転生して要人警護やってます

七夜かなた

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114 パレードその2

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パレードの前半は何事もなく進んだ。
山車の周りを帯刀した護衛騎士が固める。いつも以上に厳しい警備だったが、今年は公爵が参加している。それも仕方ないと思われているようだ。
山車の上から周囲を見渡してグスタフがいないか探すが、移動している山車の上から、しかもたくさんの人混みから見つけるのは至難の技だった。

山車は神輿のようなもので、ピラミッド状に積み上げた荷台の所々に人が座れるようになっている。

前を進む子どもたちは街の子どもの中から選ばれ、下は八歳、一番上は十二歳くらいまで。領内を五つに区切り、毎年交代でそれぞれの区域から選ばれる。

「さっき見物客からスゴイ悲鳴が上がってたね」

ジュリアさんが周りに手を振りながら皆に話しかける。

「あれって、もしかしてアネットさん?」
ミーシャさんも聞こえたらしい。
「やっぱり?そうだと思ったんだけど」
「アネットさんって?」
二人が悲鳴の主について知っているらしく、有名人なのかと訊くと、ふたりは笑いを噛み殺して目配せしあった。
「有名と言えば、そうだね。彼女はデリヒさんの一人娘で、まあ、美人だけど……」
「おつむがね」
「そう、ある意味すごく前向きって言えるわ。とにかく自分に都合の悪いこと、自分の理想と違うことがあると、自分の都合のいいように解釈しちゃうの」
「そうそう、例えば自分には運命の人がいる。その男性はまだ運命に気づいていない。私がその人に相応しい歳に成長するのを待っている。だっけ?」
「噂だと、その相手って殿下らしいわよ」
「ええ!やっぱり?」
そこにフレアとマリーも入ってくる。
まだ不安はあるがモリーの無事が分かって随分気が楽になったみたいだ。
「昨日のデリヒさん主催の会食も、親に無理を言って殿下にエスコートしてもらうって言っていたらしいわ」
「その話、私も聞いたわ。少し前から自慢気に話してたらしいわよ。ついに時は来たってね」
「じゃあ、さっきの悲鳴も?」
「きっと私に気づいて微笑んでくれた。とか思ってるんじゃないかな」
「私は彼女に微笑んだようには見えなかったけど……」
「そうだよね、殿下からは絶対に見えてなかったと思うわ」
「視線は私たちの方を向いていたよね」
フレアの言葉にみんながそうだよね、と頷き合った。
「私たちの方と言うよりは……」
四人の視線が無言のまま私の方を向く。
顔は周りに向けているが、視線は私に注がれる。
「ローリィ、昨日から何か様子が変だよね」
ミーシャさんが言う。
「そう言えば、ワイン娘の後、殿下たちとどこかへ行ってたよね」
ジュリアさんが言う。
「さっきも殿下たちと一緒にいたし、殿下も不自然なくらいローリィのこと心配してるみたい……」
フレアが言う。
「ウィリアムさんは既婚者でしょ、樽からだしてもらったのって、殿下の指示?」
ミーシャさんから再び詰め寄られる。
「あ、……えっと……」
こう言うときの女の団結力というか、直感というものは侮れない。
時折観衆に向かって笑顔で手を降りながら、私の口から何かを引き出そうと代わる代わる肘でつつきにくる。

その時、突然前方の子どもたちの乗る山車から悲鳴が上がった。

見ると山車の片輪が外れ、大きく傾いている。

「大変、落ちちゃうわ」
フレアが叫ぶ。

山車が止まり護衛騎士たちが救助に走る。子どもたちはパニックになり、周囲からどよめきが上がり、辺りは騒然となった。

何人かの顔役は状況がわかるまで不動を決め込んでいるのか動いていないが、殿下はすでに山車を降りて騎士たちと混じり傾いた山車を起こそうとしている。

十数人の子どもたちが乗る山車はかなり重い。
すぐには起き上がらない。

皆が子どもたちの山車に注目する中、私も慌てて山車を降りて子どもたちの救出に向かった。

「ローリィ、どこへ行くの?!」

「私も助けに行く!」

「行っても邪魔になるだけよ!」

「でも、ほっとけない」

ジュリアさんたちが静止するものの、私も出来ることはないかと側に駆け寄る。

「そっちを押さえてろ!」
「誰か支えになるものを持ってこい!」
「おい、こっちにも誰か来てくれ!」

山車の上から見た時より、側にくると更に現場は騒がしい。事態を何とかしようとする殿下や護衛騎士たちの大声と山車の上で泣きわめく子どもたちの声。よく見ると年長の子どもたちの中には、年下の子を宥めようとする子もいるようだ。

「おかあさ~ん」「恐いよ~」「わ~ん」「泣いちゃだめだ!みんな頑張って」
「ローリィ!ここで何をしている!」

懸命に荷台を起こそうとしている人々の中からキルヒライル様が私の姿をみとめて叫んだ。
汗びっしょりになり、太い棒を崩れた車輪に嵌め込み、テコの原理で起こそうとしている。
傾きかけた荷台から今にも落ちそうな子がいる。何とか踏ん張っているが子どもの腕の力ではそうもたない。そう思っていると両手で荷台にすがり付いていた一番上にいた女の子が、片手を離した。片手が外れた勢いで振り子のように揺れる。

「きゃー!」「危ない!」

見物人から悲鳴が上がる。
子どもは遂に手を離し空中に放り出された。

間に合うか、私はバレーボールのレシーバーか、野球の滑り込みのようにダイブし、空中で一回転して胸に少女を抱き込んだ。
物理は得意でないが、実際の体重に落下速度と高さが加わり、かなりの衝撃だった。
「だ、大丈夫?ゲホッ」
「マリエッタ!」
「ママァ」

落ちた子の母親が駆け寄り、マリエッタちゃんは起き上がり母親に抱きついた。

「ありがとう。ありがとうございます」
「無事で良かった」

上半身を起こして下から二人を見上げる。
それと同時に傾いた山車が起こされ、他の子も次々と山車から降りてくる。

座ったままそれを眺めていると影が差して誰かが側に立ったのがわかった。

「何をやっているんだ君は……」

見上げなくても誰が立っているかわかった。それでも恐る恐る目線を上にあげると、上着を脱ぎ捨てシャツ姿になり汗だくになったキルヒライル様が腕を組んで仁王立ちしていた。

「人……助けです」

滑り込んで泥だらけになった私は、小さくそれだけ言った。

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