転生して要人警護やってます

七夜かなた

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130 アネット・デリヒ

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私はアネット・デリヒ。お父様はエドワルド公爵領一の商会を経営しています。もちろんお金持ちよ。
そして私はその一人娘。美人と評判のお母様に似て、豊かな黒髪と美しい宝石のような青い瞳。蝶よ花よと育てられました。自慢ではないけどスタイルも抜群。
私の夢は王子様みたいな人と恋して結婚して幸せになること。
私ならどんな男でもイチコロだけど、安売りはしないわ。
だって私はアネット・デリヒなんだから。

ところで最近、その夢が現実になりそうな出来事があったの。
この領地を治める公爵様、王様の弟のキルヒライル様がこの国に戻ってきたの。
彼がここの領主となったときは私はまだ小さかったけど、お父様につれられて初めて見た彼はまるで私が小さいときから思い描いていた王子様そのもの。
銀色に輝く髪に濃紺の瞳。背も高くて整ったお顔立ち。私がようやく十歳になったばかりなのが悔しくて、今すぐでも婚約したいと駄々をこねたわ。
お父様お母様は私にとっても甘くて私が欲しいと言ったものは何でも手に入れてくれる。今度もそう思ったのに、そうはならなかった。
そのうち彼が戦争のためにどこかへ行ってしまって(どこと戦争しようとしてたのかどうでもいい)、私の前からいなくなってしまった。

彼がいなくなって私もそろそろ結婚、と言われたけど、誰も彼も王子様じゃなかった。だって彼は私の運命の人。きっと私が大人になるのを彼は待ってくれている。

そして、本当に彼は私のもとに帰って来た。

しかも彼もまだ独身。これはもう運命でしょ。

領地はもうすぐ収穫祭。年頃の娘はワイン娘なんてやって浮かれているけど、あんなの下世話な人たちの間の遊び。
私くらいになるとそんなお遊びに構ってられないわ。

それよりも大事なのは、公爵様が収穫祭のためにここへ戻ってくること。
私たちの運命の出会いが待ってるわ。

お父様にお願いしてお父様主催の会食で彼にエスコートしていただくことになった。

これは気合いを入れて美しく、さらに美しく着飾らなければ。

まずはドレス。領内にも店はあるけど、やっぱり王都に行かないと本当にいいものは手に入らないわ。
ドレスに靴、宝石。全てを揃えるには一日では足りない。全て揃うまで王都に行ってきますわ。

そうやって待ちに待った会食の日。
朝早くから体を磨きあげ、何度も何度も髪型を試行錯誤して化粧もばっちり。

久しぶりに見る殿下はすっかり凛々しい男性になっていた。
顔の傷も素敵。傷ついた殿下の心は山よりも高く海よりも深い私の愛で癒して差し上げるわ。

テーブルの下で殿下の足をつついてみる。あら、照れていらっしゃる?そうね、ここは人目が有りすぎるわ。
今夜、私の部屋の窓は開けておきますわね。

会食が終わって男性と女性とに別れてしまって、殿下とはそれっきり。
遅くに帰って来たお父様に、殿下とは難しいかもしれないと言われた。
は?あり得ないわ。

そうそう、侍女に聞いたんだけど、有名な占い師がいるんですって。祭りのために来ているらしいわ。私と彼の運命は決まっているけど、ちょっと将来について心づもりのために聞いてみるのもいいわね。

夕べのお父様の言葉も気になるし。
侍女にお金を渡してその占い師に会えるよう頼んでもらう。
なかなか予約が取れないらしいけど、お金持ちはそんなことしないわ。ちょっとお金を積めば簡単よ。
だって私はアネット・デリヒ。

約束した時間に行くと、薄暗くカーテンをしてお香を焚き、蝋燭の灯りだけの怪しい部屋に通された。
なんだかよく当たりそうね。

ベールで顔を隠した男か女かもわからない占い師がいて、何を占って欲しいか聞かれた。
当然、私とキルヒライル様の恋の行方。
まさに百年に一度、いえ、千年に一度と言われる運命の相手と言われるかと思ったら、二人が結ばれるためにはいくつも障害があるですってぇ。
私とキルヒライル様に限ってあり得ないと占い師に怒鳴り散らすと、占い師は数々の障害を乗り越えた二人の愛は永遠ですって。当たり前よ。私が十歳のときから思い続けているのだから。
そして占い師は私だけに特別にと言って小さな小瓶をくれた。
これは媚薬。もし彼が私以外の女性に惑わされそうになったら、これを飲ませなさい。きっと、彼は運命の相手が誰か思い出すでしょうですって。
私と彼が運命の人だと決まっているけど、彼を惑わす悪女が二人の恋路を邪魔するそうだ。

彼の目を醒まさせるためにこれを彼に飲ませなさいと渡された。
必要ないわ、と思いながら、まあタダだし気休めにもらっておくわ。

宴の二日目。今日はキルヒライル様もパレードに参加。早く行って一番前で彼の到着を待つ。
あ、きたきた。ああ、相変わらず素敵ね。二人の結婚式も馬車で街中を走るってどうかしら?
あら、私に気づかれた。当然よ。二人は運命の相手なんだから。
ああ、私に向けられたあの微笑み。思わず感嘆の声を出してしまったわ。
きゃあ、子どもたちの山車が傾いているわ。殿下が騎士たちに混じってあんなに必死に。汗くさいのは嫌いだけど、素敵。
あら、あの女。なに?殿下に立たせてもらって!
わざと子どもを助けてみせて、キルヒライル様の気を引こうなんて!

そしてお父様が宴でのダンスを殿下に承諾して戴いたと言ってきた。
殿下ったら私と踊りたかったのね。

でも、気に入らないのが他の方々も一緒なこと。特別なのは私で、他はおまけ、私の引き立て役よ。その証拠に私以上に美しい者なんていないわ。

殿下は私とだけお話したかったのに、あなたたちが邪魔をするから、キルヒライル様だって会話が弾まないわ。私がどんなに素敵なレディであるかわかっていただきたかったのに。
もしや彼女たちが彼を惑わす悪女?いえいえ、ただの小物よ。

お食事が終わりキルヒライル様がワイン娘たちのダンスのために席を外す。
ワイン娘とのダンスは義務だから仕方ない、わかって欲しい。踊りたいのは君だけ。それは最後にとっておくね。と私にだけわかるようにおっしゃる。ええ、わかっていますわ。二人が結ばれるための試練ですね。

花冠を乗せ、ワイン娘一人一人と踊っていくキルヒライル様。張り付いた笑顔がお痛わしい。
それも後一人の辛抱ですわ。
あら、休憩ですか?私がお慰めして差し上げたいけれど、あんなに大勢に囲まれては近づけませんわ。

それにしてもワイン娘って大したことないわ。ちんたらちんたらと同じダンスばかり。私とキルヒライル様のダンスを見て少しは勉強なさいませ。

あら、最後は違う曲ね。初めて見るわね。
ちょっと、何よあの女、他のワイン娘よりキルヒライル様に抱きついたり密着が過ぎませんこと?キルヒライル様も何だか他の四人の時と様子が違うわ。あの女。昨日も見たわ。
は、そうね、そうなのね、あの女がキルヒライル様を誑かす悪女。あの占い師が言った通りね。

私って勘がするどいわ。恋する女の勘というやつね。

すぐにキルヒライル様の目を醒まさせて差し上げなくては。

え、どうしてキルヒライル様はお倒れに?どうして?
やだ、離しなさい。どうして私にこんな乱暴をするの。キルヒライル様、お父様、助けて。
違うわ。キルヒライル様を殺そうとだなんて…何かの間違いよ!
だって私はアネット・デリヒなんだから。
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