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153 拉致
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街の人たちの朝は早く、その分夜も早い。
飲食店などが並ぶ通りを少し外れて住居が密集する区域に来ると、真夜中近くともなれば家々の灯りは殆ど消える。
夜遅くまで働く人や夕食に軽くお酒を引っかけて千鳥足で帰宅する人が時折通ることもあるが、昼間と比べれば人通りはぐっと少なくなり、その日に限ってはまったくと言っていいほどに人気がなく、ひっそりとしていた。
その中を足音を忍ばせて歩く数人の影が薄い月明かりに照らされて浮かび上がった。
月に照らされて浮かび上がったのは大きな荷物を抱えた男二人。男たちは人目を避けながら街から外れた山の入り口にやってきた。
「早かったな………」
彼らを待ち構えたように男が三人木立から現れ、男たちが肩に担いでいる大きな袋を見る。
男たちはすっぽりと外套のフードを頭から被り、顔の下から半分を黒いマスクで覆って顔を隠している。
二人が肩に担いでいた物を降ろし、袋の口を僅かに開けると口枷を嵌められ、目隠しをされた栗色の髪の毛をした女が現れた。
女は薬を盛られているのかぐったりとして動かない。
「間違いないんだな」
「言われたとおり、大工のフランツのところの娘だ」
「ご苦労」
待ち構えていた男のうち、一番背の低い一人が懐から小袋を取り出し、彼らのすぐ側の地面に放り投げる。
男の一人がもう一度袋の口を閉じて、別の男が放り投げられた袋を取り上げると、二人はぺこりと頭を下げて立ち去っていった。
彼らが見えなくなると、男たちはフードと顔のマスクを外した。
背の高い二人はまばらに灰色と黒が混ざった短髪の男と、赤茶色の短い巻き毛、金を払った一番背の低い男はくすんだ金色の髪を首の後ろで束ねている。
背の高い男二人で袋にくるまれた女を担ぎ上げ、もう一人の男が周囲を警戒しながら後からついて行った。
「いやに大人しいな……まだ薬がきいているのか」
短髪の前を歩く男の一人が呟く。
「楽な仕事だな。薬を嗅がされた女を山小屋まで運んで、相方の男共々始末するだけだろ?」
後ろを担ぐ巻き毛の男が、ポンと女のお尻のあたりを触りながらへらへらと笑う。
「お前ら、黙って運べ」
周囲を警戒しながら後ろから来る男が前の二人に注意する。
「それならお前が代われよ、レベロ。山道を他人を担いで登るのは大変なんだぞ」
命令口調に些かむっとして口答えする。
「俺は、お前らよりもっと色々任されてるんだ。俺の方が立場は上だぞ」
逆ギレされて男が反撃するが、男二人はどうだかな、と薄ら笑いを浮かべた。
「どうだか………前のシュルスでの失敗だって、結局俺らやマーティン様が尻拭いするはめになったんだろ」
「確か、ナジェット領の隣のアイスヴァイン伯爵だったか……」
「そうそう、あんたがうっかり逃がしたお陰でマーティン様と俺達で追いかけて始末することになったんだぞ」
「あれは、俺だけのせいじゃない、ナジェット卿が信用できるというから仲間にするために呼んだのに、俺だって騙されたんだ」
「どうだかなぁ今回のことで汚名返上したいところだろうが、結局は俺たちがいなくちゃ何にもできないじゃないか」
「うるさいうるさい!俺の親父はフィリップ様とマーティン様のお父上の代からずっと仕えてるんだ。お前らとは年期が違うんだ。最近になって仲間になったお前らよりずっと信頼されてるんだ」
「長ければいいってもんでもないけどなあ」
「結局、役に立つかどうかだと思うけどな」
男が熱くなればなるほど、他の男は冷めたような言い方になる。
やがて登山道は緩やかになり、少し開けた場所に辿り着く。
「待っていろ」
レベロはバタバタと男二人を追い抜いて先に立ち、人の高さまで生い茂った藪の中に分け行り姿を消した。
「なあ、降ろしていいか?」
「ああ」
男たちは担いでいた袋を降ろして、ふうっとため息を吐いて体を思い切り伸ばす。
「レベロのやつ、調子に乗ってるな」
「長くいるからって信頼されてるとは限らないだろうに」
「腕っぷしもいいわけじゃないのに、俺らを顎で使うのはむかつくな」
二人は余程レベロに不満があるのか、彼がいないのをいいことに悪口を言い合う。
「腕っぷしと言えば、あのマイン国から来た火傷の男……グスタフとかいうやつ、フィリップ様が言うにはかなりの腕前らしいぞ」
「王弟の頬の傷もあいつがつけたらしいな」
話題はレベロから他国から来た火傷を負ったアレン・グスタフへと移る。
「マーティン様ももう少しで仕留めるところだったと聞くぞ。脇腹に太刀傷をつけたのはあの人だ」
「俺、あいつの顔をまともに見たことないぞ。気味が悪くて。マーティン様も何かとあいつと組まされて気の毒だよな」
「確かに見てて気分は良くないが、国を追われて、あんな姿になって、俺でもそんな目に会わされたら恨みたくなる」
「………なあ、お前は、あの話を信じてるのか?」
飲食店などが並ぶ通りを少し外れて住居が密集する区域に来ると、真夜中近くともなれば家々の灯りは殆ど消える。
夜遅くまで働く人や夕食に軽くお酒を引っかけて千鳥足で帰宅する人が時折通ることもあるが、昼間と比べれば人通りはぐっと少なくなり、その日に限ってはまったくと言っていいほどに人気がなく、ひっそりとしていた。
その中を足音を忍ばせて歩く数人の影が薄い月明かりに照らされて浮かび上がった。
月に照らされて浮かび上がったのは大きな荷物を抱えた男二人。男たちは人目を避けながら街から外れた山の入り口にやってきた。
「早かったな………」
彼らを待ち構えたように男が三人木立から現れ、男たちが肩に担いでいる大きな袋を見る。
男たちはすっぽりと外套のフードを頭から被り、顔の下から半分を黒いマスクで覆って顔を隠している。
二人が肩に担いでいた物を降ろし、袋の口を僅かに開けると口枷を嵌められ、目隠しをされた栗色の髪の毛をした女が現れた。
女は薬を盛られているのかぐったりとして動かない。
「間違いないんだな」
「言われたとおり、大工のフランツのところの娘だ」
「ご苦労」
待ち構えていた男のうち、一番背の低い一人が懐から小袋を取り出し、彼らのすぐ側の地面に放り投げる。
男の一人がもう一度袋の口を閉じて、別の男が放り投げられた袋を取り上げると、二人はぺこりと頭を下げて立ち去っていった。
彼らが見えなくなると、男たちはフードと顔のマスクを外した。
背の高い二人はまばらに灰色と黒が混ざった短髪の男と、赤茶色の短い巻き毛、金を払った一番背の低い男はくすんだ金色の髪を首の後ろで束ねている。
背の高い男二人で袋にくるまれた女を担ぎ上げ、もう一人の男が周囲を警戒しながら後からついて行った。
「いやに大人しいな……まだ薬がきいているのか」
短髪の前を歩く男の一人が呟く。
「楽な仕事だな。薬を嗅がされた女を山小屋まで運んで、相方の男共々始末するだけだろ?」
後ろを担ぐ巻き毛の男が、ポンと女のお尻のあたりを触りながらへらへらと笑う。
「お前ら、黙って運べ」
周囲を警戒しながら後ろから来る男が前の二人に注意する。
「それならお前が代われよ、レベロ。山道を他人を担いで登るのは大変なんだぞ」
命令口調に些かむっとして口答えする。
「俺は、お前らよりもっと色々任されてるんだ。俺の方が立場は上だぞ」
逆ギレされて男が反撃するが、男二人はどうだかな、と薄ら笑いを浮かべた。
「どうだか………前のシュルスでの失敗だって、結局俺らやマーティン様が尻拭いするはめになったんだろ」
「確か、ナジェット領の隣のアイスヴァイン伯爵だったか……」
「そうそう、あんたがうっかり逃がしたお陰でマーティン様と俺達で追いかけて始末することになったんだぞ」
「あれは、俺だけのせいじゃない、ナジェット卿が信用できるというから仲間にするために呼んだのに、俺だって騙されたんだ」
「どうだかなぁ今回のことで汚名返上したいところだろうが、結局は俺たちがいなくちゃ何にもできないじゃないか」
「うるさいうるさい!俺の親父はフィリップ様とマーティン様のお父上の代からずっと仕えてるんだ。お前らとは年期が違うんだ。最近になって仲間になったお前らよりずっと信頼されてるんだ」
「長ければいいってもんでもないけどなあ」
「結局、役に立つかどうかだと思うけどな」
男が熱くなればなるほど、他の男は冷めたような言い方になる。
やがて登山道は緩やかになり、少し開けた場所に辿り着く。
「待っていろ」
レベロはバタバタと男二人を追い抜いて先に立ち、人の高さまで生い茂った藪の中に分け行り姿を消した。
「なあ、降ろしていいか?」
「ああ」
男たちは担いでいた袋を降ろして、ふうっとため息を吐いて体を思い切り伸ばす。
「レベロのやつ、調子に乗ってるな」
「長くいるからって信頼されてるとは限らないだろうに」
「腕っぷしもいいわけじゃないのに、俺らを顎で使うのはむかつくな」
二人は余程レベロに不満があるのか、彼がいないのをいいことに悪口を言い合う。
「腕っぷしと言えば、あのマイン国から来た火傷の男……グスタフとかいうやつ、フィリップ様が言うにはかなりの腕前らしいぞ」
「王弟の頬の傷もあいつがつけたらしいな」
話題はレベロから他国から来た火傷を負ったアレン・グスタフへと移る。
「マーティン様ももう少しで仕留めるところだったと聞くぞ。脇腹に太刀傷をつけたのはあの人だ」
「俺、あいつの顔をまともに見たことないぞ。気味が悪くて。マーティン様も何かとあいつと組まされて気の毒だよな」
「確かに見てて気分は良くないが、国を追われて、あんな姿になって、俺でもそんな目に会わされたら恨みたくなる」
「………なあ、お前は、あの話を信じてるのか?」
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