転生して要人警護やってます

七夜かなた

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69 襲撃とその後

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「危ない!」

私は隣にいる殿下に覆い被さると同時に殿下の頭の辺りを狙って放たれた弓矢が耳許をかすめた。
そのまま勢いあまり二人同時に馬から落ちる。

殿下の身を庇い背後から抱きすくめながら受け身の姿勢で落ちたので、衝撃は緩和されたが、それでもまったく痛くなかったわけではない。

「……つ」

「何をしている!」

「弓矢が!」

「そんなことはわかっている!どうして無茶をする」

落ちてすぐ立ち上がり、腰の剣を引き抜いて身構えた殿下に怒鳴られる。

既に繁みからは数人の覆面をした男たちが飛び出し私たちを取り囲んでいた。

乗っていた馬は状況に怯えて走り去っしまった。

私も素早く起き上がり、その場に低い姿勢で身構え、両手をそれぞれの両足のブーツに差し込む。

盗賊の類いか、とも思ったが放つ殺気に生きて帰すつもりがまったくないことがわかった。

殿下もそれを察し、瞬時に臨戦態勢に入る。

「用があるのは私だけだろう」

私のことを護るために言ってくれたのだと思ったが、私は当然自分だけが助かろうとは思っていない。

相手は六人。木の上弓に矢を放った人物が後一人。
彼らが注目しているのは殿下のみ。うずくまる私に注意を向ける者は誰一人いない。

私は背後にいる弓矢を放った人物に向け、振り返りブーツから出したクナイを投げた。

「ぐあっ」

木の上から人が落ちる音が聞こえたが、その時にはもう一方のブーツから二本目のクナイを抜いて、低い態勢のまま一番近くにいた男の太ももに深々と突きつけていた。
「げえ」
クナイを引き抜くと同時に前屈みになった男の首筋に思い切り手刀を叩き込むと、男はその場に昏倒した。

「クソッ」
「二人とも殺れ!」

仲間二人をいきなり倒され、一瞬出遅れた彼らが叫んで動くより先に殿下が動き、目の前の敵を切り捨てた。

私と殿下は背中合わせになり、残りの四人と対峙する。

「色々訊きたいことがあるが、後だ」

「はい」

右手で逆手にクナイを持ち、目前の男たちとにらみ合いながら短く答えた。

私たちは同時に地面を蹴り、相手に向かっていった。

男が振り下ろした剣をクナイで受け止め、柄まで滑らせ切り込んできた相手の力を利用して押し込め、左手にクナイを突き刺す。クナイは男の掌を突き抜け、「ぎゃあッ!」と男が悲鳴をあげる。

「コノヤロー」

クナイを男の手に突き刺したまま背後から切り込んできた男の腹に回し蹴りを叩き込み、回る勢いでクナイを抜き取り左肘で延髄を討つ。

「ガハッ」

前のめりに倒れこむ。力加減が出来なかったので、脳震盪を起こしたかもしれない。

回し蹴りを見舞った男は昏倒するまでに至らず再び剣を振りかざして向かってくる。

私はクナイをくるりと回して持ち替え、男の繰り出す剣と打ち合いを重ねる。

「ぐあっ」

男がいきなりのけ反りその場に倒れこんだ。
その後ろに剣を振り下ろした殿下が立っていた。

「殿下」

見渡すと、既に殿下も二人を倒し終わっていた。

突然の襲撃はあっけなく終わり、息を乱す間もなかった。

私は草むらに行き、最初に投げたクナイを回収した。

クナイは顔面に突き刺さり、男は落ちて首の骨を折って死んでいた。

クナイに付いた血を倒れこんだ男の衣服で拭い、ブーツに戻す。

顔を上げた私は、睨み付ける殿下と向き合った。

「お前もか」

お前も宰相に雇われた護衛か、と言う意味だろう。

「はい」

「王都での邸の時もか」

「はい、最初に侵入に気づき、クリスさんたちと対応しました」

視線に耐えきれず俯く。

「………そうか」

殿下は剣を鞘に納め、そう呟いた。

「黙っていて………」

申し訳ありません。と言おうとして言えなかった。

殿下が私を包み込むようにその腕に抱き締めたからだ。

私の肩に腕を回し、心なしか震えている。

「あ、あの……殿下?」

「あまり………」

額にあたる殿下の喉が震える。すぐ耳許で声がして、思わず顔が赤くなる。

「無茶をするな。私を抱えて馬から落ちるなど……打ち所が悪かったらどうする」

「だ、大丈夫です。ちゃんと受け身をとりましたから」

「それでもだ!命を助けられて、その相手が自分のせいでケガをしたとあっては嬉しくも何ともないではないか」

すぐ耳許で大きな声で怒鳴られて耳がキーンとなる。

「私も痛いのは嫌ですから、ちゃんとケガをしないようにやりますよ。それでも、ケガをしてでも護る覚悟はありますけど」

「だからそれがダメだと言っているのだ!」

また怒鳴られてしまった。

「で、殿下、耳許で怒鳴らないで……」

「お前が私を怒らせるからだ」

さらにきつく抱き締められて呼吸が苦しくなる。
心臓が早鐘のように打つのは、呼吸だけが原因でないのはわかっている。

私が何か言う度に殿下を怒らせ、耳許で怒鳴られるので、私は黙っていることにした。

代わりに迷った末に両脇に足らしたままだった腕をそっと動かし、殿下の背中をポンポンと叩き、安心させるように何度も撫でる。

私の中では怒った人を宥めているつもりだったが、場合によっては恋人たちが抱き合っているようにも見えなくもない。

その事に気づき、ますます顔が赤くなるのがわかり、今顔を見られたら意識しているのが手に取るようにわかるに違いない。

肩に回されていた殿下の手が何故か私の頭に当てられ、髪を撫でている。

これでは本当に恋人同士の抱擁だ。



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