転生して要人警護やってます

七夜かなた

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79 芽生えた感情

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尋問からは欲しい情報は得られなかった。

最初は言葉で恫喝する。
何も知らないという答えが返ってくる。

次は水攻め。水を張った桶に顔を突っ込ませギリギリまで押さえつける。
飲み屋で声をかけられ、路地裏で金を受け取り頼まれた。
祭りがあると聞き、金になると思いここに来たということだった。
互いによく知りもしない相手同士。
昨日、外套の男が現れあの時間にあそこで待っていろと言われた。
それ以上のことは名前も知らないという。
自分たちが誰を狙ったかも知らなかったという。
次は爪。鋭利な刃物を爪に刺す。
漏れるのは悲鳴と苦渋の声。

そこまでして、本当に口を割らないよう訓練を受けた者なら、それでも耐え抜いたかも知れない。

だが失禁し、涙や鼻水、涎を垂れ流しても彼らの口から発せられるのは他は知らないの言葉だけ。
誰かを庇っているのかとなおも尋問を続ける。

熱したコテを肌に押し付けても、皮膚が焼けつく音に混じって聞こえるのは同じ言葉。知らない、金を貰っただけ。という言葉。

既に何度も意識を飛ばし、その度に薬を嗅がせて覚醒させる。

ここまでしてこれ以上は無駄だと判断して断念した。

ぐったりとした男たちを再び牢に戻し、警羅隊の長の部屋へ戻ってきた。

「王都の者たちと同じですね。今回は互いに顔見知りでもないようですし、亡くなった者たちの中に、もしかしたらもう少し事情を知る者があったかも知れませんが」

「死人に口無しだな」

ローリィがわざとか故意か殺さないでいてくれたお陰でここまでできたが、今回も黒幕にたどり着くことはできなかった。 
外套の男など、なんの手がかりもない。

「どうされますか?」

警羅隊長のフェリクスが訊く。

「あやつらの人相書きを用意して領内の宿屋や飲食店で見かけた者がいないか探れ。祭りの準備もあるところ悪いが」

そう指示をだし、キルヒライルは部屋を出た。
部屋の外にはクリスたちが待機していて、歩き出すキルヒライルの後ろをついてくる。

「これからどちらへ?」

「フィリップに会いにいく。昨日届けてもらった遺体のことも気になる」

「身元のわかるものは何もありませんでしたが」

教会に遺体を運び込む際に一通りの検分は済ませていたので、その事を伝える。

「だが、他に手がかりもない」

話をしながら受付付近まで来る。そこで待っているはずのローリィはいなかった。

「いないな」

「まだ戻っていないようですね」

誰のことを言っているかわかり、クリスが答える。

「そろそろ昼になる。行く前に何か食べていくか」

「食堂へ行って手配をしてきます」

そう言ってレイが席を外す。

キルヒライルはその間に外に出た。

自由にしていいとは言ったが、自由にし過ぎだろう。

尋問が期待できなかった苛立ちもあり、文句のひとつも言いたくなる。

玄関先にキルヒライルが立ちはだかるので、誰一人入ることも出ることもできず、扉付近が人で停滞する。

見かねたクリスがとりあえず中で待っては?と言う。

詰所の前は警羅隊の者たちが一同に集まれるだけの広場になっている。訓練などは裏庭で行われている。

建物から高い門扉まではかなり距離があり、日中は多くの出入りがあって人を見分けることが難しい。

キルヒライルはクリスの提案を無視し、門扉までの道をずかずかと歩いていく。

広場にいた人たちは門に向かって一直線に進むキルヒライルに気付き慌てて道をあけ、お辞儀をする。

慌ててクリスとエリックが追いかける。

ちょうど門に辿り着いた時に、向こうの曲がり角から歩いてくる彼女を見つけた。

彼女は後ろの方を振り返り、角に立つ人物に軽く会釈している。

注意を向けるため名前を呼ぶ。

こちらに視線を向けた彼女が自分に気付き、駆け寄ってきた。

「誰だ?知り合いか」

この街に知り合いなどそうそういないはずだ。

「あ、えっとですね……さっき会ったばかりの人です。路上でぶつかりまして、具合が悪そうにされていたので、一緒に休憩していました」

彼女が再度お辞儀をすると、向こうもお辞儀を返してやがて立ち去った。

「あの者のせいで遅くなったのか」

「そうではありません」

待たせたてしまったのは悪いと思ったが、具合が悪かった人を構っていて遅れたことを責めるように言われ、少し悲しくなった。

「……すまない。責めるつもりはなかった。思うように情報が得られず少し苛立っていた」

それも本当だが、彼女の側に自分以外の誰かがいたのが嫌なのだ。
これが嫉妬というものなのか。
こんな気持ちが自分にあることに気付き、驚いた。
今はまだ彼女は自分の護衛で管財人の代理で、メイドというだけなのに、まだ自分だけの女でもなんでもないのに、こんな気持ちを抱いていいものだろうか。

ここが人目のある場所でなかったらどうしていただろう。

「私も、調子に乗って遅くなりすいませんでした」

「殿下、食事の用意が整いました。ローリィも」

後ろからレイさんが声をかけてきた。

「この後フィリップに会いに行く。その前にここで食事をとっていく」

感情を乗せず事務的に告げる。落ち着いて聞こえただろうか。

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