転生して要人警護やってます

七夜かなた

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141 疑惑

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慌てて駆け寄ろうとした私を、脇腹を押さえながらネヴィルさんが片方の手で制止するので、その場にとどまった。しばらくネヴィルさんの痛みが引くのを待って、レイさんが話を続ける。
ネヴィルさんの私へ注がれる視線は、詳しく聞きたいという好奇心で溢れていたが、優秀な管財人としてそこはわきまえてくれていて、今はレイさんの報告を優先する。
レイさんの報告が終わった時が怖い。

「警羅がデリヒ家の家令から例のメイという使用人を雇用した際の紹介状を受け取って調べるそうだが、恐らくはデタラメだろう。本来なら貴族ではないとは言え、それなりの有力者の家で雇うんだ、きちんと身元を確認するところだが、あの女の使用人に対する扱いの酷さが噂になっていて、誰も名乗りを上げなかったところで、これ幸いと飛び付いたそうだ」

「最初からそこを狙っていたのか。あの女ならある意味誰も重要視しない。それに彼女ならどんなに殿下に拒まれてもグイグイ行くだろう。自分を信じて疑わなさそうだ」

「占い師については?あの女は何と言っているんだ?」

「薄暗いところで、ヴェールを被っていたので男か女かもわからないそうだ。側にいる使用人の名前すら覚えない女だ。自分が興味のないことは、とことん覚えていないようだ」

皆が渋い顔をする。

「でも、そこまで彼女のことを良く知って向こうが行動したなら、私たちのようにごく最近この領内に来たのではなく、ずっと前からここにいた人が関わっているとも言えます」

「そうだ。隊長もそのことは言っていたが、あの女のことは逆に領内では有名過ぎて、それこそ誰もが容疑者だ。殿下も六年の不在がなければあの女の評判くらいは耳にしていただろうが」

「元々関心のない女性ですから、こちらに来てからの僅かな時間では、彼女を警戒することすらなかったでしょうね」

ネヴィルさんの言葉に、殿下の気質とアネット嬢の性格を上手く利用した結果だったと気づく。

「それがお前の言う胸くそ悪い話か?」

クリスさんの問いかけに、レイさんはまだ続きがあるという。

「あの女については、ずっと尋問を続けてもあの女から今以上の情報は得られないだろうと言うことになって、消えた使用人や占い師の行方を追うということになった。胸くそ悪いと言ったのはパレードでの事故のことだ」

「何か分かったのか?」

「工房の者に引き続き聞きとりを行っていたが、どうも歯切れが悪く、問い詰めたら例の最終点検の時には車軸の亀裂を発見して居たらしい」

「なんだって!!」

皆が驚いたがクリスさんの声が一番大きかった。
当初、最終点検では問題がなかったという証言が嘘だった。

「それで?」

まだ続きがあるため、ネヴィルさんが促す。

「工房の者が亀裂に気付き、親方から顔役のデリヒ氏に報告をし、急げば修理に間に合うという話だったが、資金がないからと断られたそうだ」

「資金が足らなければ補充すると殿下もおっしゃっていました。そんな報告は上がっていない」

ネヴィルさんが蒼白になり、祭り関係の書類をガサガサと探る。うず高く積まれた書類がバサバサと机から落ち、今度は駆け寄り床に散らばった書類をかき集めて、ひとつひとつ確認しながら同じ方向に揃えていく。

その中のひとつにパレードやワイン娘のための山車を作成するための費用の見積もりがあった。
日付は半年前になっており、恐らくこれが当初のものだろう。
次に半月前、山車と樽の数が増やされた。

山車に関しては他にはその費用の最終点検当日の日付で工房の名前で切られた領収書と納品書があるばかりで、作り直しにかかる書類は何一つ出てこなかった。

「あれ、この書類って………」

改めて四枚を見比べてみて何か違和感を感じた。

「どうしましたか?」

ネヴィルさんが領地運営に関わる他の書類に紛れていないかと確認している手を止めて、書類を眺める私の方を見る。

「いえ………この書類……工房の代表者のサインが何か微妙に違うような……見積もりと領収書の金額はあってるんですが」
「見せてください」

ネヴィルさんが伸ばした手に書類を渡す。それぞれ一枚ずつを持ち見比べる。何往復か視線を動かし、立ち上がって後ろの本棚の下にある戸棚を開けた。中からいくつかの文章箱を取り出してきた。

「それは?」

いつの間にかクリスさんたち三人も机の回りに寄ってきていた。

「過去の年毎の収穫祭での関係書類です。ここの工房は以前から取引のあったところですが、五年前に親方が代替わりをしています」

「手伝います。あまり重いものは持たない方がいい。傷に障りますよ」
「すいません。お願いします」

エリックさんが屈んで、残りの三箱を取り出す。

「こちらの方が広いので、こちらへお願いします」

応接机の方をネヴィルさんが指差したので、先の箱と共にそちらへ運んだ。

箱を年毎に並べ、中から書類束を取り出す。

「こちらが毎年の書類です」

それぞれの年の見積書に納品書、領収書を並べていく。

親方が変わった年から順に見ていくと、二年後から書類の様相が変わっている。

全てを見比べると、それぞれの書類のサインが皆少しずつ違っていた。
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