転生して要人警護やってます

七夜かなた

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96 お祝い

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ワイン娘のパフォーマンスの効果を私は侮っていた。

歩いて領主館へ戻る途中、私は見知らぬ人達から何度も声をかけられ、幾度となく足を止めることになった。

衣装は誰が作ったのか。
踊りは誰の発案か。
どこかの舞屋で働いているのか。

中には足を見せろや、どこかで披露しろとか卑猥な言葉を投げ掛ける輩もいたが、それらは向こう脛への蹴りや腹部への一発で軽くいなした。
逆上する者もいたが、そういう輩はすかさず腕を捻りあげるか、わざと泣き叫んで周囲の注目を集めるとさっさと逃亡を図る小物だった。

そんなことをしながら館にたどり着く頃には、陽もとっぷり暮れてしまっていた。

「あ、戻ってきた!」

玄関口にたどり着いた私の姿を見て、フレアが駆け寄ってきた。

「あんまり遅いから、探しに行こうって言ってたのよ」

「わ、私?」

ミーシャさんやフィリアさんまでやって来る。

確かに外はすっかり陽が落ちてしまっているが、まだまだ宵の口である。それほど遅かったとは思えない。
心配させたことは悪かったが、そのことを伝えるとフレアが何を言っているの、と詰め寄ってきた。

「今日のワイン娘でのことで私たち祭りを見物してた人たちの間ですっかり有名人になって、大変だったのよ!私たちは騎士の方たちに送ってきてもらったから、何とかすり抜けられたけど、あなた一人だったでしょ?ウィリアムさんたちは殿下と顔役の宴会に行くって言ってたし」

「変な人たちに絡まれなかった?」

ミーシャさんが心配して訊いてきた。

「あー………まあ……」

色々思い当たる人物はいたが、特に問題はなかったと答えた。

「本当に?」

疑わしげにフレアにも訊かれたが、むしろ実害があったのは向こうの方だろう。

「わざと泣き叫んだら慌てて逃げちゃいました」

蹴ったり腕を締め上げたり、お腹に一発お見舞いしたことも話す。現場を見ていた人もいるので、隠しても仕方ない。

「お腹に一発?」

三人は聞いた話が俄に信じられず顔を見合わせる。

「またまた冗談を」

「いえ、本当に……」

護身術くらい身に付けてますと説明する。攻撃もできるがそこまで言うと恐がられそうなので、そこは黙っておく。

「………まあ、とりあえず、無事で良かったわ」

フィリアさんが現実逃避して結果オーライで話を締めくくる。

実際に見ないと信用できないみたいだ。

「ご心配おかけしてすいませんでした」

無理に信用してもらおうとここで意固地になっても仕方ないので、もう一度謝る。

「さあさあ、皆、いつまでも玄関で立ち話していないで、お祝いしましょう」

食堂からマーサさんが出て来てささやかだが祝いの宴を設けてくれたと皆を呼んだ。

「明日は王都からの応援もくるし、明後日は収穫祭最後のご領主様主催の宴で忙しくなるわ。今夜はキルヒライル様も遅いし、無礼講で楽しみましょう」

言われて皆で食堂に行けば、どこの晩餐だと思うくらいのご馳走が並んでいた。

丸々一匹の鳥の丸焼き、美しい前菜の数々にローストビーフ。ジビエの季節なので、雉や鹿肉もある。

「キルヒライル様からのお心遣いだから、皆、後でお礼を言ってね」

マーサさんがそう言うと、皆がわあっと盛り上がった。

「さあ、料理が冷めてしまいますよ」

チャールズさんが皆に早く席に着くようにと声を掛け、皆一斉に食卓へ押し寄せた。

私は持っていた衣装を先に洗濯室へ持っていくと言ってそちらへ向かった。

「ローリィ」

途中でクリスさんが私を追って声をかけてきた。

立ち止まって振り替えると、ミーシャさんも一緒にいる。

「その、ありがとな、お前が背中押してくれたんだろ」

照れ臭そうにクリスさんがそう言い、ミーシャさんもありがとうと言う。

「大したことしてませんよ。頑張ったのは二人だから」

「それでも、お礼を言いたかったの」

「なんか、俺たちだけ済まない。お前はウィリアムさんだったのに………いや、あの人が悪いとかそんなんじゃないけど、あの人既婚者だろ?何だかやらせみたいだったし」

「別に………私には二人みたいな人がいなかったから、あの場はあれでよかったと思う。一人ぼっちよりね」

強がりでなく、これは本心。本当に好きな人とあの後に………。

そのことを思い出して二人の前で赤面した。

「………?」

急に赤くなった私を二人は怪訝そうに見る。

「私、ちょっと顔を洗ってくる。歩いて帰って来て埃っぽいし、二人は先に食べてて」

「……?お、おお、わかった」

「待ってるから早く来てね」

「じゃあ……」

それ以上二人に顔を見せられず慌てて洗濯室へかけていった。

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