転生して要人警護やってます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
56 / 266

56 収穫祭

しおりを挟む
夕食の時間になり、フィリアさんが自分と夫の食事を持って部屋にやって来た。

彼女は短い睡眠を取ったことにより、すっかり元気を取り戻し、身なりも整えて入ってきた。

フィリアさんがきたので私はそこを出て、まだ自分に割り当てられた部屋がわからないので、とりあえず待機室へ向かった。

「お疲れ様」

マーサさんが他の使用人やメイドたちを紹介してくれた。

いきなり全員は覚えられないので、一緒に行動することの多いメイドの方から覚えた。
皆と夕食をともにしながら、葡萄の収穫やワインづくり、収穫祭のことなどを教えてもらう。

「樽に入れた葡萄を足で潰すのってやるんですか?」

私は前世テレビで見たどこか外国の祭りの風景を思い出して訊いた。

「あら、良く知ってるわね。ワイン娘のことね。もちろんあるわよ」

そう言ったのは少し年上のミーシャさん。

「大量に作るときは皆でやるんだけど、祭りの時は大勢の未婚の女性たちがいくつかに別れて大きな樽に入って踏み合うの。周りを男たちが囲ってちょっと恥ずかしいけどね」

「そうそう、踏み終わったらいいと思う女の子を持ち上げて、足を拭いたりしてね」

これは同じ年のフレア。同じ年と言うことで敬語はなし。

「私も結婚前は毎年やってたわぁ」

懐かしそうにそう言うのはマリリンさん。
二人の子どもさんがいる。

「私は去年結婚しちゃったから、今年はもう参加できないわ」

残念そうに言うのはエランさんだ。
新婚ほやほやだ。

「ねえ、ローリィもお祭りが終わるまでいるなら、参加しようよ、せっかくこっちへ来たんだから記念に」

フレアが誘ってくれた。

「えー私、ここの出身じゃないけど、いいの?」

テレビでしか見たことがなかった葡萄踏みに参加できるかもと、ちょっとうれしくなったが、本来のメイドや護衛の仕事に影響はないだろうか。

「ワイン娘は祭りの始めに山車に乗せてもらって、山車ごとに別れて樽の葡萄を踏むんだけど、一番人が集まった山車のワイン娘たちは二日目は特別なパレードの山車に乗せてもらえるの。それだけじゃなくて最後の日の領主様の屋敷での宴で領主様から花輪をもらうのよ」

「そうよ。今の公爵様がここを治めるまではおじいちゃん領主だったから、殿下がここを治められるようになった時は凄かったのよ。ここ最近はずっとご不在だったから司祭様が代理でなさってたけど」

「だから、今年は年頃の娘は皆張り切ってるわよ」

独身組の鼻息は凄かった。
今年新婚のエランさんは心底悔しそうだ。

「ここで働いてるんだから、他の人たちより殿下に接する機会もあるのに、やっぱり違うものなの?」

「当たり前じゃない!花輪をいただいたワイン娘は領主様と踊れるのよ。メイドじゃあり得ないじゃない」

なるほど、そういうオプションが付くのか。

それじゃあ気合いも入るわ。普通じゃあり得ないものね。

でも絶対に選ばれるとは限らないのでは、と別の考えが浮かんだが、夢を壊すみたいでそれは口に出さないでおこうと思った。

「だからローリィを誘ったのね」

マリリンさんが、はっと気づいて言った。

フレアはばれたか、とぺろっと舌を出した。

うん?どういうこと?

「私が入ったって、選ばれるとは限らないでしょ?他の子たちがどんなか知らないけど。可愛い子ならたくさんいるんじゃない?」

「何言ってるのよ!そりゃあ、そこそこ可愛い子はいるけど、だいたいが顔見知りで、どこの誰かとか大抵の子は知られてる中で、王都から来たばかりのローリィが目立たないわけないし」
「その上、背も高くて樽の中で目立つこと間違いなし!」

「珍獣ですか」

動物園のパンダみたいに言われてしまった。
私の場合はキリンかもしれないけど。

「いやだ、大丈夫よ、そうじゃなくても十分綺麗よ」

マリリンさんが慌ててフォローしてくれた。

「でも、やっぱり地元じゃないし、ここには仕事に来たのだから、ちゃんと許可をいただいた方がいいわね」

それまで黙って話を聞いていたマーサさんがそう言う。

「許可って、公爵様にですか?」

ここに到着した時にマーサさんと玄関で交わした話を思い出す。
社交辞令も言わずスルーした朴念仁に話をしても通じるか、わからない。

「そんな嫌そうな顔をしないの」

さっき彼女のことをお母さんみたいだと言ってから、彼女は本当にお母さんみたいな話し方をしてくれる。

「言いにくいなら、私から話してあげましょうか?」

その提案に、しばらく考えてから首を横にふった。

「そこまでしてもらう訳にいきません。自分で機会を見つけて言います」

「そう、立派ね」

私の出した答えにマーサさんは笑った。何だか嬉しそうだ。

「なら、善は急げですね。キルヒライル様が書斎でお待ちです」

背後からチャールズさんが声をかけてきた。

「え、私ですか?」

「そうです。案内しますのでついてきて下さい」

一体何の用だろうか?言われるまま、チャールズさんについて書斎に向かった。


しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。

四季
恋愛
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...