねてきた。
切羽詰まった様子で訊ねるレイさんに私たちは書斎での出来事から、今は王宮医師の診察を受けていることを説明した。
「……そうか、実は相談があるのだが……」
「何かあったのか?」
ウィリアムさんが訊ね、レイさんがその前に座ってその場にいるみんなの前で話し出す。
モリーの家を見張らせていた警羅の者が、同じように彼女の家を探っている者を見つけた。
以前盗みで何度か捕まえたことのある者だと気付き、こっそり後を付けて締め上げたところ、頼まれてその家の娘について調べるように言われたことを吐いた。
警羅がそのことを隊長へ報告を上げ、どうすべきか考えこちらが彼らの動向に気づいていることを伏せたまま泳がせることにした。
「それで、そいつらはどんなやつに頼まれたと?」
「外套を被っていたのではっきりとはわからないが、顎に髭を生やしていたらしい」
「例の男か?」
モリーたちの家を探らせていたと言うことは、ティモシーを拐った者と関係がある可能性が高い。上手くこの機会を利用してティモシーを救い出せないだろうか?
「ただ探らせるだけではないだろう………何か仕掛けてくるのではないか?」
「敵を誘い出すなら、こちらからも動く必要があるな」
「モリーたちを危険な目に合わせるわけにはいかないぞ」
「………そのフランツさんの家を探りに来た奴等は、その後どうしている?」
「……今のところ家を突き止め、様子を探るだけのようだが、それだけでは済まないだろうな」
「念のためフランツさんたちを別の場所の匿った方がいいだろう」
皆でそれぞれ意見を出し合う。優先するのはフランツ一家の安全。
「わかった。隊長に言って手配してもらおう。それで家を無人にしてどうする?」
「俺たちで張り込む?」
クリスさんがそう言う。
「いや、待て……俺たちはあくまでここの護衛だ。警羅を無視して動くことはできない」
ウィリアムさんがクリスさんの意見に異を唱える。
自分たちは殿下の私兵で、街の治安について領主として殿下が無関係ではないと言え、取り仕切るのは警羅の仕事だ。
「モリーたちは大切な仲間です。クリスさんの気持ちもわかります。でも、ウィリアムさんの意見ももっともです。判断は警羅に任せた方がいいということですね」
「とりあえずそれも含めて隊長に話をしよう」
「殿下がこんな時でなければ判断を仰ぐのだが」
殿下の許可があればもっと協力できることもあるだろうが、現状は情報収集が関の山だ。
先ほどの様子を見れば、それが難しいことだと誰もが思う。
それに、今は顔役たちの横領の疑いも持ち上がり、一刻も早い殿下の回復を願うのであれば、無闇に心配事を増やすことも躊躇われる。
「勝手に動いて全てを後で知った殿下がどう思われるか……」
ティモシーのことを考えれば今は動くしかない。
そんなことを話し合っていると、ジャックさんがホーク先生とともに書斎にやってきた。
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