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154 女の好み
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「あの話?」
「マーティン様がちらっと言ってたんだ。あいつの火傷の痕を見て、悲鳴を上げなかった女がいるって……」
「ああ、それな。俺も聞いたぞ。領主の所のメイドだか何とか……祭りでワイン娘で出てた女だろ?一番背が高くて目立ってた……」
「俺は小柄な娘が好みだけどな。ともかく、その女はやつの傷を見ても怖じ気づくどころか、その後も平然と話をしてたらしい」
「変わった女もいるな」
「それでやつは王弟を始末する権利とその女をもらい受けることを条件に出したらしい」
「それでフィリップ様はその条件を認めたのか?」
「マーティン様が言うにはそうらしい」
「そんなことで手をうったのか?フィリップ様が王位に就けば金だって権力だって思いのままだろうに」
「最初からやつの狙いは王弟への復讐だったから、そこにひとつ追加されただけだ」
二人が小声で会話を続けていると、レベロが先ほどの藪を掻き分けて戻ってきた。
「小屋の男は?」
「大丈夫だ。誰にも見つかっていない」
「じゃあ、もうひとふんばりといくか。おい、そっち持ってくれ」
「わかってる。どっこいせ」
男二人は女を担ぎ、今度はレベロが先に立って再び進む。
そうやって辿り着いたそこには、岩場の窪みを利用して造られた小さな小屋があった。
少しの雨風を凌ぐ程度にしか造られていないそれは、人が三、四人も入れば満杯になるような狭さで、扉も傾いている。
「こっちだ」
レベロが壊れかけた扉を開けて中に彼らを誘導する。
カンテラに照らされ隙間だらけの壁の板張りと地面にまばらに敷き詰められた藁が見える。
奥には手足を縛られて横たわる男が一人。
不自由ながら身をよじって入ってきた人物から少しでも逃れようとする。
「そんなに怯えなくてもいいぞ。大事な婚約者を連れてきてやったんだから」
「もひぃ………」
男は滑舌が悪く、弱々しい声で呟く。
男たちは地面に降ろして袋の口を縛っていた紐をほどき、頭の部分を出す。
栗色の髪がこぼれ落ち、目隠しと口枷をされた女が顔を出した。
「ようやくお目覚めか」
さっきまで気を失っていた女は、まだ目隠しをされているとは言え、袋から顔だけ解放されたことに気付き、声のする方に耳を傾けている。
「もひぃ」
どうやら彼はモリーと言っているようだ。
灯りに照らされた顔は元の顔形がわからないくらいに腫れ上がり、目も見えているのかわからないくらい瞼が盛り上がっている。唇は乾燥しきってあちこち切れた痕がある。
よく見ると、殴られて折れてしまったのか、歯の何本かが欠けている。
「もひぃ……ふまにゃい……おえ……おうもんしゃてて……ひみのほろ………さへっちぇひまっちぇ……(モリー、すむない。おれ、拷問されて君のことしゃべってしまって)」
ポロポロとティモシーが涙を流して必死に語る。涙が顔の傷に滲みるのか苦痛にびくびくしている。
「んんん」
彼女はティモシーは悪くないとでも言うようにぶんぶんと首を左右に振る。
「最後の逢瀬だ。しっかり互いの顔を刻み付けておけよ。すっかり晴れ上がって面影もないけどな」
「後少しで二人一緒に仲良くあの世へ送ってやるよ」
レベロが女の目隠しと口枷を、外す。
「……ディ……モジー」
ずっと口枷を嵌められていたせいで第一声はしわがれたものになった。
「モ……もひ……?」
目隠しと口枷を外された顔を見てティモシーの顔が強張った。
「マーティン様がちらっと言ってたんだ。あいつの火傷の痕を見て、悲鳴を上げなかった女がいるって……」
「ああ、それな。俺も聞いたぞ。領主の所のメイドだか何とか……祭りでワイン娘で出てた女だろ?一番背が高くて目立ってた……」
「俺は小柄な娘が好みだけどな。ともかく、その女はやつの傷を見ても怖じ気づくどころか、その後も平然と話をしてたらしい」
「変わった女もいるな」
「それでやつは王弟を始末する権利とその女をもらい受けることを条件に出したらしい」
「それでフィリップ様はその条件を認めたのか?」
「マーティン様が言うにはそうらしい」
「そんなことで手をうったのか?フィリップ様が王位に就けば金だって権力だって思いのままだろうに」
「最初からやつの狙いは王弟への復讐だったから、そこにひとつ追加されただけだ」
二人が小声で会話を続けていると、レベロが先ほどの藪を掻き分けて戻ってきた。
「小屋の男は?」
「大丈夫だ。誰にも見つかっていない」
「じゃあ、もうひとふんばりといくか。おい、そっち持ってくれ」
「わかってる。どっこいせ」
男二人は女を担ぎ、今度はレベロが先に立って再び進む。
そうやって辿り着いたそこには、岩場の窪みを利用して造られた小さな小屋があった。
少しの雨風を凌ぐ程度にしか造られていないそれは、人が三、四人も入れば満杯になるような狭さで、扉も傾いている。
「こっちだ」
レベロが壊れかけた扉を開けて中に彼らを誘導する。
カンテラに照らされ隙間だらけの壁の板張りと地面にまばらに敷き詰められた藁が見える。
奥には手足を縛られて横たわる男が一人。
不自由ながら身をよじって入ってきた人物から少しでも逃れようとする。
「そんなに怯えなくてもいいぞ。大事な婚約者を連れてきてやったんだから」
「もひぃ………」
男は滑舌が悪く、弱々しい声で呟く。
男たちは地面に降ろして袋の口を縛っていた紐をほどき、頭の部分を出す。
栗色の髪がこぼれ落ち、目隠しと口枷をされた女が顔を出した。
「ようやくお目覚めか」
さっきまで気を失っていた女は、まだ目隠しをされているとは言え、袋から顔だけ解放されたことに気付き、声のする方に耳を傾けている。
「もひぃ」
どうやら彼はモリーと言っているようだ。
灯りに照らされた顔は元の顔形がわからないくらいに腫れ上がり、目も見えているのかわからないくらい瞼が盛り上がっている。唇は乾燥しきってあちこち切れた痕がある。
よく見ると、殴られて折れてしまったのか、歯の何本かが欠けている。
「もひぃ……ふまにゃい……おえ……おうもんしゃてて……ひみのほろ………さへっちぇひまっちぇ……(モリー、すむない。おれ、拷問されて君のことしゃべってしまって)」
ポロポロとティモシーが涙を流して必死に語る。涙が顔の傷に滲みるのか苦痛にびくびくしている。
「んんん」
彼女はティモシーは悪くないとでも言うようにぶんぶんと首を左右に振る。
「最後の逢瀬だ。しっかり互いの顔を刻み付けておけよ。すっかり晴れ上がって面影もないけどな」
「後少しで二人一緒に仲良くあの世へ送ってやるよ」
レベロが女の目隠しと口枷を、外す。
「……ディ……モジー」
ずっと口枷を嵌められていたせいで第一声はしわがれたものになった。
「モ……もひ……?」
目隠しと口枷を外された顔を見てティモシーの顔が強張った。
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