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62 視察の締めくくり
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ワイン醸造所は広大な敷地の中に建っていた。
敷地内にも葡萄畑が広がっている。
白い壁に赤い屋根の美しく大きな建物。
辺り一帯の農家から集まった葡萄は、ここでワインになり出荷される。
建物に近付くと葡萄の香りが辺り一面に匂い、鼻腔をくすぐる。
集まった葡萄の茎を取り除き、破砕して果汁を絞る。絞った果汁に酵母を加えて発酵させる。
今は毎日順にそこまでの作業を行っている。
「こちらが昨年収穫したものになります」
温度を一定に保った貯蔵庫に樽がいくつもうず高く積まれている。
私が知っている醸造所は観光地でもあったため、試飲もできたし観光客用のショップもあった。
醸造所内も見学ルートが設定されていて、葡萄の収穫を体験出来たり、ワインが出来るまでを丁寧に説明してくれる案内嬢もいた。
地域によっては宿泊施設も併設されていて、ワインとマリアージュした料理を楽しめるレストランなどもあったりした。
だが、ここにはそんなものも無く。純粋にワインを醸造し、製品として出荷しているだけだ。
「今年出荷するワインです。お飲みになりますか?」
醸造所の責任者であるベンジャミンさんがワインと人数分のグラスを用意して訊いてくれた。
「この年の葡萄もなかなか出来がよかったので、いいワインになっていると思いますよ」
ベンジャミンさんがコルクを抜き、皆のグラスに注ぐ。
「いえ、任務中ですので」
クリスさんもレイさんも遠慮する。
「それは残念です」
ベンジャミンさんが残念そうに言うと、クリスさんたちも、はい残念です。と心底悔しそうだ。
「どうぞ」
ベンジャミンさんは私にもグラスを渡してくれた。
「ありがとうございます」
この国の成人年齢は十六才だが、日本では二十歳なので今十九才の私は感覚的にまだ未成年の気持ちでいたので、はっきり言って、お酒は舞屋で一度飲んだきりだ。
あの時も皆は二日酔いになったが、量を調整したとは言え、私は大丈夫だったので案外いけるんじゃないかなと思う。
クリスさんたちが断ったのに私が飲んでしまっては申し訳ない。
私は一口だけ口にする。辛口だけど飲みやすかった。
「♪」
「どうですか?」
ベンジャミンさんが私にも感想を訊いてきた。
「はい、とってもおいしいです!」
「そうですか、それは良かった」
ベンジャミンさんはそう言って殿下の方へ歩いて行った。
殿下は上品に時おり匂いを確かめながら、年代の違うワインを少しずつ飲んで味を確かめている。
真剣な眼差しでワインを飲んでいる姿に、ちょっと見惚れてしまう。
いい男は何をやっても絵になるんじゃないかな。
少し飲んではベンジャミンさんと何やら味や出来具合について話し込んでいる。
窓から外を見るとちょうどベンチが目に入ったので、涼みに行こうと外に出た。
昼間はまだいくらか暖かかったが、夕闇が近付くにつれ吹く風も涼しくて火照った肌に心地好い。
ベンチに座って目を閉じ、頬に当たる風を感じながら、今日一日を振り返る。
マーサさんに殿下をどう思うか聞かれて、自分の気持ちに気づいてしまった。
その後、殿下と同じ馬に乗ってあちこち回って、緊張し通しだった。
途中で何故か殿下が不機嫌になって、いつの間にか機嫌は直ったみたいだけど……。
体力には自信があったけど、精神的に疲れた一日だ。
ここの視察が終われば後は帰るだけだ。
頑張らなきゃ………。
ほんの一口飲んだお酒が、今日はやけに回りが早い。酔いと疲れでそのままベンチでうつらうつらしていた。
敷地内にも葡萄畑が広がっている。
白い壁に赤い屋根の美しく大きな建物。
辺り一帯の農家から集まった葡萄は、ここでワインになり出荷される。
建物に近付くと葡萄の香りが辺り一面に匂い、鼻腔をくすぐる。
集まった葡萄の茎を取り除き、破砕して果汁を絞る。絞った果汁に酵母を加えて発酵させる。
今は毎日順にそこまでの作業を行っている。
「こちらが昨年収穫したものになります」
温度を一定に保った貯蔵庫に樽がいくつもうず高く積まれている。
私が知っている醸造所は観光地でもあったため、試飲もできたし観光客用のショップもあった。
醸造所内も見学ルートが設定されていて、葡萄の収穫を体験出来たり、ワインが出来るまでを丁寧に説明してくれる案内嬢もいた。
地域によっては宿泊施設も併設されていて、ワインとマリアージュした料理を楽しめるレストランなどもあったりした。
だが、ここにはそんなものも無く。純粋にワインを醸造し、製品として出荷しているだけだ。
「今年出荷するワインです。お飲みになりますか?」
醸造所の責任者であるベンジャミンさんがワインと人数分のグラスを用意して訊いてくれた。
「この年の葡萄もなかなか出来がよかったので、いいワインになっていると思いますよ」
ベンジャミンさんがコルクを抜き、皆のグラスに注ぐ。
「いえ、任務中ですので」
クリスさんもレイさんも遠慮する。
「それは残念です」
ベンジャミンさんが残念そうに言うと、クリスさんたちも、はい残念です。と心底悔しそうだ。
「どうぞ」
ベンジャミンさんは私にもグラスを渡してくれた。
「ありがとうございます」
この国の成人年齢は十六才だが、日本では二十歳なので今十九才の私は感覚的にまだ未成年の気持ちでいたので、はっきり言って、お酒は舞屋で一度飲んだきりだ。
あの時も皆は二日酔いになったが、量を調整したとは言え、私は大丈夫だったので案外いけるんじゃないかなと思う。
クリスさんたちが断ったのに私が飲んでしまっては申し訳ない。
私は一口だけ口にする。辛口だけど飲みやすかった。
「♪」
「どうですか?」
ベンジャミンさんが私にも感想を訊いてきた。
「はい、とってもおいしいです!」
「そうですか、それは良かった」
ベンジャミンさんはそう言って殿下の方へ歩いて行った。
殿下は上品に時おり匂いを確かめながら、年代の違うワインを少しずつ飲んで味を確かめている。
真剣な眼差しでワインを飲んでいる姿に、ちょっと見惚れてしまう。
いい男は何をやっても絵になるんじゃないかな。
少し飲んではベンジャミンさんと何やら味や出来具合について話し込んでいる。
窓から外を見るとちょうどベンチが目に入ったので、涼みに行こうと外に出た。
昼間はまだいくらか暖かかったが、夕闇が近付くにつれ吹く風も涼しくて火照った肌に心地好い。
ベンチに座って目を閉じ、頬に当たる風を感じながら、今日一日を振り返る。
マーサさんに殿下をどう思うか聞かれて、自分の気持ちに気づいてしまった。
その後、殿下と同じ馬に乗ってあちこち回って、緊張し通しだった。
途中で何故か殿下が不機嫌になって、いつの間にか機嫌は直ったみたいだけど……。
体力には自信があったけど、精神的に疲れた一日だ。
ここの視察が終われば後は帰るだけだ。
頑張らなきゃ………。
ほんの一口飲んだお酒が、今日はやけに回りが早い。酔いと疲れでそのままベンチでうつらうつらしていた。
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