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100 後継者問題
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「よろしいでしょうか」
それまで黙っていたフィリップ司祭が手を上げる。
「どうされましたか、司祭様」
デリヒが訊ねる。
「殿下が六年のご不在について謝罪されましたが、皆様、その件については許容されるということで良いのでしょうか」
司祭の問いかけに顔役を始め、農場主たちも顔を見合わせる。
「まあ、確かに不安ではありましたが、国王陛下や宰相閣下が優秀な管財人を手配してくださいましたし」
「元々、先のご領主様もご高齢で、領地運営に積極的ではありませんでしたので、我々も早くから各自で勝手にやってきたところもありました。殿下がご領主に成られて最初の四年でずいぶん改革をしていただき、我々も何とかそれをまもってやってこれたわけですから」
領主となってから最初に行ったのは水の整備。
河川の沿岸を開拓し、かなりの大雨が来ても決壊しないように整備し、どの農場にも水が行き渡るように治水した。
街も区間を整理し、水捌けの悪い所は大規模修繕を行った。
全ての工事を最初の四年で計画し、工事は私が不在の間も計画どおり進められ、今の領地の形が出来上がった。
「幸い、殿下が開拓された河川の堤防を決壊する程の災害も無く、こうやって今年も豊作を迎えられました」
「最初に殿下がすべての青写真を描いていただいたお陰です」
「……というわけですから、もうこの話はここで終わりに致しましょう」
司祭が手をうち、それで皆が納得した。
「皆の期待に答えられるよう、私も頑張ろう。これからも宜しく頼む」
改めてそう言うと、とんでもない、こちらこそと互いに言い合った。
「残るは、後継者問題ですかな」
デリヒがすかさずその話題を持ち出してきた。
その意図をその場にいた全員が察し、デリヒ一人に任せておけないと、また違う意味で口々に喋りだした。
「ま、待て、その件は兄や義姉上とも話し合わなければならないからな。しばらく待って欲しい」
「と、言いますと、何か殿下にはお考えがあるのですか?」
まさか既に候補がいるのかと、詰め寄る。
今までの自分なら、単に結婚というものから逃げていた節があった。
兄夫婦を見ていて、結婚というものに嫌悪感はなかったが、自分の気質を考えて、良き父になれる自信はあったが、良き夫となれるか自信がなかったからだ。
自分の伴侶となるなら、少なくとも妻として、また自分の子どもの母として尊重できる人物でなくてはと考えていたし、仮にそんな人がいないなら、独身でもいいとさえ思っていた。公爵として跡継ぎが必要なら、優秀な者を養子にしても、とも考えていた。
けれど、今、自分の中でローリィという存在が誰よりも大きくなり、結婚というものが俄に現実なものとして目の前に見えてきた。
彼女の他にこの先、彼女以上に大切にしたいと思う者が現れるとは思えない。
女性遍歴は決して賑やかだったとは言えないが、一緒にいたいと思ったのは彼女が初めてだ。
だからこそ、彼女が誰からも自分の伴侶として相応しいと、周りに認めてもらう必要がある。
貴族ではないからと言うことで、王弟である自分の隣に立つに値しないと後ろ指を指されないようにしなくてはならない。
祭への貢献もしかり、ネヴィルの代理としての経験もしかり、領主の伴侶として、共に領地運営を行っていくに足る存在であると、周りに認めてもらえるように。
「適切な時期が来たら皆にも話す。今はその件はしばらく待って欲しい」
ちゃんと考えていると伝え、今日のアネット嬢のようなことがないように牽制もする。
デリヒが自分の娘をと目論んでいたことをやんわりと拒絶され、恥じ入ったように下を向く。
何人かは先走って行動したデリヒを陰で嘲笑ったが、同じようなことを考えていた者は我がことのように聞いていた。
「では、そのことは暫く黙って見守らせていただきましょう」
この場でその問題に中立な立場である司祭が言い、皆が同意した。
それまで黙っていたフィリップ司祭が手を上げる。
「どうされましたか、司祭様」
デリヒが訊ねる。
「殿下が六年のご不在について謝罪されましたが、皆様、その件については許容されるということで良いのでしょうか」
司祭の問いかけに顔役を始め、農場主たちも顔を見合わせる。
「まあ、確かに不安ではありましたが、国王陛下や宰相閣下が優秀な管財人を手配してくださいましたし」
「元々、先のご領主様もご高齢で、領地運営に積極的ではありませんでしたので、我々も早くから各自で勝手にやってきたところもありました。殿下がご領主に成られて最初の四年でずいぶん改革をしていただき、我々も何とかそれをまもってやってこれたわけですから」
領主となってから最初に行ったのは水の整備。
河川の沿岸を開拓し、かなりの大雨が来ても決壊しないように整備し、どの農場にも水が行き渡るように治水した。
街も区間を整理し、水捌けの悪い所は大規模修繕を行った。
全ての工事を最初の四年で計画し、工事は私が不在の間も計画どおり進められ、今の領地の形が出来上がった。
「幸い、殿下が開拓された河川の堤防を決壊する程の災害も無く、こうやって今年も豊作を迎えられました」
「最初に殿下がすべての青写真を描いていただいたお陰です」
「……というわけですから、もうこの話はここで終わりに致しましょう」
司祭が手をうち、それで皆が納得した。
「皆の期待に答えられるよう、私も頑張ろう。これからも宜しく頼む」
改めてそう言うと、とんでもない、こちらこそと互いに言い合った。
「残るは、後継者問題ですかな」
デリヒがすかさずその話題を持ち出してきた。
その意図をその場にいた全員が察し、デリヒ一人に任せておけないと、また違う意味で口々に喋りだした。
「ま、待て、その件は兄や義姉上とも話し合わなければならないからな。しばらく待って欲しい」
「と、言いますと、何か殿下にはお考えがあるのですか?」
まさか既に候補がいるのかと、詰め寄る。
今までの自分なら、単に結婚というものから逃げていた節があった。
兄夫婦を見ていて、結婚というものに嫌悪感はなかったが、自分の気質を考えて、良き父になれる自信はあったが、良き夫となれるか自信がなかったからだ。
自分の伴侶となるなら、少なくとも妻として、また自分の子どもの母として尊重できる人物でなくてはと考えていたし、仮にそんな人がいないなら、独身でもいいとさえ思っていた。公爵として跡継ぎが必要なら、優秀な者を養子にしても、とも考えていた。
けれど、今、自分の中でローリィという存在が誰よりも大きくなり、結婚というものが俄に現実なものとして目の前に見えてきた。
彼女の他にこの先、彼女以上に大切にしたいと思う者が現れるとは思えない。
女性遍歴は決して賑やかだったとは言えないが、一緒にいたいと思ったのは彼女が初めてだ。
だからこそ、彼女が誰からも自分の伴侶として相応しいと、周りに認めてもらう必要がある。
貴族ではないからと言うことで、王弟である自分の隣に立つに値しないと後ろ指を指されないようにしなくてはならない。
祭への貢献もしかり、ネヴィルの代理としての経験もしかり、領主の伴侶として、共に領地運営を行っていくに足る存在であると、周りに認めてもらえるように。
「適切な時期が来たら皆にも話す。今はその件はしばらく待って欲しい」
ちゃんと考えていると伝え、今日のアネット嬢のようなことがないように牽制もする。
デリヒが自分の娘をと目論んでいたことをやんわりと拒絶され、恥じ入ったように下を向く。
何人かは先走って行動したデリヒを陰で嘲笑ったが、同じようなことを考えていた者は我がことのように聞いていた。
「では、そのことは暫く黙って見守らせていただきましょう」
この場でその問題に中立な立場である司祭が言い、皆が同意した。
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