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131 秘密通路
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王都についたのは真夜中近く。殆ど休まず駆けてきたので馬ももう限界だ。
「もう少し頑張ってくれ」
王都へ入るための城門はすでに閉められている。
開けてもらうために横の小さな扉を叩こうとした時、先に扉が開いた。
「エドワルド公爵領からの御使者の方ですね。どうぞ、馬車が用意されていますので、そちらで王宮へお向かいください。馬はお帰りまでこちらでお世話してお預かりします」
手回しの良さに驚く。公爵領から誰かが来ることをどうしてわかっていたのか。
言われままに扉をくぐると、言葉の通り馬車が待っていた。
半信半疑のまま扉を開けると、中に第三近衛騎士団団長が待っていた。
「話は中で、とにかく乗れ」
言われるままに乗り込み扉を閉めるのも待たず馬車が動き出した。
「時間が時間だ。あまり急いで行けない」
夜更けに馬車が急いで走っては何事かと注目を集めてしまう。
「……わかりました」
「すでにキルヒライル様の件について王も宰相閣下もご存じだ。少し前から宰相閣下の指示で暗部の者がエドワルド公爵領に潜入していた。今回の件も先に暗部の者から第一報が届いている」
「ああ、それで……」
「お前が来るのはわかっていたので、宰相閣下から言われてこうして私が待ち構えていた」
「団長にお越しいただけるとは思いませんでした」
「事情が事情なだけに、他のものを寄越すわけにはいかないからな。薬は持ってきたか?」
「はい、ここに」
ウィリアムは懐から小さな小瓶を取り出し見せた。
「これがこちらの手にあるとは知られていないだろうな」
「はい、取り上げた際にクリスが別の薬が入った瓶を割りました。ホーク先生にも薬は割れてしまったと言ってあります」
「そうか、医師団の者も待機している。まだ王弟殿下が領内の者に薬を飲ませれたと公にはできないので、私たちは裏から入る。特定の者にしか知らされていない出入口だ。他言は無用だ。もし第三者に知られたらお前も相手も即刻処罰される」
「……はい」
恐らくは王族が襲撃を逃れるための秘密通路。自分のような者が本来知るはずもない情報だ。
「団長はどこまでご存知なのですか?」
「お前が聞かされていることと殆ど変わらない。知ったのはお前がエドワルド領へ発ってからだがな」
「王宮内はいかがですか?何か変わりは?」
「今のところは、表だって動きはない。泳がせてはいるがな」
「………そうですか」
二人はそれきり黙ったまま、馬車は王宮への正門とは離れた王族の墓所へと向かう。
馬車が止まり、御者が扉を開ける。
「周囲の警戒を怠るな」
団長が御者に言い、ウィリアムも団長に続いて馬車を降りた。
いかに王都はいえ、真夜中の墓所ともなれば人の気配はまるでない。
どこかから梟の鳴き声が聞こえるが、それ以外は馬車に繋がれた馬の蹄と鼻息が聞こえるだけで静かだ。
団長は何も言わず目でついてこいと合図をして、先に墓所へと足を踏み入れていった。
ウォリス団長はカンテラひとつを持っていくつもの墓碑を通り抜け、墓所の奥へと足を進める。
広大な敷地を占める墓所にあって、各世代の王と王妃の墓は霊廟となっている。
そのうちのひとつ、古すぎてすでに石に刻まれた王の名も読めなくなっている霊廟の扉を彼は静かに開けた。
「ここはどなたの?」
「どなたの墓でもない。抜け道として造られたものだ。実際の王の墓を抜け道にはできないのでな。墓碑銘もわざと年月で風化したようにしてある」
「……ああ」
「少し後ろを向いていてくれ」
祭壇の前に立つと団長が言った。
「場所は教えざるを得なかったが、抜け道を開ける方法までは教えられない」
既に王族や限られたものしか知らされていない抜け道の存在を致し方ないとは言え、知ってしまったが、知る情報は少ない方がいい。
ウィリアムは黙って後ろを向いた。
ガタン、ガチャリと何度か音がして、やがて重い石が擦れ会う音が聞こえた。
「もういいぞ、暗いから足元に注意しろ」
振り向くとカンテラを持って立つ団長の足元にぽっかりと穴が空いていた。
「少し待っていろ」
「わかりました」
団長が階段を降りていき、もうひとつカンテラを持って上がってきた。
「ここから道なりに歩いて行けば目的地に着く。ここからはお前一人で行け」
前に突き出されたカンテラを受け取る。
「団長は?」
「私は別の用がある。出るときは表から宰相が出してくれる」
石段を降りていくと、後ろで団長が入り口を閉める音がして空気の流れが変わるのがわかった。
そのまま黙って前に進む。背が高いウィリアムの頭ぎりぎりの高さと大人二人が並ぶとぶつかるくらいの幅の空間に足音が響く。時折天井から水滴が滴り落ちる。
足元も少し下がったり登ったり一定ではない。
小一時間ほど歩くと徐々に登りばかりとなる。
階段が現れそこが通路の終着点だとわかる。
頭上の壁を叩くと壁が開いた。
暗さに慣れた目に光が眩しく、思わず目をつぶる。
「思ったより早かったな」
聞き覚えのある声が聞こえ、ゆっくり片目ずつ開けると目の前に宰相が立っていた。
「もう少し頑張ってくれ」
王都へ入るための城門はすでに閉められている。
開けてもらうために横の小さな扉を叩こうとした時、先に扉が開いた。
「エドワルド公爵領からの御使者の方ですね。どうぞ、馬車が用意されていますので、そちらで王宮へお向かいください。馬はお帰りまでこちらでお世話してお預かりします」
手回しの良さに驚く。公爵領から誰かが来ることをどうしてわかっていたのか。
言われままに扉をくぐると、言葉の通り馬車が待っていた。
半信半疑のまま扉を開けると、中に第三近衛騎士団団長が待っていた。
「話は中で、とにかく乗れ」
言われるままに乗り込み扉を閉めるのも待たず馬車が動き出した。
「時間が時間だ。あまり急いで行けない」
夜更けに馬車が急いで走っては何事かと注目を集めてしまう。
「……わかりました」
「すでにキルヒライル様の件について王も宰相閣下もご存じだ。少し前から宰相閣下の指示で暗部の者がエドワルド公爵領に潜入していた。今回の件も先に暗部の者から第一報が届いている」
「ああ、それで……」
「お前が来るのはわかっていたので、宰相閣下から言われてこうして私が待ち構えていた」
「団長にお越しいただけるとは思いませんでした」
「事情が事情なだけに、他のものを寄越すわけにはいかないからな。薬は持ってきたか?」
「はい、ここに」
ウィリアムは懐から小さな小瓶を取り出し見せた。
「これがこちらの手にあるとは知られていないだろうな」
「はい、取り上げた際にクリスが別の薬が入った瓶を割りました。ホーク先生にも薬は割れてしまったと言ってあります」
「そうか、医師団の者も待機している。まだ王弟殿下が領内の者に薬を飲ませれたと公にはできないので、私たちは裏から入る。特定の者にしか知らされていない出入口だ。他言は無用だ。もし第三者に知られたらお前も相手も即刻処罰される」
「……はい」
恐らくは王族が襲撃を逃れるための秘密通路。自分のような者が本来知るはずもない情報だ。
「団長はどこまでご存知なのですか?」
「お前が聞かされていることと殆ど変わらない。知ったのはお前がエドワルド領へ発ってからだがな」
「王宮内はいかがですか?何か変わりは?」
「今のところは、表だって動きはない。泳がせてはいるがな」
「………そうですか」
二人はそれきり黙ったまま、馬車は王宮への正門とは離れた王族の墓所へと向かう。
馬車が止まり、御者が扉を開ける。
「周囲の警戒を怠るな」
団長が御者に言い、ウィリアムも団長に続いて馬車を降りた。
いかに王都はいえ、真夜中の墓所ともなれば人の気配はまるでない。
どこかから梟の鳴き声が聞こえるが、それ以外は馬車に繋がれた馬の蹄と鼻息が聞こえるだけで静かだ。
団長は何も言わず目でついてこいと合図をして、先に墓所へと足を踏み入れていった。
ウォリス団長はカンテラひとつを持っていくつもの墓碑を通り抜け、墓所の奥へと足を進める。
広大な敷地を占める墓所にあって、各世代の王と王妃の墓は霊廟となっている。
そのうちのひとつ、古すぎてすでに石に刻まれた王の名も読めなくなっている霊廟の扉を彼は静かに開けた。
「ここはどなたの?」
「どなたの墓でもない。抜け道として造られたものだ。実際の王の墓を抜け道にはできないのでな。墓碑銘もわざと年月で風化したようにしてある」
「……ああ」
「少し後ろを向いていてくれ」
祭壇の前に立つと団長が言った。
「場所は教えざるを得なかったが、抜け道を開ける方法までは教えられない」
既に王族や限られたものしか知らされていない抜け道の存在を致し方ないとは言え、知ってしまったが、知る情報は少ない方がいい。
ウィリアムは黙って後ろを向いた。
ガタン、ガチャリと何度か音がして、やがて重い石が擦れ会う音が聞こえた。
「もういいぞ、暗いから足元に注意しろ」
振り向くとカンテラを持って立つ団長の足元にぽっかりと穴が空いていた。
「少し待っていろ」
「わかりました」
団長が階段を降りていき、もうひとつカンテラを持って上がってきた。
「ここから道なりに歩いて行けば目的地に着く。ここからはお前一人で行け」
前に突き出されたカンテラを受け取る。
「団長は?」
「私は別の用がある。出るときは表から宰相が出してくれる」
石段を降りていくと、後ろで団長が入り口を閉める音がして空気の流れが変わるのがわかった。
そのまま黙って前に進む。背が高いウィリアムの頭ぎりぎりの高さと大人二人が並ぶとぶつかるくらいの幅の空間に足音が響く。時折天井から水滴が滴り落ちる。
足元も少し下がったり登ったり一定ではない。
小一時間ほど歩くと徐々に登りばかりとなる。
階段が現れそこが通路の終着点だとわかる。
頭上の壁を叩くと壁が開いた。
暗さに慣れた目に光が眩しく、思わず目をつぶる。
「思ったより早かったな」
聞き覚えのある声が聞こえ、ゆっくり片目ずつ開けると目の前に宰相が立っていた。
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