139 / 266
138 目覚めとともに
しおりを挟む
ケインさんと別れ、エリックさんと二人で領主館に到着するころには昼になっていた。
戻って一番、誰かが殿下の目が覚めた、と言ってくれないかと思ったが、そうはならずがっかりした。
もしかしてずっとこのまま?
代わりに待っていたのは夕方までにはウィリアムさんが王宮付の医師と共に戻ってくるという知らせ。キルヒライル様のことを陛下に報告し、王宮の医師を連れてきてくれるそうだ。
そうしたら殿下の意識が戻るかもしれない。もちろんその前に目覚めてくれると嬉しいが。
午前中にホーク医師が様子を診て、状態が安定したことを確認していた。午後にもう一度診察をして、王都から医者が来てから一旦診療所へ引き上げて行くそうだ。
今はマーサさんが殿下の側に付いているという。
クリスさんを探し、二人でモリーとの話しについて報告してから殿下の寝室に向かった。
扉を叩き名前を名乗ると、中からマーサさんの「どうぞ」という声が聞こえて中に入っていく。
相変わらず殿下は眠ったままだが、呼吸は落ち着いていた。
二人で顔を覗き込む。
マーサさんが小さいときに殿下が寝込んだ時の話を思い出したと、私に語ってくれた。
「お小さいときはよく熱を出されて……熱にうなされてかあさま……あにうえって……その度に徹夜で看病したものです」
小さい時の殿下を想像して、可愛かっただろうなぁ、見たかったなぁと考えていると、「う……ん……」と殿下が身動ぎし、仰向けから私とマーサさんの側に体を横向きにした。
「あ……」
私たちが見守っていると殿下の瞼が少し震え、ゆっくりと目を開いた。
「キルヒライル様!」
マーサさんが寝台に駆け寄ると、最初何も見ていないようにしていた殿下の目の焦点が定まり、マーサさんに視線が向けられた。
「マー………サ?」
まだ状況が判断できないのか、マーサさんを見て、天井や部屋の様子を見、マーサさんの後ろに立っている私で止まる。
「ここは……?」
「覚えていますか?薬を盛られて倒れられたのですよ」
「く………くすり?」
「そうです、よかったですわ。このまま気がつかれないのかと……」
「マーサ……ここはどこだ?」
「エドワルド公爵領の領主館です。昨日が収穫祭の最終日で……」
「ちょっと待て……私は……あっ、つう……」
「殿下?」
殿下の様子がおかしいことにこの時、私たちは気づいた。
「私は…………」
「で、殿下……」
マーサさんの横に膝を突き、私も側に駆け寄る。
殿下は頭を押さえながら、私の方を見て怪訝そうに顔をしかめる。またもや頭が痛むのか片手で押さえている。
「マーサ………」
「はい、キルヒライル様……」
「この人は誰だ……どうして私の部屋にいる?」
殿下は見知らぬ人を見るように私を見て言った。
「キルヒライル様、ローリィですよ。どうされたのですか?」
「知らん……う、頭が割れるように痛い……マーサ……もう少し声を小さく……」
殿下が両手で頭を抱えて呻く。
「すいません……ですが……あの、ローリィは……」
私を知らないと言う殿下にすっかり困惑するマーサさんの肩に触れ、振り仰いだマーサさんに黙って首を振った。
「今は混乱されているようです。お医者様を呼んできます」
知らないと言われたショックを隠して、マーサさんに顔を見られないようそれだけ言うと、頭を抱えて苦しむ殿下を心配しながら部屋を出る。
大丈夫……今は目が覚めたばかりで状況が把握できていないだけ。そう思いながらもマーサさんのことは認識していた事実に動揺を隠せない。
あの厩舎で初めて会った時でもあんな表情は見せなかった。
きっと頭が痛くて機嫌が悪かったのだ。
そう自分を誤魔化しながら、ホーク医師に用意されている部屋へと向かった。
戻って一番、誰かが殿下の目が覚めた、と言ってくれないかと思ったが、そうはならずがっかりした。
もしかしてずっとこのまま?
代わりに待っていたのは夕方までにはウィリアムさんが王宮付の医師と共に戻ってくるという知らせ。キルヒライル様のことを陛下に報告し、王宮の医師を連れてきてくれるそうだ。
そうしたら殿下の意識が戻るかもしれない。もちろんその前に目覚めてくれると嬉しいが。
午前中にホーク医師が様子を診て、状態が安定したことを確認していた。午後にもう一度診察をして、王都から医者が来てから一旦診療所へ引き上げて行くそうだ。
今はマーサさんが殿下の側に付いているという。
クリスさんを探し、二人でモリーとの話しについて報告してから殿下の寝室に向かった。
扉を叩き名前を名乗ると、中からマーサさんの「どうぞ」という声が聞こえて中に入っていく。
相変わらず殿下は眠ったままだが、呼吸は落ち着いていた。
二人で顔を覗き込む。
マーサさんが小さいときに殿下が寝込んだ時の話を思い出したと、私に語ってくれた。
「お小さいときはよく熱を出されて……熱にうなされてかあさま……あにうえって……その度に徹夜で看病したものです」
小さい時の殿下を想像して、可愛かっただろうなぁ、見たかったなぁと考えていると、「う……ん……」と殿下が身動ぎし、仰向けから私とマーサさんの側に体を横向きにした。
「あ……」
私たちが見守っていると殿下の瞼が少し震え、ゆっくりと目を開いた。
「キルヒライル様!」
マーサさんが寝台に駆け寄ると、最初何も見ていないようにしていた殿下の目の焦点が定まり、マーサさんに視線が向けられた。
「マー………サ?」
まだ状況が判断できないのか、マーサさんを見て、天井や部屋の様子を見、マーサさんの後ろに立っている私で止まる。
「ここは……?」
「覚えていますか?薬を盛られて倒れられたのですよ」
「く………くすり?」
「そうです、よかったですわ。このまま気がつかれないのかと……」
「マーサ……ここはどこだ?」
「エドワルド公爵領の領主館です。昨日が収穫祭の最終日で……」
「ちょっと待て……私は……あっ、つう……」
「殿下?」
殿下の様子がおかしいことにこの時、私たちは気づいた。
「私は…………」
「で、殿下……」
マーサさんの横に膝を突き、私も側に駆け寄る。
殿下は頭を押さえながら、私の方を見て怪訝そうに顔をしかめる。またもや頭が痛むのか片手で押さえている。
「マーサ………」
「はい、キルヒライル様……」
「この人は誰だ……どうして私の部屋にいる?」
殿下は見知らぬ人を見るように私を見て言った。
「キルヒライル様、ローリィですよ。どうされたのですか?」
「知らん……う、頭が割れるように痛い……マーサ……もう少し声を小さく……」
殿下が両手で頭を抱えて呻く。
「すいません……ですが……あの、ローリィは……」
私を知らないと言う殿下にすっかり困惑するマーサさんの肩に触れ、振り仰いだマーサさんに黙って首を振った。
「今は混乱されているようです。お医者様を呼んできます」
知らないと言われたショックを隠して、マーサさんに顔を見られないようそれだけ言うと、頭を抱えて苦しむ殿下を心配しながら部屋を出る。
大丈夫……今は目が覚めたばかりで状況が把握できていないだけ。そう思いながらもマーサさんのことは認識していた事実に動揺を隠せない。
あの厩舎で初めて会った時でもあんな表情は見せなかった。
きっと頭が痛くて機嫌が悪かったのだ。
そう自分を誤魔化しながら、ホーク医師に用意されている部屋へと向かった。
1
お気に入りに追加
1,935
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる