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135 モリーの家族
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警羅には厳しい対応を見せたモリーたちの父親…フランツさんも、訪ねてきたのが領主館に勤める私とエリックさんということで何とか中には入れてもらえた。
彼女たちの母親、フランツさんの奥さんは市場で働いているので、朝早くでかけていて、昼前には帰ってくるそうだ。
フランツさんは大工だが、モリーのことがあり今日は休んでいると言う。
最初フランツさんは警羅隊の者が三人来たと思ったらしい。
物々しく三人も詰めかければ警戒するのも頷ける。
マリーの説明を聞いて私が女だとわかり、ちょっと驚いていた。
「すいません、朝の忙しいときに」
改めてケインさんが代表して再度の訪問について謝ると、腕を組みながらフランツさんは公爵家の使用人を蔑ろにはできないと態度を和らげた。
「それで、家には入れたが、娘は怯えて何も話さない。何度来ても無駄だと思うが。それよりティモシーを探したらどうだ?」
「もちろん、そちらも捜索しております。我々としては娘さんに何があったのか、事件と関わりがあるのか、それを知りたいのです。」
ケインさんの言葉にフランツさんも唸ってしまった。元々善良な領民の彼は、頼まれれば犯人逮捕に協力を惜しまないつもりだ。
だが、娘は憔悴し、すっかり怯えている。はっきり言って無駄ではないか、娘を更に追い込むことになると、父親として娘を気遣う気持ちもある。
「あの、フランツさん」
思い悩む彼に私は声をかける。
「私に少しモリーと話をさせてもらえませんか?もし、彼女がいいと言ったらですが」
「いや、しかし………」
フランツさんは言い淀み、隣のマリーと視線を交わす。
「いきなり核心をついた質問はしません。彼女の様子を見ながら、だめなら訊きません」
「しかしなぁ」
まだ踏ん切りがつかないフランツさんは尚も言葉を濁す。
「もう、父さん。ローリィがこんなに言ってるんだから、話をするだけなんだからいいじゃない。私もモリーが休んでる分、お店に出なくちゃいけないし、いつまでもいられないんだよ」
マリーが父親を説得する。っていうか、マリーってこんなだったのか。父親が相手だからかな。
「その、まあ、あんたのことは娘たちから聞いてる。この子達が優勝できたのも、あんたが入ったかららしいし………それにあんたは公爵様のところの使用人だ。無理に追い返したら失礼にあたる」
「ありがとうございます」
「モリーがいいって言ったらだ、マリー、モリーに聞いてこい。それくらいの時間はあるだろう」
「はあい、ローリィ待っててね」
マリーが部屋を出ていき、居間が急に静かになった。
「それで……ティモシーは生きているのかい?」
娘がいなくなって彼は訊きにくかったことをきいた。
「今のところは何とも……申し訳ありません。自宅に潜んでいるのかもしれませんが……」
「……そうか……知ってると思うが、二人は結婚の約束をしている。来月にはティモシーの実家に挨拶に行く予定だった。結婚前の最後の思い出に出たワイン娘で優勝して、喜んでたんだ」
フランツさんは手で目を覆い、今にも泣きそうな顔を私たちに見せないようにしている。
足音がしてマリーが戻ってきた。フランツさんは娘に向かって笑顔を作って見せた。
「モリーは……会うと言っているわ」
「ありがとうマリー、案内してくれる?」
私はケインさんとエリックさんと顔を見合せ立ち上がった。
マリーに案内されて二階に上がる。マリーは出勤時間だということで部屋の前で別れた。
「モリー、入るね」
部屋の前でモリーに呼び掛け中にはいると薄暗い部屋に寝台が二つ並んでいる。右側の寝台はきちんと上掛けが畳まれ、左側はこんもりとしている。
部屋の中に足を踏み入れ、右側の寝台に腰を下ろす。
ギシッと寝台が軋む音がすると同時に山が動き、上掛けからのそりとモリーが顔を出した。
「おはよう」
私が笑ってそう言うと、モリーも「お、おはよう」と返してくれた。私が男装しているのに気付き、まじまじと見つめる。
「えっと、私……実は殿下の護衛だったの……」
「……?どういうこと?」
モリーが興味を示し、更に体を起こして寝台の上に座った。
「……話は少し長くなるけど、構わない?」
私の問いにゆっくりとモリーは頷いた。
「う~ん……どこから話そうか」
私は少し考えて、王都に来てからのことを少しずつかい摘まんで話した。
ミリィとの出会いに競い舞、ハレス卿の家での公開練習からのスカウト。そして公爵邸で雇われ、ネヴィルさんの怪我を機にここに来たこと。一度は外された護衛。そして昨日の事件から再び護衛に返り咲いたこと。
まあ、色々省略はしました。
街道での手当て。競い舞の出来事。王都の公爵邸で見つけた胸当てのこと。襲撃された時のこと。告白されたこと。口づけされたこと。膝の上に座らされたこと。まあ、色々。
省略し過ぎてちょっと前後がわかりづらいかなと思った部分もあるが、それでもモリーには楽しんでもらえたようで、途中から上掛けも払い除けて前のめりでそれでそれで、と次を促す。
「次はモリーの番ね。ティモシーとのこと聞かせて」
私の話が終わり、今度はモリーに話をさせる。
「私の話なんて、ローリィの話ほど面白くないよ。仕立て屋と靴屋で互いに往き来してるうちに仲良くなっただけ」
一瞬戸惑った後、ぽつりぽつりと語り出す。
状況は既に女子トーク。へぇ、とかウッソーとか言いながら話を聞いていく。
モリーも私が何をしに来たのかわかっていながら、全然それとは関係ない話が続いていることに安堵しているのがわかる。
ひととおり話が済んで、いよいよ事件の日の話になった。
彼女たちの母親、フランツさんの奥さんは市場で働いているので、朝早くでかけていて、昼前には帰ってくるそうだ。
フランツさんは大工だが、モリーのことがあり今日は休んでいると言う。
最初フランツさんは警羅隊の者が三人来たと思ったらしい。
物々しく三人も詰めかければ警戒するのも頷ける。
マリーの説明を聞いて私が女だとわかり、ちょっと驚いていた。
「すいません、朝の忙しいときに」
改めてケインさんが代表して再度の訪問について謝ると、腕を組みながらフランツさんは公爵家の使用人を蔑ろにはできないと態度を和らげた。
「それで、家には入れたが、娘は怯えて何も話さない。何度来ても無駄だと思うが。それよりティモシーを探したらどうだ?」
「もちろん、そちらも捜索しております。我々としては娘さんに何があったのか、事件と関わりがあるのか、それを知りたいのです。」
ケインさんの言葉にフランツさんも唸ってしまった。元々善良な領民の彼は、頼まれれば犯人逮捕に協力を惜しまないつもりだ。
だが、娘は憔悴し、すっかり怯えている。はっきり言って無駄ではないか、娘を更に追い込むことになると、父親として娘を気遣う気持ちもある。
「あの、フランツさん」
思い悩む彼に私は声をかける。
「私に少しモリーと話をさせてもらえませんか?もし、彼女がいいと言ったらですが」
「いや、しかし………」
フランツさんは言い淀み、隣のマリーと視線を交わす。
「いきなり核心をついた質問はしません。彼女の様子を見ながら、だめなら訊きません」
「しかしなぁ」
まだ踏ん切りがつかないフランツさんは尚も言葉を濁す。
「もう、父さん。ローリィがこんなに言ってるんだから、話をするだけなんだからいいじゃない。私もモリーが休んでる分、お店に出なくちゃいけないし、いつまでもいられないんだよ」
マリーが父親を説得する。っていうか、マリーってこんなだったのか。父親が相手だからかな。
「その、まあ、あんたのことは娘たちから聞いてる。この子達が優勝できたのも、あんたが入ったかららしいし………それにあんたは公爵様のところの使用人だ。無理に追い返したら失礼にあたる」
「ありがとうございます」
「モリーがいいって言ったらだ、マリー、モリーに聞いてこい。それくらいの時間はあるだろう」
「はあい、ローリィ待っててね」
マリーが部屋を出ていき、居間が急に静かになった。
「それで……ティモシーは生きているのかい?」
娘がいなくなって彼は訊きにくかったことをきいた。
「今のところは何とも……申し訳ありません。自宅に潜んでいるのかもしれませんが……」
「……そうか……知ってると思うが、二人は結婚の約束をしている。来月にはティモシーの実家に挨拶に行く予定だった。結婚前の最後の思い出に出たワイン娘で優勝して、喜んでたんだ」
フランツさんは手で目を覆い、今にも泣きそうな顔を私たちに見せないようにしている。
足音がしてマリーが戻ってきた。フランツさんは娘に向かって笑顔を作って見せた。
「モリーは……会うと言っているわ」
「ありがとうマリー、案内してくれる?」
私はケインさんとエリックさんと顔を見合せ立ち上がった。
マリーに案内されて二階に上がる。マリーは出勤時間だということで部屋の前で別れた。
「モリー、入るね」
部屋の前でモリーに呼び掛け中にはいると薄暗い部屋に寝台が二つ並んでいる。右側の寝台はきちんと上掛けが畳まれ、左側はこんもりとしている。
部屋の中に足を踏み入れ、右側の寝台に腰を下ろす。
ギシッと寝台が軋む音がすると同時に山が動き、上掛けからのそりとモリーが顔を出した。
「おはよう」
私が笑ってそう言うと、モリーも「お、おはよう」と返してくれた。私が男装しているのに気付き、まじまじと見つめる。
「えっと、私……実は殿下の護衛だったの……」
「……?どういうこと?」
モリーが興味を示し、更に体を起こして寝台の上に座った。
「……話は少し長くなるけど、構わない?」
私の問いにゆっくりとモリーは頷いた。
「う~ん……どこから話そうか」
私は少し考えて、王都に来てからのことを少しずつかい摘まんで話した。
ミリィとの出会いに競い舞、ハレス卿の家での公開練習からのスカウト。そして公爵邸で雇われ、ネヴィルさんの怪我を機にここに来たこと。一度は外された護衛。そして昨日の事件から再び護衛に返り咲いたこと。
まあ、色々省略はしました。
街道での手当て。競い舞の出来事。王都の公爵邸で見つけた胸当てのこと。襲撃された時のこと。告白されたこと。口づけされたこと。膝の上に座らされたこと。まあ、色々。
省略し過ぎてちょっと前後がわかりづらいかなと思った部分もあるが、それでもモリーには楽しんでもらえたようで、途中から上掛けも払い除けて前のめりでそれでそれで、と次を促す。
「次はモリーの番ね。ティモシーとのこと聞かせて」
私の話が終わり、今度はモリーに話をさせる。
「私の話なんて、ローリィの話ほど面白くないよ。仕立て屋と靴屋で互いに往き来してるうちに仲良くなっただけ」
一瞬戸惑った後、ぽつりぽつりと語り出す。
状況は既に女子トーク。へぇ、とかウッソーとか言いながら話を聞いていく。
モリーも私が何をしに来たのかわかっていながら、全然それとは関係ない話が続いていることに安堵しているのがわかる。
ひととおり話が済んで、いよいよ事件の日の話になった。
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