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156 一本の矢

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先に喉を潰して気絶させた男を乗り越え、ラルクと呼ばれた男が殺気を放って近づいてくる。そのすぐ後ろで手に傷を負ったレベロが片手を押さえながらラルクをけしかける。

「ラルク!さっさと殺ってしまえ!」

「言われなくても、そうする。あんたは黙ってろ。そんな小物で俺らに立ち向かおうってのか」

モリーの変わりに拐われたことにしていたため大物は持ち込むことができず、クナイ二本と腰に布ヌンチャク。それが私の武器だった。

それ以外は体術で対処するしかない。

「あんた………その顔……あの火傷野郎が気に入っている女だな。なるほど……あいつの顔を見てもびびらなかっただけあって、度胸が座ってる」

「さっきの話は本当なの?」

「何の話だ?」

「シュルスのことよ!さっきあんたたちが言ってた!」

「なんだ聞いてたのか……それがどうした。二、三ヶ月も前の話だ。俺らのことを密告しようとしたから、見せしめに殺っただけだ。何か問題でも?」

「………赦せない」

ぎらりと光る目に僅かに涙が光っている。まるで害獣を駆除したみたいな言い方だった。

怒りに肌が粟立つのがわかった。

「赦せないのは俺たちも同じだ。さっきは不意打ちをくらったが、次はそうはいかない。覚悟するんだな」

ラルクが剣を振りかざして駆け出した。

ラルクが頭上から振り下ろした剣をクナイ二本を交差させて絡めとり弾き返す。

上段から両手に持ったクナイを力を込めて振り下ろし、それをラルクが刃を横にして受け止める。間髪を入れずに少し後ろに飛び退き、今度は下から突き刺すように繰り出す。彼は今度はそれを刃を下にして受け止める。
上から下から横からと隙間を狙って両刀で責める。攻撃の度にラルクはどんどん後ろに下がっていく。

力では確実にラルクが上だが、私の攻撃を振り払うラルクの力を上手く受け流して力を削ぎ、腕力の差をものともせず立ち向かう。
小型の武器相手にやりづらいのか、彼の顔には焦りが見える。

「何をやってるんだ!さっさと倒せよ!」

「うるせぇ!口だけじゃなくお前もやれよ!二対一なら確実だ」

「俺は利き腕を怪我してるんだ!お前が頑張ればいいだろ」

二人でお前がお前がとやり合う。私はラルクに攻撃を続けながら彼の集中力が切れるのを待つ。

ラルクに任せておけば自分は加わらなくてもと、踏んでいたレベロだが、どんどん押されていくラルクを見て、このままではラルクが負けて次は自分だと気づいた。

それにここでのやり合いが長引いたら、あちらの味方も参戦してくるかもしれない。

ティモシーを逃がして当初の目的は果たせないが、ここで負けるわけにはいかない。

利き腕でなくても、ラルクに気を取られている今なら殺れるかもしれない。
レベロはラルクの背後の、女から死角となる位置に移動する。

そのままそろりとそろりと二人に近づき、左に剣を持ち替える。

積み上がった壊れた壁板にラルクが足を取られてバランスを崩した。レベロは後ろに倒れるラルクの背後から剣を振りかざして女に切りかかる。

「うおおおお!」

掛け声とともに飛び上がったレベロが女の頭を目掛けて剣を振り下ろした時、一本の矢がレベロの左肩に後ろから突き刺さった。 

「ぐぁああ!」

矢が突き刺さった衝撃でレベロは握っていた剣を取り落としその場に崩れ落ちる。

咄嗟のところで自分の上にレベロが落ちてくるのを避けたラルクが転がって立ち上がる。

「おまえ!どこまで邪魔っ」

右掌を貫かれ、左肩に矢を突き立てられるレベロに悪態をつきかけたラルクは、最後まで言うことが出来なかった。
横から硬い何かが顔に叩き込まれ、血を吐いて地面に飛ばされた。

「くっそお」

レベロが地面に這いつくばりながらこちらを睨み付ける。

その時、下の方からガヤガヤと複数の足音がして、いくつもの松明を掲げた集団が現れた。
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