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80 再会
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詰所で簡単に食事を終えて私たちは教会へ向かった。
この前と同じように入り口で馬を降り、馬を繋いでいると人が来たことに気づいた司祭が先に表に出てきた。
「殿下!」
司祭は客がキルヒライル様だとわかって慌てて駆け寄ってきた。
「襲われたと伺いました。大丈夫ですか?」
「ああ、心配をかけた。このとおり、大事ない。夕べは急に悪かったな」
「いえ………ちょうど墓守が埋葬を終えて帰ったところです。ですが、墓地に埋葬してよかったのですか?身元のわからない、しかも罪人ですのに。埋葬料まで」
司祭のいうことももっともだ。罪人ならそのまま遺体を野に捨ててしまってもよかった。
「良い。そうだったとしても、ともに等しく誰かの息子であり、誰かにとって大事な者かもしれない。死に方はどうであれ、その死まで冒涜するつもりはない」
罪を憎んで人を憎まず。そんなことを言ったのは孔子だったかな。
それをホントに実践してる人を初めてみた。
危ない。惚れ直してしまう。顔も男前で生き方も男前って……
「おや、こちらは?」
司祭が後ろにいる私に気づいた。
「この前連れてきた、ネヴィルの代理人だ」
「え、女性だったのですか?」
この展開もすっかり慣れた。そして確かめるようにじろじろ見られるのも。
「それで、生き残った者もいたのだが、何も知らなかったようだ。その後、何か情報は?」
「教会に来る方々に聞いたのですが、やはり普段より人の出入りも多く、誰も彼も疑いだせばきりがありません。街中の方が人も紛れやすいですし、ここら辺は新参者の方が目立ちます。探すのは難しいでしょう」
「……そう言えば、昨日、こちらの者に農家からの食料を持ってこさせたが、来たときに司祭以外に誰がいた?」
「と、いいますと?」
「ここにいた者を疑うわけではないが、護衛が手薄とわかって襲ってきた可能性がある。もちろん農場の方にも聞いてみるが、念のためだ」
「ここは規模は小さいですが、農場から一番近いティオファニアの教会です。農場の方から祈りにこられる方もいらっしゃいます。あのときも何人かはいらっしゃったかと思いますが、全員お名前まではわかりません」
役に立てず申し訳なさそうに司祭が謝る。
「仕方ない。信仰を求める者をいちいち色眼鏡で見ていては仕事にならないだろう。また人を定期的に寄越すので、何かあったら報告をくれ」
殿下はそう言って馬に跨がった。
「お待ちください、せっかくお越しいただいたのにお構いもしませんで、中でお茶でも」
何のもてなしもしていないことを司祭が思いだし引き留めようとする。
「気にするな、今日は昨日の件で仕事が滞り気味だ。色々忙しいので、今日は遠慮する。行くぞ」
殿下の言葉で私たちも馬に乗り込む。
私は司祭様に軽く会釈し、殿下の後に続く。
立ち去る私たちの背中を見送り、司祭が呟く。
「男装の女性?男に見えたが……女性……あの人が女性を?」
◇◇◇◇◇◇
帰りにワイン醸造所に立ち寄り領主館に戻ると、館の前がとても賑やかなことになっていた。
明らかに騎士団の方々だとわかる人たちがたくさんいて、馬の嘶き、武具の音、人々のざわめきでかなりうるさい。
「何だ、これは」
私たちは敷地の入り口で馬から降りる。
「旦那様、殿下!」
主の姿を目にしてチャールズさんが駆け寄ってくる。
「チャールズ、これは、まさか王都からか」
「そうなのです。とにかく旦那様がお帰りになるまで無闇に中へお入れするのもと思い、先ほどお越しになり、こちらでお待ちいただいているのですが」
「護衛の増員か」
兄や宰相の手配だろうと察する。
「今、代表の者を呼んで参ります」
チャールズさんがあたりを見回し、この一団の代表だという人物の元へ走っていく。
ほどなくしてチャールズさんが戻ってきて、代表だという人物を紹介する。
「あ」
「やあ」
見知った人物に私は声をあげた。
「?」
私の様子に殿下がこちらを見たが、先に代表だという人物が挨拶をする。
「ウィリアム・ドルグランと申します。このたび国王陛下と宰相閣下の命により、殿下の護衛として馳せ参じました」
ウィリアムさんは肩膝を折って地面に膝まずき、胸に手をあてて騎士の礼を取った。
この前と同じように入り口で馬を降り、馬を繋いでいると人が来たことに気づいた司祭が先に表に出てきた。
「殿下!」
司祭は客がキルヒライル様だとわかって慌てて駆け寄ってきた。
「襲われたと伺いました。大丈夫ですか?」
「ああ、心配をかけた。このとおり、大事ない。夕べは急に悪かったな」
「いえ………ちょうど墓守が埋葬を終えて帰ったところです。ですが、墓地に埋葬してよかったのですか?身元のわからない、しかも罪人ですのに。埋葬料まで」
司祭のいうことももっともだ。罪人ならそのまま遺体を野に捨ててしまってもよかった。
「良い。そうだったとしても、ともに等しく誰かの息子であり、誰かにとって大事な者かもしれない。死に方はどうであれ、その死まで冒涜するつもりはない」
罪を憎んで人を憎まず。そんなことを言ったのは孔子だったかな。
それをホントに実践してる人を初めてみた。
危ない。惚れ直してしまう。顔も男前で生き方も男前って……
「おや、こちらは?」
司祭が後ろにいる私に気づいた。
「この前連れてきた、ネヴィルの代理人だ」
「え、女性だったのですか?」
この展開もすっかり慣れた。そして確かめるようにじろじろ見られるのも。
「それで、生き残った者もいたのだが、何も知らなかったようだ。その後、何か情報は?」
「教会に来る方々に聞いたのですが、やはり普段より人の出入りも多く、誰も彼も疑いだせばきりがありません。街中の方が人も紛れやすいですし、ここら辺は新参者の方が目立ちます。探すのは難しいでしょう」
「……そう言えば、昨日、こちらの者に農家からの食料を持ってこさせたが、来たときに司祭以外に誰がいた?」
「と、いいますと?」
「ここにいた者を疑うわけではないが、護衛が手薄とわかって襲ってきた可能性がある。もちろん農場の方にも聞いてみるが、念のためだ」
「ここは規模は小さいですが、農場から一番近いティオファニアの教会です。農場の方から祈りにこられる方もいらっしゃいます。あのときも何人かはいらっしゃったかと思いますが、全員お名前まではわかりません」
役に立てず申し訳なさそうに司祭が謝る。
「仕方ない。信仰を求める者をいちいち色眼鏡で見ていては仕事にならないだろう。また人を定期的に寄越すので、何かあったら報告をくれ」
殿下はそう言って馬に跨がった。
「お待ちください、せっかくお越しいただいたのにお構いもしませんで、中でお茶でも」
何のもてなしもしていないことを司祭が思いだし引き留めようとする。
「気にするな、今日は昨日の件で仕事が滞り気味だ。色々忙しいので、今日は遠慮する。行くぞ」
殿下の言葉で私たちも馬に乗り込む。
私は司祭様に軽く会釈し、殿下の後に続く。
立ち去る私たちの背中を見送り、司祭が呟く。
「男装の女性?男に見えたが……女性……あの人が女性を?」
◇◇◇◇◇◇
帰りにワイン醸造所に立ち寄り領主館に戻ると、館の前がとても賑やかなことになっていた。
明らかに騎士団の方々だとわかる人たちがたくさんいて、馬の嘶き、武具の音、人々のざわめきでかなりうるさい。
「何だ、これは」
私たちは敷地の入り口で馬から降りる。
「旦那様、殿下!」
主の姿を目にしてチャールズさんが駆け寄ってくる。
「チャールズ、これは、まさか王都からか」
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「護衛の増員か」
兄や宰相の手配だろうと察する。
「今、代表の者を呼んで参ります」
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ほどなくしてチャールズさんが戻ってきて、代表だという人物を紹介する。
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見知った人物に私は声をあげた。
「?」
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「ウィリアム・ドルグランと申します。このたび国王陛下と宰相閣下の命により、殿下の護衛として馳せ参じました」
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