転生して要人警護やってます

七夜かなた

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56 収穫祭

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夕食の時間になり、フィリアさんが自分と夫の食事を持って部屋にやって来た。

彼女は短い睡眠を取ったことにより、すっかり元気を取り戻し、身なりも整えて入ってきた。

フィリアさんがきたので私はそこを出て、まだ自分に割り当てられた部屋がわからないので、とりあえず待機室へ向かった。

「お疲れ様」

マーサさんが他の使用人やメイドたちを紹介してくれた。

いきなり全員は覚えられないので、一緒に行動することの多いメイドの方から覚えた。
皆と夕食をともにしながら、葡萄の収穫やワインづくり、収穫祭のことなどを教えてもらう。

「樽に入れた葡萄を足で潰すのってやるんですか?」

私は前世テレビで見たどこか外国の祭りの風景を思い出して訊いた。

「あら、良く知ってるわね。ワイン娘のことね。もちろんあるわよ」

そう言ったのは少し年上のミーシャさん。

「大量に作るときは皆でやるんだけど、祭りの時は大勢の未婚の女性たちがいくつかに別れて大きな樽に入って踏み合うの。周りを男たちが囲ってちょっと恥ずかしいけどね」

「そうそう、踏み終わったらいいと思う女の子を持ち上げて、足を拭いたりしてね」

これは同じ年のフレア。同じ年と言うことで敬語はなし。

「私も結婚前は毎年やってたわぁ」

懐かしそうにそう言うのはマリリンさん。
二人の子どもさんがいる。

「私は去年結婚しちゃったから、今年はもう参加できないわ」

残念そうに言うのはエランさんだ。
新婚ほやほやだ。

「ねえ、ローリィもお祭りが終わるまでいるなら、参加しようよ、せっかくこっちへ来たんだから記念に」

フレアが誘ってくれた。

「えー私、ここの出身じゃないけど、いいの?」

テレビでしか見たことがなかった葡萄踏みに参加できるかもと、ちょっとうれしくなったが、本来のメイドや護衛の仕事に影響はないだろうか。

「ワイン娘は祭りの始めに山車に乗せてもらって、山車ごとに別れて樽の葡萄を踏むんだけど、一番人が集まった山車のワイン娘たちは二日目は特別なパレードの山車に乗せてもらえるの。それだけじゃなくて最後の日の領主様の屋敷での宴で領主様から花輪をもらうのよ」

「そうよ。今の公爵様がここを治めるまではおじいちゃん領主だったから、殿下がここを治められるようになった時は凄かったのよ。ここ最近はずっとご不在だったから司祭様が代理でなさってたけど」

「だから、今年は年頃の娘は皆張り切ってるわよ」

独身組の鼻息は凄かった。
今年新婚のエランさんは心底悔しそうだ。

「ここで働いてるんだから、他の人たちより殿下に接する機会もあるのに、やっぱり違うものなの?」

「当たり前じゃない!花輪をいただいたワイン娘は領主様と踊れるのよ。メイドじゃあり得ないじゃない」

なるほど、そういうオプションが付くのか。

それじゃあ気合いも入るわ。普通じゃあり得ないものね。

でも絶対に選ばれるとは限らないのでは、と別の考えが浮かんだが、夢を壊すみたいでそれは口に出さないでおこうと思った。

「だからローリィを誘ったのね」

マリリンさんが、はっと気づいて言った。

フレアはばれたか、とぺろっと舌を出した。

うん?どういうこと?

「私が入ったって、選ばれるとは限らないでしょ?他の子たちがどんなか知らないけど。可愛い子ならたくさんいるんじゃない?」

「何言ってるのよ!そりゃあ、そこそこ可愛い子はいるけど、だいたいが顔見知りで、どこの誰かとか大抵の子は知られてる中で、王都から来たばかりのローリィが目立たないわけないし」
「その上、背も高くて樽の中で目立つこと間違いなし!」

「珍獣ですか」

動物園のパンダみたいに言われてしまった。
私の場合はキリンかもしれないけど。

「いやだ、大丈夫よ、そうじゃなくても十分綺麗よ」

マリリンさんが慌ててフォローしてくれた。

「でも、やっぱり地元じゃないし、ここには仕事に来たのだから、ちゃんと許可をいただいた方がいいわね」

それまで黙って話を聞いていたマーサさんがそう言う。

「許可って、公爵様にですか?」

ここに到着した時にマーサさんと玄関で交わした話を思い出す。
社交辞令も言わずスルーした朴念仁に話をしても通じるか、わからない。

「そんな嫌そうな顔をしないの」

さっき彼女のことをお母さんみたいだと言ってから、彼女は本当にお母さんみたいな話し方をしてくれる。

「言いにくいなら、私から話してあげましょうか?」

その提案に、しばらく考えてから首を横にふった。

「そこまでしてもらう訳にいきません。自分で機会を見つけて言います」

「そう、立派ね」

私の出した答えにマーサさんは笑った。何だか嬉しそうだ。

「なら、善は急げですね。キルヒライル様が書斎でお待ちです」

背後からチャールズさんが声をかけてきた。

「え、私ですか?」

「そうです。案内しますのでついてきて下さい」

一体何の用だろうか?言われるまま、チャールズさんについて書斎に向かった。


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