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90 呼吸困難
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自分の耳に入ってきた言葉が信じられない。熱っぽく語る殿下の言葉が頭の中で駆け巡る。
これではまるで愛を語っているみたいだ。
私の頭が殿下の言葉を都合よく脳内変換して、そう聞こえているだけなのでは。
違う意味で言っているのだと、必死で別の意味を考えるが、前世での知識を駆使しても、まったく他の言葉が浮かんでこない。
口から心臓が飛び出るくらいドキドキしている。
「私といればいらぬ注目を集めてしまう。そなたを好きだと思う私の気持ちが知られれば、私の弱点だとなって狙われると思った」
私は呼吸するのも忘れてただただ呆然と話を聞く。呼吸ってどうするんだっけ。吸って吐いて、ヒッヒッフー。これって出産時のラマーズ法だ。
そんな風にパニックになっている私の様子に、殿下はようやく気がついた。
「どうした、呼吸が止まっているぞ、しっかりしろ」
真っ赤になってプルプルする私を揺さぶり声をかける。
おかげで私は我に返り、思い切り息を吐き出す。吐き出せば自然と空気が入ってきてようやく呼吸方法を思い出した。
「す、ずいまぜん……」
椅子にぐったりと背を預け、しわがれ声で謝る。
「いや、早く気づいてやれずすまなかった」
私の様子に気づけなかったことに、殿下が申し訳なさそうに言う。
「いえ、殿下は悪くありません。突然のことについていけない私が悪いのです!あ、イタ!」
がばりと起き上がると、すぐ側にあった殿下のおでこにぶつかった。
ガチンと音がして火花が散った。
「ずいまぜん」
互いに額を押さえ身悶える。
せっかくの愛の告白もこれでは台無しだ。
………あれ?愛の告白でよかったのよね。気のせい?
「あの、勘違いでなければ、今のは殿下が私を、その、好きだと言うことですか?」
おでこを押さえながら訊ねる。今までが夢で今の衝撃で目が覚めたとも思える。
私の発言に、同じく殿下がおでこを押さえながら呆れた顔を向けた。
「……まったく、その耳は飾りか……それとも今の衝撃で記憶を失ったか。そなたが言ったのだぞ、私に強く思われたら大抵の女性は落ちるとな」
忌々しげに殿下が言う。
昨日、確かにそんなようなことを言った。
それが、まさか自分のことだとは思っていなかった。
「だって……」
「いい加減、その反抗的な口を閉じろ!」
「で………!」
殿下がそう言って自分の口で私の口を塞いだ。
始めは罰するように。その内に力が抜けて何度か向きを変えながら、私が抵抗しないことがわかるとさらに深くなり、やがて殿下の舌が私の唇をなぞる。私がそっと唇を開くと殿下の舌が私の口腔に入り込み、私の舌を捕らえて絡ませる。
いつの間にか互いの首に腕を回し、時間を忘れて口づけを続けていた。
「はあ………」
自分のものとは思えないため息がもれ、唇がようやく離れる。
「これでわかったか。まだわからないなら、もっと続けるまでだ」
熱っぽくささやく言葉に返す言葉が見つからず、黙っているのを勝手に解釈して、再び殿下が唇を重ねる。
今度は最初から唇を割って舌を絡ませてくる。
もう勘違いでも夢でもない。
あの日、街道で彼を介抱した時、水を飲ませるために唇を重ねた時から、こんな風に口づけされることを望んでいたのかも知れない。
あの時の彼がキルヒライル様だとわかって、心のどこかで諦めていた。
彼は王族で、私は今はただの平民で。
そのことに気付き、私はハッと口づけを止めて首に回していた腕をほどき、殿下の胸に手をあてて押し退けた。
「だ、だめです」
いきなり突き放され、殿下は目を見開いて何が起こったのかと呆然とする。
これではまるで愛を語っているみたいだ。
私の頭が殿下の言葉を都合よく脳内変換して、そう聞こえているだけなのでは。
違う意味で言っているのだと、必死で別の意味を考えるが、前世での知識を駆使しても、まったく他の言葉が浮かんでこない。
口から心臓が飛び出るくらいドキドキしている。
「私といればいらぬ注目を集めてしまう。そなたを好きだと思う私の気持ちが知られれば、私の弱点だとなって狙われると思った」
私は呼吸するのも忘れてただただ呆然と話を聞く。呼吸ってどうするんだっけ。吸って吐いて、ヒッヒッフー。これって出産時のラマーズ法だ。
そんな風にパニックになっている私の様子に、殿下はようやく気がついた。
「どうした、呼吸が止まっているぞ、しっかりしろ」
真っ赤になってプルプルする私を揺さぶり声をかける。
おかげで私は我に返り、思い切り息を吐き出す。吐き出せば自然と空気が入ってきてようやく呼吸方法を思い出した。
「す、ずいまぜん……」
椅子にぐったりと背を預け、しわがれ声で謝る。
「いや、早く気づいてやれずすまなかった」
私の様子に気づけなかったことに、殿下が申し訳なさそうに言う。
「いえ、殿下は悪くありません。突然のことについていけない私が悪いのです!あ、イタ!」
がばりと起き上がると、すぐ側にあった殿下のおでこにぶつかった。
ガチンと音がして火花が散った。
「ずいまぜん」
互いに額を押さえ身悶える。
せっかくの愛の告白もこれでは台無しだ。
………あれ?愛の告白でよかったのよね。気のせい?
「あの、勘違いでなければ、今のは殿下が私を、その、好きだと言うことですか?」
おでこを押さえながら訊ねる。今までが夢で今の衝撃で目が覚めたとも思える。
私の発言に、同じく殿下がおでこを押さえながら呆れた顔を向けた。
「……まったく、その耳は飾りか……それとも今の衝撃で記憶を失ったか。そなたが言ったのだぞ、私に強く思われたら大抵の女性は落ちるとな」
忌々しげに殿下が言う。
昨日、確かにそんなようなことを言った。
それが、まさか自分のことだとは思っていなかった。
「だって……」
「いい加減、その反抗的な口を閉じろ!」
「で………!」
殿下がそう言って自分の口で私の口を塞いだ。
始めは罰するように。その内に力が抜けて何度か向きを変えながら、私が抵抗しないことがわかるとさらに深くなり、やがて殿下の舌が私の唇をなぞる。私がそっと唇を開くと殿下の舌が私の口腔に入り込み、私の舌を捕らえて絡ませる。
いつの間にか互いの首に腕を回し、時間を忘れて口づけを続けていた。
「はあ………」
自分のものとは思えないため息がもれ、唇がようやく離れる。
「これでわかったか。まだわからないなら、もっと続けるまでだ」
熱っぽくささやく言葉に返す言葉が見つからず、黙っているのを勝手に解釈して、再び殿下が唇を重ねる。
今度は最初から唇を割って舌を絡ませてくる。
もう勘違いでも夢でもない。
あの日、街道で彼を介抱した時、水を飲ませるために唇を重ねた時から、こんな風に口づけされることを望んでいたのかも知れない。
あの時の彼がキルヒライル様だとわかって、心のどこかで諦めていた。
彼は王族で、私は今はただの平民で。
そのことに気付き、私はハッと口づけを止めて首に回していた腕をほどき、殿下の胸に手をあてて押し退けた。
「だ、だめです」
いきなり突き放され、殿下は目を見開いて何が起こったのかと呆然とする。
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