57 / 266
57 そう思う
しおりを挟む
チャールズさんについて一階にある書斎に行く。
そこは普段ネヴィルさんも使っているということだったが、今は殿下が使用している。
中に入ると執務机に彼が座っていて、呼ばれた理由がわからないので、私はただ軽く会釈だけする。
彼とはここに着いてから一度も顔を合わせていなかった。
まさか、今さら美人かそうでないかの意見を言うために呼んだのではないだろう。
すっと、彼は自分が手に持っていた書類を私に差し出した。
「………?」
「読みなさい」
その意味がわからず戸惑っていると、少し苛立ったように言われた。
「おっしゃるとおりに」
「………失礼します」
側にいたチャールズさんに言われたので、机に近づき両手で書類の束を受け取り、目を通す。
そこにはいくつかの数字が書かれていた。
「何かわかるか?」
一枚一枚書類をめくり目を通す。
「ワインの出荷に関する書類でしょうか。各商会への出荷本数と出荷時の価格。売上高と返品数。こちらは各商会からの入金額ですね」
「そうだ」
何も言わず渡された書類が何なのか、私が本当に文字が読めるか試したのだろう。
「他には?」
言われてもう一度最初から書類を見直す。
「何ヵ所か計算が間違っていますね。ココとココ、それからココ」
「なるほど、計算もできるというのは本当か」
どうやらさっきネヴィルさんとチャールズさんに話したことが彼に伝わったらしい。
「ご用件はこのことですか?」
「ああ………いや」
どっちとも言えない返事が帰ってくる。
「馬は大丈夫か」
「はい」
「収穫祭のことは聞いているか?」
「………もうすぐあると伺いました」
「正確には十日後だ」
思ったよりすぐだとわかって驚いた。
「ある程度の準備はネヴィルもしてくれているが、これからますます忙しくなる。領内の顔役たちが主になってやってくれているが、最後の日に領主が開く宴会の準備はこちらで行わなくてはならない」
「そうですね。主催が公爵様ですから」
「だが、ネヴィルがああいう状態になり、収穫やワインの醸造所の方も忙しく、一人ではそこまで手がまわらない。ネヴィルの変わりに補佐をやってくれる者が必要だ」
話の展開がいやな方に向かっている予感がする。
「読み書きや計算ができると聞いた。宴会が終わるまでの間、私に同行し補佐として色々と手助けして欲しい」
「え、でも、私はただのメイド………チャールズさんが」
「チャールズ達は宴会の準備で手一杯だ。そこまではできない」
「………でも」
「やってくれるなら、私ができることなら望みは何でも叶える。お金でも宝石でも欲しいものがあるなら用意しよう」
ちょっと大盤振る舞い過ぎないかと驚いた。
それだけ重要だということなのだろう。
自信はないが、ここは覚悟を決めるしかない。
それに、護衛をするためには、同行を認められているのだから好都合だ。
「わかりました。私でお役にたてるなら」
「礼を言う。明日の朝早くは別の用で出かける。戻ったら一緒に頼む。それで、褒美は何がいい?」
「いえ、これも仕事ですので」
「目標があった方が頑張れるだろう?」
言われてみれば確かにそうだ。でも、急なことで今すぐ思い浮かぶことはあまりない。
「では、収穫祭の初日にお休みをいただけますか?」
「そんなことでいいのか?」
「はい、私も収穫祭に参加させていただきたいと思いまして」
「収穫祭なら私も視察に回るぞ。わざわざ休みを取らなくても観ることができるが」
「いえ、こちらのメイドの方々に誘われまして、それに殿下なら貴賓席からの観賞でしょうから、そこはさすがにご一緒はできません」
私の言葉に殿下は少し考えていたが、それもそうか、と納得された。
「しかし、今日来たばかりなのにもう皆と打ち解けたのか?」
「マーサさんのお陰です。とても、親切にしていただいています」
「そうか………そう言えば」
不意に殿下が何か言いたそうに私をじっと見た。
「………?どうかされましたか?」
「私もそう思うぞ」
「………マーサさんですか?」
話の流れから、マーサさんが親切だと、殿下もそう思っていると言うことだろうか。ご自分の乳母なのだから、当然だろう。
「いや、違う。なんでもない」
「………え………?」
殿下が何を言ったのかわからなかったが、何がそう思うのかそれ以上何もおっしゃられなかったので、追及することもできなかった。
そこは普段ネヴィルさんも使っているということだったが、今は殿下が使用している。
中に入ると執務机に彼が座っていて、呼ばれた理由がわからないので、私はただ軽く会釈だけする。
彼とはここに着いてから一度も顔を合わせていなかった。
まさか、今さら美人かそうでないかの意見を言うために呼んだのではないだろう。
すっと、彼は自分が手に持っていた書類を私に差し出した。
「………?」
「読みなさい」
その意味がわからず戸惑っていると、少し苛立ったように言われた。
「おっしゃるとおりに」
「………失礼します」
側にいたチャールズさんに言われたので、机に近づき両手で書類の束を受け取り、目を通す。
そこにはいくつかの数字が書かれていた。
「何かわかるか?」
一枚一枚書類をめくり目を通す。
「ワインの出荷に関する書類でしょうか。各商会への出荷本数と出荷時の価格。売上高と返品数。こちらは各商会からの入金額ですね」
「そうだ」
何も言わず渡された書類が何なのか、私が本当に文字が読めるか試したのだろう。
「他には?」
言われてもう一度最初から書類を見直す。
「何ヵ所か計算が間違っていますね。ココとココ、それからココ」
「なるほど、計算もできるというのは本当か」
どうやらさっきネヴィルさんとチャールズさんに話したことが彼に伝わったらしい。
「ご用件はこのことですか?」
「ああ………いや」
どっちとも言えない返事が帰ってくる。
「馬は大丈夫か」
「はい」
「収穫祭のことは聞いているか?」
「………もうすぐあると伺いました」
「正確には十日後だ」
思ったよりすぐだとわかって驚いた。
「ある程度の準備はネヴィルもしてくれているが、これからますます忙しくなる。領内の顔役たちが主になってやってくれているが、最後の日に領主が開く宴会の準備はこちらで行わなくてはならない」
「そうですね。主催が公爵様ですから」
「だが、ネヴィルがああいう状態になり、収穫やワインの醸造所の方も忙しく、一人ではそこまで手がまわらない。ネヴィルの変わりに補佐をやってくれる者が必要だ」
話の展開がいやな方に向かっている予感がする。
「読み書きや計算ができると聞いた。宴会が終わるまでの間、私に同行し補佐として色々と手助けして欲しい」
「え、でも、私はただのメイド………チャールズさんが」
「チャールズ達は宴会の準備で手一杯だ。そこまではできない」
「………でも」
「やってくれるなら、私ができることなら望みは何でも叶える。お金でも宝石でも欲しいものがあるなら用意しよう」
ちょっと大盤振る舞い過ぎないかと驚いた。
それだけ重要だということなのだろう。
自信はないが、ここは覚悟を決めるしかない。
それに、護衛をするためには、同行を認められているのだから好都合だ。
「わかりました。私でお役にたてるなら」
「礼を言う。明日の朝早くは別の用で出かける。戻ったら一緒に頼む。それで、褒美は何がいい?」
「いえ、これも仕事ですので」
「目標があった方が頑張れるだろう?」
言われてみれば確かにそうだ。でも、急なことで今すぐ思い浮かぶことはあまりない。
「では、収穫祭の初日にお休みをいただけますか?」
「そんなことでいいのか?」
「はい、私も収穫祭に参加させていただきたいと思いまして」
「収穫祭なら私も視察に回るぞ。わざわざ休みを取らなくても観ることができるが」
「いえ、こちらのメイドの方々に誘われまして、それに殿下なら貴賓席からの観賞でしょうから、そこはさすがにご一緒はできません」
私の言葉に殿下は少し考えていたが、それもそうか、と納得された。
「しかし、今日来たばかりなのにもう皆と打ち解けたのか?」
「マーサさんのお陰です。とても、親切にしていただいています」
「そうか………そう言えば」
不意に殿下が何か言いたそうに私をじっと見た。
「………?どうかされましたか?」
「私もそう思うぞ」
「………マーサさんですか?」
話の流れから、マーサさんが親切だと、殿下もそう思っていると言うことだろうか。ご自分の乳母なのだから、当然だろう。
「いや、違う。なんでもない」
「………え………?」
殿下が何を言ったのかわからなかったが、何がそう思うのかそれ以上何もおっしゃられなかったので、追及することもできなかった。
3
お気に入りに追加
1,930
あなたにおすすめの小説

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?


ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる