転生して要人警護やってます

七夜かなた

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133 新たな忠誠

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宰相の計画を聞きながら、ウィリアムは護衛の一人として志願したときのことを思い出していた。

ウィリアムとしては、ローリィのことも気がかりであり、単に人手が多い方がと考えてのことだったが、事態はそれだけではすまなかった。

赴くにあたって、更なる忠誠を誓わされた。
今後、耳にする情報については許可された者以外には漏らさないこと。
国王陛下、王弟殿下からの命には意義を唱えることなく従うこと。
もとより国と国王に従う覚悟で騎士団の一員となったが、今回の命令は、例えその意味がわからなくても、一見理不尽だと思っても、黙って言われたとおりにせよとのものだった。

そう思って第一近衛騎士団団長の意味不明な言伝てとともに殿下の元に来てみれば、最後には何やら怪しげな薬を殿下自らがあおって昏倒する始末だ。

どうやら薬のことは少し前から知っていたように思われるが、グスタフの出現と殺人、モリーたちのことやパレードの事故については思ってもいなかったことのようだ。

先程の宰相閣下の言葉によれば、このことについては謎の情報提供者がいるようだ。

「そう言うことで、ウィリアム、あなたには引き続き、領主館で殿下の警護をお願いします。王宮医師には解毒剤を持っていってもらいます。表向きは盛られた薬の正体がわからないままということで診察に当たってもらうのでそのつもりでお願いします」

「わかりました」

「それから、グエン、入ってきなさい」

「はっ」

宰相の声とともに、一人の男が入ってきた。

彼は王の面前にも関わらず、目深に外套を羽織り顔を隠したまま入ってきた。

「顔を見せなさい」
彼は王と宰相に僅かにお辞儀をし、宰相の言うままにフードを下げる。

「あ……」

その風貌を見て、ウィリアムは驚いた。

「ほう……」
「これは……」

王もハレス卿も思わず感心したように声を出す。

「もういいですよ」

宰相が言うとグエンは再びフードを被り、そのまま部屋を出ていった。

「彼はグエン。私の配下にいる者です。彼のことも頼みます」

「では、彼が………承知いたしました」

グエンがどういった役割を担うのか察し、ウィリアムが頷く。

「事情を知るものはできるだけ少なく……殿下のお世話はマーサとその娘、それからチャールズとそなた、ホーク先生と王宮医師のみでお願いします。……王都の公爵邸の者は収穫祭も終わったことなので、王都へ戻します」

「ローリィも、ですか?」

ウィリアムが彼女の名前を口にすると、宰相は「それもあった」と、眉間に皺を寄せた。

「実は……管財人のネヴィルの了承を得て、彼女を殿下の護衛とすることに致しました。彼女も狙われているなら殿下の側において共に護衛する方が効率的ですので」

「……彼女は信用できますか?私としては些か懸念材料ですが……」
「殿下のためなら、彼女は全力を尽くします」

「と、なれば、領主館でそのまま留め置いて殿下のお側においた方がいいでしょう。彼女も敵に狙われているなら、確かにドルグランの言うとおりです。ですが、万が一にも計画の妨げになるようなら、容赦なく彼女を排除できますか?」

「すべての責任は私が取ります」

ウィリアムの覚悟に宰相が頷いた。

「エドワルド領でのことはあなたに任せます。ですが、このことは共に護衛にあたる他の者にも内密に。どこから洩れるかわかりません。ハレス卿、医師団は薬の分析についてはいつ頃と言っていましたか?」

宰相が先ほどウィリアムが持ち込んだ薬について尋ねた。

「明日……いえ、もう今日ですね。今日の朝には結果が出るそうです」

「では、ドルグラン、夜が明け次第、医師と共にキルヒライル様の所へ戻ってください。薬の結果がその時点で出ていなければわかり次第、連絡いたします」
「承知いたしました」

「それでは、我々はこの王宮で我々の役割を果たすとしよう」

王が立ち上がり、ウィリアムの方に近付く。

怪訝そうに見ていると、王はおもむろにウィリアムの前で頭を下げた。

「へ、陛下!!!」
「陛下!」
「イースフォルド様!」

頭を下げられたウィリアムだけでなく、宰相もハレス卿も突然の王の行動に慌てふためく。

「陛下、おやめください!一体……」

「グスタフが関わっているとなれば、狙いは間違いなくキルヒライルだ。彼は恐らくすべての憎悪を我が弟に向けて来るだろう。彼にはもはやそれしかない。手負いの者が全てを棄てて向かってくる際に、どれほどに危険か……くれぐれも命だけは落とすな。そのようにして犠牲になる者がいたら、苦しむのは誰よりもキルヒライルだ。身勝手とは思うが、我が弟のためにも命を大事にしてくれ」

「陛下……そのような………」

君主として国や王のために臣下に対し、身命を賭せと命令することはあっても、命を大事にしろとは……ましてや自分のためでなく、それが王弟のためにとは、そのように言われるとは思っていなかったウィリアムは戸惑った。

「私は王だ。私は生まれてから王になるように育てられてきた。国を滅ぼした愚王と呼ばれるなら、狂王、暴君と呼ばれようと国を存亡させ、栄えさせることを選ぶ。だが、キルヒライルは違う。あれは私の良心だ。彼には信念を持って清廉潔白に生きてほしいと願っている」

キルヒライル様が聞けば、自分こそ国や王のために清濁全てを受け入れると言いそうだとウィリアムは思った。

大国となればなるほどに、歴史が続くほどに、どこかに淀みが生じ膿となる。

やがてそれは体全体を蝕み、毒が全身にまわる。

今、王たちはその膿を絞り出そうとしているのだ。

「キルヒライルが気がついたら伝えてくれ。こちらはこちらで上手くやるので、そなたは自分の身にかかった火の粉をはらえと」

「は、畏まりました」

ウィリアムが騎士の礼をもって答えた。
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