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157 父の敵
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「いたぞ!あそこだ!」
振り返ると、彼らは警羅の制服を着ている。
駆けつけたのはこちらの味方の方だった。
「くっそぉ」
レベロが盛大に悪態をつくのが聞こえた。
「ローリィ、無事か?」
一団の中から抜け出してこちらへ駆けてくるのはエリックさんとレイさんだ。
二人が持つ松明の灯りが私のすぐ横で気絶するラルクと、背中に矢が刺さっているレベロを照らし出す。
彼らから少し遅れてそこにたどり着いた隊員たちが、三人を捕らえて縄で縛り付けていく。
「三人だけか?」
エリックさんの言葉に黙って頷く。
「ティモシーは無事にたどり着いた?」
「ああ、俺たちを見て安心したのか、その場で気を失った。怪我が酷いからそのまま麓へ運んだ」
「しかし、派手にやったなぁ」
レイさんが小屋の壁に空いた穴や散らばった板を見て呟く。
「誰が弓を?」
エリックさんにレベロに突き刺さった矢について訊ねる。
「弓?」
言われて二人も矢が刺さった彼を見て、互いに顔を見合せる。
「誰も弓なんて放ってないぞ。俺たちも警羅も今来たばかりだ」
「え?」
驚いた私は警羅に連行されていくレベロの背中を見る。
そう言えば弓はレベロの背後から飛んできた。彼らが来たのは下からだ。方向がまるで違う。
レベロの背後……つまりは岩場の方から弓は飛んできた。
「誰が?」
私が見つめる方向をエリックさんとレイさんも仰ぎ見て、二人で目配せし合い頷いて「待っていろ」と言って矢が飛んできたであろう方角を調べに行った。
恐らくそこにはもう誰もいないだろうことはわかっていた。
二人が調べに行き、レベロたちを連れて行く隊員に指示を終えた隊長が私に駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか、ローリィさん」
頭から足先まで私の体をひととおり眺め、目立った外傷はないことを確認する。
「それで、彼らは何か手掛かりになるようなことは言っていましたか?」
「………彼らは、グスタフのことを話していました。それにマーティンという名前も……モリーたちが見たグスタフと一緒にいた男は、恐らくそのマーティンという男なのでしょう。それから……」
「それから?」
「フィリップ……その名前も言っていました」
「フィリップですか……名前だけでは……司祭様もフィリップですし、それほど珍しい名前ではありませんね」
「それに、王位がどうとか…」
「え?何ですかそれは……」
意外な言葉に隊長が驚いて聞き返す。
「わかりません。彼らはフィリップという人物が王位に就くような話をしていました」
「フィリップ?……陛下のお身内にそんな名前の人間がいたかな?」
隊長が首を捻る。
「第一継承者はフェデリオ王子様ですよね。次に王位に近いのはキルヒライル様ですが、殿下は継承権を放棄されています。他には……すいません。私ではそれ以上はわかりません」
王位継承権について誰がどういった順位になっているのか、あまり深く考えたことがないため、隊長はそれ以上続かなかった。
私が知っている情報も似たようなものだ。
「それは殿下に尋ねればわかるでしょう」
「そうですね。他には?」
隊長の言葉に、私は父さまの事件を思いだし思わず押し黙った。
「ローリィさん?」
「………いえ……どこかで別の誰かを殺した話もしていました」
黙っていようかとも考えたが、取り調べで父さまを殺したことも話すかもしれない。
具体的なことは言わず、それだけ答えた。
元アイスヴァイン伯爵……彼らはそう言っていた。
あの日、誰かに会いに行くとシュルスに向かった父。
そして、シュルスとアイスヴァインを繋ぐ道で誰かに襲われて命を落とした父。
マーティンという男が………。
グスタフは殿下に父親を殺された恨みを持っている。マーティンとフィリップがグスタフとどういう関係になるのかわからないが、そこに王位継承が絡んでくるなら、王室と無関係とは言えない。
それでも私には自分事ではなく、あくまで殿下経由の関係だ。
私に絡んだ男たちの殺人から私も巻き込まれていることは否めないが、それだって殿下にからんでのことだった。
だが、彼らの話が真実なら、彼らは今日、たった今から父の敵……私自身の敵となったのだ。
振り返ると、彼らは警羅の制服を着ている。
駆けつけたのはこちらの味方の方だった。
「くっそぉ」
レベロが盛大に悪態をつくのが聞こえた。
「ローリィ、無事か?」
一団の中から抜け出してこちらへ駆けてくるのはエリックさんとレイさんだ。
二人が持つ松明の灯りが私のすぐ横で気絶するラルクと、背中に矢が刺さっているレベロを照らし出す。
彼らから少し遅れてそこにたどり着いた隊員たちが、三人を捕らえて縄で縛り付けていく。
「三人だけか?」
エリックさんの言葉に黙って頷く。
「ティモシーは無事にたどり着いた?」
「ああ、俺たちを見て安心したのか、その場で気を失った。怪我が酷いからそのまま麓へ運んだ」
「しかし、派手にやったなぁ」
レイさんが小屋の壁に空いた穴や散らばった板を見て呟く。
「誰が弓を?」
エリックさんにレベロに突き刺さった矢について訊ねる。
「弓?」
言われて二人も矢が刺さった彼を見て、互いに顔を見合せる。
「誰も弓なんて放ってないぞ。俺たちも警羅も今来たばかりだ」
「え?」
驚いた私は警羅に連行されていくレベロの背中を見る。
そう言えば弓はレベロの背後から飛んできた。彼らが来たのは下からだ。方向がまるで違う。
レベロの背後……つまりは岩場の方から弓は飛んできた。
「誰が?」
私が見つめる方向をエリックさんとレイさんも仰ぎ見て、二人で目配せし合い頷いて「待っていろ」と言って矢が飛んできたであろう方角を調べに行った。
恐らくそこにはもう誰もいないだろうことはわかっていた。
二人が調べに行き、レベロたちを連れて行く隊員に指示を終えた隊長が私に駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか、ローリィさん」
頭から足先まで私の体をひととおり眺め、目立った外傷はないことを確認する。
「それで、彼らは何か手掛かりになるようなことは言っていましたか?」
「………彼らは、グスタフのことを話していました。それにマーティンという名前も……モリーたちが見たグスタフと一緒にいた男は、恐らくそのマーティンという男なのでしょう。それから……」
「それから?」
「フィリップ……その名前も言っていました」
「フィリップですか……名前だけでは……司祭様もフィリップですし、それほど珍しい名前ではありませんね」
「それに、王位がどうとか…」
「え?何ですかそれは……」
意外な言葉に隊長が驚いて聞き返す。
「わかりません。彼らはフィリップという人物が王位に就くような話をしていました」
「フィリップ?……陛下のお身内にそんな名前の人間がいたかな?」
隊長が首を捻る。
「第一継承者はフェデリオ王子様ですよね。次に王位に近いのはキルヒライル様ですが、殿下は継承権を放棄されています。他には……すいません。私ではそれ以上はわかりません」
王位継承権について誰がどういった順位になっているのか、あまり深く考えたことがないため、隊長はそれ以上続かなかった。
私が知っている情報も似たようなものだ。
「それは殿下に尋ねればわかるでしょう」
「そうですね。他には?」
隊長の言葉に、私は父さまの事件を思いだし思わず押し黙った。
「ローリィさん?」
「………いえ……どこかで別の誰かを殺した話もしていました」
黙っていようかとも考えたが、取り調べで父さまを殺したことも話すかもしれない。
具体的なことは言わず、それだけ答えた。
元アイスヴァイン伯爵……彼らはそう言っていた。
あの日、誰かに会いに行くとシュルスに向かった父。
そして、シュルスとアイスヴァインを繋ぐ道で誰かに襲われて命を落とした父。
マーティンという男が………。
グスタフは殿下に父親を殺された恨みを持っている。マーティンとフィリップがグスタフとどういう関係になるのかわからないが、そこに王位継承が絡んでくるなら、王室と無関係とは言えない。
それでも私には自分事ではなく、あくまで殿下経由の関係だ。
私に絡んだ男たちの殺人から私も巻き込まれていることは否めないが、それだって殿下にからんでのことだった。
だが、彼らの話が真実なら、彼らは今日、たった今から父の敵……私自身の敵となったのだ。
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