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113 パレード
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エリックさんが戻ってくるのとお医者様を連れてジュリアさんが来たのはほぼ同時だった。
私たちは座っていた長椅子から立ち上がってお医者様を迎える。
やって来たのはネヴィルさんを診察してくれたお医者様だった。
「どれどれ………」
持ってきた診察鞄を置き、長椅子に横たわるモリーの顔を除き込んだ。
部屋のなかに七人も入り、一気に狭くなる。
女性の診察とあってエリックさんが遠慮して部屋から出ていった。
私たちも出ていこうとしたが、マリリンさんたちが来るまで側にいて欲しいとマリーに懇願されて一緒にいることになった。
「急に倒れたと聞きましたが、何か持病でも?」
お医者様がマリーに顔を向けて訊く。患者と同じ顔をしているので身内だとすぐにわかる。
「ありません」
「そうですか……最近変わった様子は?」
「あの、昨日から家に戻ってこなくて、捜索願いを出したところで警羅の人に連れられて戻ってきたんです」
マリーの話を聞いて医者はモリーの手首の脈を取ってから下瞼を見、聴診器を胸に当てて容態を診た。
「心音はしっかりしている。脈は少々弱いが、極度の緊張にさらされていたのと脱水が原因だろう。すぐに目が覚めるだろう。気がついたら水分を取らせなさい。大丈夫、すぐに良くなりますよ」
医師の言葉にマリーも私たちも安堵する。
昨日から今まで何をしていて何処にいたのかまだ分かっていないが、無事が確認できてよかった。
「目が覚めたらあまり刺激を与えないように、患者に取って安心できる環境で休ませてあげてください」
お医者様は立ち上がりマリーの肩をポンと叩き励ますように言った。
「ありがとうございます」
安心してまたもや、今度は嬉し涙を流すマリーの代わりに私はお礼を言った。
「すいません、患者の身内です。彼女の容態は?」
バタバタと複数の足音が聞こえ、マリリンさんや彼女の旦那さん、両親が慌てて部屋に駆け込んできた。
「お、お姉ちゃん、お父さんお母さん」
側に座るマリーが家族を認めて駆け寄る。
「マリー、大丈夫よ。皆で来たから安心して」
彼女の背中をポンポンと叩き、安心させるように宥める。
「安心しなさい。目立った外傷もない。疲労と、恐らく極度の心労、それと脱水ですね。何があったかわかりませんが、安静にしていればその内気がつくでしょう」
一同がそれを聞いてほっとして気絶しているモリーの顔を見つめる。
「あ、ありがとうございます」
「さて、私はこれで失礼します」
「送っていきます」
マリリンさんの旦那様が進み出る。
「ああ、気にしないで。祭りを見物がてら戻るから、どうせ広場の救護に行くところです」
お医者様を見送り、私たちもそろそろパレードに行かなくてはいけない時間になった。
「マリー、良かったね。モリーが大したことなくて………」
母親が嬉しそうにもう一人の娘に声をかけた。
「ジュリア、悪いんだけど、モリーはパレードを欠席させるわ」
マリリンさんがそう言うとジュリアさんはもっともだと頷いた。
「マリーはどうする?モリーならお母さんたちがついているし」
「私は……出るよ。二人も出ないのは悪いし」
「そうね、じゃあ私たちはモリーの目が覚めたら家に連れて帰るから、あなたは頑張ってきなさい。ジュリア、ローリィ、フレア。あなたたちもモリーの分まで頑張ってきて」
「ありがとう」「ありがとうございます」
私たちはマリーとともに部屋を出た。
エリックさんが部屋の外で待ち構えていた。
「どうだった?」
「疲労と緊張、それから脱水。安静にしていれば大丈夫だそうです」
「そうか………大事なくて良かったな」
「でも、パレードはやっぱり欠席するから、五人で出ることになりました」
「仕方ないな。ああ、さっき殿下たちは先に行くと連絡があった。大丈夫ならすぐにでも行こう」
私たちは急いでパレードの出発点へと向かった。
向かう道すがらパレードが始まったら、エリックさんはひとまずウィリアムさんたちと合流するように言われているとのことだった。
パレードの出発点に着くと、すでに殿下たちや子どもたちは準備を整えて待ち構えていた。
係りの者が慌てて私たちの所に駆け寄ってくる。
「よかった。間に合ったんですね。少し遅れてこられるかもと殿下がおっしゃっていましたが」
「ご迷惑をおかけしてすいません。一人、体調が悪くて」
「それも伺っています」
エリックさんがモリーが倒れたことを報告してくれていたので、殿下もご存知だ。お医者様を呼んだことも伝わっているから、診察に時間がかかると思い気遣ってくれたのだろう。
「ワイン娘のいない祭りのパレードはありませんからね。少しならお待ちしても大丈夫ですよ」
彼はそう言って私たちをパレードの先頭に案内してくれた。
パレードには三つの山車が出る。
ひとつはキルヒライル様たち主催者の乗る山車。
もうひとつはワイン娘の乗る山車。
後ひとつは街の子供たちが乗る。
順番は一番前が子どもたち。二番目が私たちワイン娘。そして最後が殿下や顔役さんたち。
係りの人について向かう途中で殿下たちの一団を通りすぎた。
殿下たちはすでにパレード用の山車に乗り、顔役の一人と話をしていた。上から私たちが通りすぎるのを見て、こちらに向かって微笑んだ。
パレードの出発を待つ観衆の中から黄色い声が上がる。
わかりますよ。あの微笑みは悩殺ものでしたもの。
皆が位置に着き、係の者が全員が揃ったことを確認し、パレードは出発した。
私たちは座っていた長椅子から立ち上がってお医者様を迎える。
やって来たのはネヴィルさんを診察してくれたお医者様だった。
「どれどれ………」
持ってきた診察鞄を置き、長椅子に横たわるモリーの顔を除き込んだ。
部屋のなかに七人も入り、一気に狭くなる。
女性の診察とあってエリックさんが遠慮して部屋から出ていった。
私たちも出ていこうとしたが、マリリンさんたちが来るまで側にいて欲しいとマリーに懇願されて一緒にいることになった。
「急に倒れたと聞きましたが、何か持病でも?」
お医者様がマリーに顔を向けて訊く。患者と同じ顔をしているので身内だとすぐにわかる。
「ありません」
「そうですか……最近変わった様子は?」
「あの、昨日から家に戻ってこなくて、捜索願いを出したところで警羅の人に連れられて戻ってきたんです」
マリーの話を聞いて医者はモリーの手首の脈を取ってから下瞼を見、聴診器を胸に当てて容態を診た。
「心音はしっかりしている。脈は少々弱いが、極度の緊張にさらされていたのと脱水が原因だろう。すぐに目が覚めるだろう。気がついたら水分を取らせなさい。大丈夫、すぐに良くなりますよ」
医師の言葉にマリーも私たちも安堵する。
昨日から今まで何をしていて何処にいたのかまだ分かっていないが、無事が確認できてよかった。
「目が覚めたらあまり刺激を与えないように、患者に取って安心できる環境で休ませてあげてください」
お医者様は立ち上がりマリーの肩をポンと叩き励ますように言った。
「ありがとうございます」
安心してまたもや、今度は嬉し涙を流すマリーの代わりに私はお礼を言った。
「すいません、患者の身内です。彼女の容態は?」
バタバタと複数の足音が聞こえ、マリリンさんや彼女の旦那さん、両親が慌てて部屋に駆け込んできた。
「お、お姉ちゃん、お父さんお母さん」
側に座るマリーが家族を認めて駆け寄る。
「マリー、大丈夫よ。皆で来たから安心して」
彼女の背中をポンポンと叩き、安心させるように宥める。
「安心しなさい。目立った外傷もない。疲労と、恐らく極度の心労、それと脱水ですね。何があったかわかりませんが、安静にしていればその内気がつくでしょう」
一同がそれを聞いてほっとして気絶しているモリーの顔を見つめる。
「あ、ありがとうございます」
「さて、私はこれで失礼します」
「送っていきます」
マリリンさんの旦那様が進み出る。
「ああ、気にしないで。祭りを見物がてら戻るから、どうせ広場の救護に行くところです」
お医者様を見送り、私たちもそろそろパレードに行かなくてはいけない時間になった。
「マリー、良かったね。モリーが大したことなくて………」
母親が嬉しそうにもう一人の娘に声をかけた。
「ジュリア、悪いんだけど、モリーはパレードを欠席させるわ」
マリリンさんがそう言うとジュリアさんはもっともだと頷いた。
「マリーはどうする?モリーならお母さんたちがついているし」
「私は……出るよ。二人も出ないのは悪いし」
「そうね、じゃあ私たちはモリーの目が覚めたら家に連れて帰るから、あなたは頑張ってきなさい。ジュリア、ローリィ、フレア。あなたたちもモリーの分まで頑張ってきて」
「ありがとう」「ありがとうございます」
私たちはマリーとともに部屋を出た。
エリックさんが部屋の外で待ち構えていた。
「どうだった?」
「疲労と緊張、それから脱水。安静にしていれば大丈夫だそうです」
「そうか………大事なくて良かったな」
「でも、パレードはやっぱり欠席するから、五人で出ることになりました」
「仕方ないな。ああ、さっき殿下たちは先に行くと連絡があった。大丈夫ならすぐにでも行こう」
私たちは急いでパレードの出発点へと向かった。
向かう道すがらパレードが始まったら、エリックさんはひとまずウィリアムさんたちと合流するように言われているとのことだった。
パレードの出発点に着くと、すでに殿下たちや子どもたちは準備を整えて待ち構えていた。
係りの者が慌てて私たちの所に駆け寄ってくる。
「よかった。間に合ったんですね。少し遅れてこられるかもと殿下がおっしゃっていましたが」
「ご迷惑をおかけしてすいません。一人、体調が悪くて」
「それも伺っています」
エリックさんがモリーが倒れたことを報告してくれていたので、殿下もご存知だ。お医者様を呼んだことも伝わっているから、診察に時間がかかると思い気遣ってくれたのだろう。
「ワイン娘のいない祭りのパレードはありませんからね。少しならお待ちしても大丈夫ですよ」
彼はそう言って私たちをパレードの先頭に案内してくれた。
パレードには三つの山車が出る。
ひとつはキルヒライル様たち主催者の乗る山車。
もうひとつはワイン娘の乗る山車。
後ひとつは街の子供たちが乗る。
順番は一番前が子どもたち。二番目が私たちワイン娘。そして最後が殿下や顔役さんたち。
係りの人について向かう途中で殿下たちの一団を通りすぎた。
殿下たちはすでにパレード用の山車に乗り、顔役の一人と話をしていた。上から私たちが通りすぎるのを見て、こちらに向かって微笑んだ。
パレードの出発を待つ観衆の中から黄色い声が上がる。
わかりますよ。あの微笑みは悩殺ものでしたもの。
皆が位置に着き、係の者が全員が揃ったことを確認し、パレードは出発した。
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