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122 いい女といい男
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「明日の宴、ワイン娘とのダンスの後に、顔役の娘たちともダンスをすることになった」
殿下が苦々しく呟いた。
「本来なら、そこまでする必要がないことだが、少し気になることがあり、今回は了承することにした」
「……気になること?」
「今はまだそなたにも言えない。私自身もまだ確証があるわけではない。少し思うところがあるだけだ」
「危険なことではないのですか?」
「大丈夫だ。そなたは心配しなくていい。はっきり確証が取れたらその時は皆に伝える」
「私たちとダンスをして、また彼女たちとって、かなり体力的に苦しいのではないですか?」
一体何人と踊ることになるのかと頭の中で数えてみる。
「ダンスは得意だと言っただろう?それに、それくらいの体力がなければ戦場には立てない。命がかかっていないだけ気楽なものだ」
「アネット嬢……デリヒさんのお嬢さんってかなり積極的らしいですね」
「………確かにあの精神力はある意味尊敬に値する」
自分の聞きたいように、信じたいように物事をとらえて全てを進められるなら、相手がどう思おうと自分の意見を押し通していけるなら、彼女は幸せだと言える。
だが、世の中そんなことばかりではないと、彼女に教える者がいなかったのだろう。
「昨日もエスコートされたとか」
「エリックあたりに聞いたのか?」
こくんと頷くと、殿下はばつが悪そうな顔をした。
「領主として長い間、ネヴィルを代理人して領地運営を放棄していた負い目もあって、要望を受け入れたのだが、正直後悔した。彼女のエスコートは二度としない。誰のエスコートもしない。そなた以外は」
そうは言っても、実際は難しいことを知りながら私には微笑むことしかできない。
「疑っているのだろう?そんなことは叶わないと……」
「いえ……そういうわけでは……」
「仕方ない……私は待てとばかり言って、何も約束できていない。そなたのことも、狙われたままでは安心できない」
「私は……側にいられるだけでいいんです。解決しなければならないことがあるなら、一緒に頑張りましょう。何も約束できていないとか、そう思われるなら、ただ二人の関係について約束するのでなく、ともに問題に立ち向かって解決することを約束してください」
乗せていた殿下の手を手の平で包みこみ、力強くそう言うと暫く私の手と顔を交互に見つめ、また私の手を包み直す。
「まるで同士だな……女性にそこまで言われるとは思わなかった。そなたの言動にはいつも驚かされる。頼もしい」
「う……それは上司から言われると嬉しいですが、男性から言われると、複雑です」
「それは悪かった。私に取っては最大限の褒め言葉だが……いい女とかの方がよかったか?」
「………それも、ちょっと真剣に言われると恥ずかしいですね。頼もしいでいいです」
いたずらっぽく私の顔を見つめる。
モゴモゴと私が言うと、更に笑顔になった。
それが私だけに向けられた笑顔だと思うと、何だか恥ずかしい。
「キルヒライルだって、いい男です。その、今日、山車を起こすために汗を掻いて顔にかかった髪や体に張り付いたシャツがとても素敵で……思わず見惚れて……」
は、何を言っているのか、これでは変態だと引かれてしまう。
そう思って彼を見れば、何かを考え込んでいる様子だった。
「す、すいません………」
「いや、謝らなくていい………その、汗を掻いて、そのようなことを言われたのは初めてで……私も同じことを……思ったことがあったのを思い出して……」
「え?い、いつですか?」
「………王都の屋敷にいたときに、遅くに帰宅すると、ちょうどヨガを終えたそなたと玄関先で出くわした………」
そう言えばそんなことがあった。
「あのとき、慌てて走り去って行かれましたよね」
まさかとは思うが、何故なのか聞いてみたかった。
「女性があのように汗をかいた姿でいるのを初めて見て動揺した。思えばあの頃からすでに意識していたのかもしれない……」
あの時、確かジャックさんが何かを察していた様子だったが、もしかしたら年の功でわかっていたのかもしれない。
殿下が苦々しく呟いた。
「本来なら、そこまでする必要がないことだが、少し気になることがあり、今回は了承することにした」
「……気になること?」
「今はまだそなたにも言えない。私自身もまだ確証があるわけではない。少し思うところがあるだけだ」
「危険なことではないのですか?」
「大丈夫だ。そなたは心配しなくていい。はっきり確証が取れたらその時は皆に伝える」
「私たちとダンスをして、また彼女たちとって、かなり体力的に苦しいのではないですか?」
一体何人と踊ることになるのかと頭の中で数えてみる。
「ダンスは得意だと言っただろう?それに、それくらいの体力がなければ戦場には立てない。命がかかっていないだけ気楽なものだ」
「アネット嬢……デリヒさんのお嬢さんってかなり積極的らしいですね」
「………確かにあの精神力はある意味尊敬に値する」
自分の聞きたいように、信じたいように物事をとらえて全てを進められるなら、相手がどう思おうと自分の意見を押し通していけるなら、彼女は幸せだと言える。
だが、世の中そんなことばかりではないと、彼女に教える者がいなかったのだろう。
「昨日もエスコートされたとか」
「エリックあたりに聞いたのか?」
こくんと頷くと、殿下はばつが悪そうな顔をした。
「領主として長い間、ネヴィルを代理人して領地運営を放棄していた負い目もあって、要望を受け入れたのだが、正直後悔した。彼女のエスコートは二度としない。誰のエスコートもしない。そなた以外は」
そうは言っても、実際は難しいことを知りながら私には微笑むことしかできない。
「疑っているのだろう?そんなことは叶わないと……」
「いえ……そういうわけでは……」
「仕方ない……私は待てとばかり言って、何も約束できていない。そなたのことも、狙われたままでは安心できない」
「私は……側にいられるだけでいいんです。解決しなければならないことがあるなら、一緒に頑張りましょう。何も約束できていないとか、そう思われるなら、ただ二人の関係について約束するのでなく、ともに問題に立ち向かって解決することを約束してください」
乗せていた殿下の手を手の平で包みこみ、力強くそう言うと暫く私の手と顔を交互に見つめ、また私の手を包み直す。
「まるで同士だな……女性にそこまで言われるとは思わなかった。そなたの言動にはいつも驚かされる。頼もしい」
「う……それは上司から言われると嬉しいですが、男性から言われると、複雑です」
「それは悪かった。私に取っては最大限の褒め言葉だが……いい女とかの方がよかったか?」
「………それも、ちょっと真剣に言われると恥ずかしいですね。頼もしいでいいです」
いたずらっぽく私の顔を見つめる。
モゴモゴと私が言うと、更に笑顔になった。
それが私だけに向けられた笑顔だと思うと、何だか恥ずかしい。
「キルヒライルだって、いい男です。その、今日、山車を起こすために汗を掻いて顔にかかった髪や体に張り付いたシャツがとても素敵で……思わず見惚れて……」
は、何を言っているのか、これでは変態だと引かれてしまう。
そう思って彼を見れば、何かを考え込んでいる様子だった。
「す、すいません………」
「いや、謝らなくていい………その、汗を掻いて、そのようなことを言われたのは初めてで……私も同じことを……思ったことがあったのを思い出して……」
「え?い、いつですか?」
「………王都の屋敷にいたときに、遅くに帰宅すると、ちょうどヨガを終えたそなたと玄関先で出くわした………」
そう言えばそんなことがあった。
「あのとき、慌てて走り去って行かれましたよね」
まさかとは思うが、何故なのか聞いてみたかった。
「女性があのように汗をかいた姿でいるのを初めて見て動揺した。思えばあの頃からすでに意識していたのかもしれない……」
あの時、確かジャックさんが何かを察していた様子だったが、もしかしたら年の功でわかっていたのかもしれない。
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