転生して要人警護やってます

七夜かなた

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93 過去からの恨み

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ウィリアムさんが申し訳なさそうに声をかける。

「申し訳ございません。先ほどのことで報告があります」

どれくらい話し込んでいたのだろう。気がつけば夕闇が迫っている。

「入れ」

慌てて私は涙を拭い、二人で居ずまいを正す。

ウィリアムさんが衣服を持ち遠慮がちに入ってくる。

それはフレアが届けてくれた私の着替えだった。

「フレアという子が持ってきてくれた。後で着替えなさい」

そう言って手渡してくれた時に、私の睫毛が濡れているのを見て、何も言わずに殿下を睨んだ。

「違うの、ウィリアムさん、これはキ、殿下のせいでなくて、私が勝手に」

殿下が私を泣かせたと、ウィリアムさんは思っただろう。だから殿下を睨んだ。
ウィリアムさんが私のことで殿下にそういう対応をしてくれたことが嬉しい。

「違うならいいが、私はてっきり………」

「妹のように思っている娘にちょっかいを出す輩として、私への評価が低いのはわかるが、けっしていじめていたわけではないぞ」

ちょっかいって、どこでそんな言葉を覚えられたのか、そんなことを言えばウィリアムさんに変に思われてしまうではないですか、と思わず殿下を睨んだ。
私の睨みに殿下はまるで気にしない。

「それは、大変失礼いたしました。私の早合点でした。申し訳ございません」

ウィリアムさんが謝った。ちょっかいを出すという言葉に何の反応も示さない。
まさかとは思うが、何か知っているのかとウィリアムさんの顔を覗きこんでみれば、私の視線に気付き柔らかく微笑んだ。

殿下の気持ちをウィリアムさんは以前から知っているようだった。
焦って殿下を見れば、何やら意味あり気な顔で笑っている。

「わかってくれたならいい。それで、報告を聞こう」

ウィリアムさんが部屋にやって来た本来の目的に話しを向ける。

「殿下が見かけたという外套の男ですが、すでに会場にはおりませんでした。ですが、複数の目撃証言があり、あの会場にそういった人物がいたのは確かです」

「そうか、身間違いかと思ったが」

口許に手をあてて殿下は何やら考え込む。

「ローリィ、君は君たちチューベローズの樽の回りにいた、外套の男を見たか?」

言われて頭の中でユリシスさんを思い浮かべる。

「一人心当たりはありますがその外套の男の人がどうかしましたか?」

「詳しい人相を言えるか?肌は浅黒く瞳は鳶色」

「え、どうしてそれを?」

彼が的確にユリシスさんの特徴を言い当て驚く。
知り合い?

「他に特徴は?」

ほとんど外套を羽織っていたので、あまり伝える情報はない。

「体の左半分に火傷の痕があるってことだけ。手の甲とか、足にもあって時々ひきつるとか。祭りのために知り合いを訪ねて来たとか」

「火傷………」

その言葉を聞いて殿下は黙ってしまった。

「あの、ユリシスさんが何か?」

「そう名乗っているのか」

「……私にはそう言いました」

「そうか………ユリシス」

険しい顔つき。これはさっき見た殺人ビームを出しそうな雰囲気と同じ。

「もう、その男とは会うな」

一言、殿下がそう言った。

「会うな、と言われても私、その人の住んでいる所も知りませんし、一度目に会ったのも偶然で………」

「偶然ではないかもしれない」

きっぱりと言い切る。

「そう思う理由を、教えていただけますか?」

「だめだと言っても、引き下がらないのだろう?」

「私の強情ぶりはご存知でしょう」

これまでのやり取りから、そのことをよく知る殿下は、確かにな、と呟いた。

「………納得いく理由がなければ、そなたも引き下がらないだろうし、自分がどういう人物を相手にしているのか、知っておいた方が今後の用心にもなるだろう」

まだ確証はないし、あくまで可能性ではあるが、と前置きして殿下が言った。

「浅黒い肌に鳶色の瞳、おそらくだが、それはアレン・グスタフだ」

その名前に、私は心当りはなかったが、側のウィリアムさんがはっと息を飲んだため、それなりに有名な人物なのがわかった。

「殿下、それは………」

ウィリアムさんの言わんとすることを察し、殿下が頷く。
そして、私に説明するためその人物について語り出す。

「アレン・グスタフはマイン国の軍部の人間だ」

そこで彼は言葉を切った。次の言葉を選んでいるように見える。

「若くしてマイン国軍部の最高責任者にまでなった男で、ロイシュタールとの戦を企てた軍の一人と噂されていた。だが、正式には処罰されていない。何故なら、六年前、国王が差し向けた国軍の手が及ぶ前にこちら側の者との繋がりを示す証拠とともに屋敷に火を放ち、焼死したとされたからだ。実際、その火災の現場を私も見た」

「…………!!」

私もウィリアムさんも言葉が出なかった。すでに死んでいたと思っていた人物が実は生きていたかも知れないという事実。

「無論、見かけたのは一瞬で、彼は本当に死んでいて、他人のそら似ということもある」

「火傷の痕が気になるのですね」

私が言うと、それもある。と殿下が言う。

「焼け落ちた屋敷跡からはグスタフと思われる焼死体が発見されたが、彼だとはっきり証明もできてない。死体を見て彼だと思い込んでいた」

それはそうだ。前世ならDNA鑑定で何とかなったかも知れない。それでも黒焦げの死体から必要な組織が取れればの話だが。

「それに、ユリシス……彼はそう名乗っていたと言ったな」

「はい」

「それは、彼の父親の名だ。息子のアレンが軍部の最高責任者なら、父親は政治の有力者。摂政ユリシス・グスタフ。彼がロイシュタールとの戦を即位間もない王にたきつけた張本人だ」

似た容姿、火傷の痕、そしてユリシスという名前。偶然と考えるには札が揃いすぎている。

「彼が、私と出会ったその人がその人物だったとして、彼はどうしてここまで追ってくるのですか?確かに殿下は無関係とは言えませんが、先に戦争を企てようとしたのは向こうであって、それを阻止されたからとは言え、それは逆恨みでは?」

六年も経っているのだ。ましてここはロイシュタール国。ここまで追ってくる恨みがあるのだろうか。

「逆恨み……そうかも知れない。彼は全てを失った。地位も権力も家族も。失うものはもうないのかも知れない。色々なもの失い、あらゆる者を恨み、その怒りの矛先を全て私に向けているのだろう。彼の、彼の一族の滅亡への導火線に火を点けたのは私だからな」

それはどういう?と無言で訊ねる。

「彼の父親、アレン・グスタフが神のように崇め慕っていたユリシス・グスタフを殺したのは私だからだ」


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