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52 美人さん?
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お昼過ぎには無事公爵領にある領主館にたどり着いた。
その間に馬車の中で私は公爵領についてと、領内にいる主だった方たちについての説明を聞いた。
この時期、夏から始まったブドウの収穫がようやく終わり、これから本格的にワインの醸造が始まる。
報告によると今年はまあまあの豊作だったらしく、いいワインができるだろうということだった。
近いうち領内では収穫を終え、一段落したお祝いに、収穫祭りが三日間開かれる。領主館でも最終日に領民を招待しての宴会が開かれるということだった。
祭りはいいワインができるようにという祈願と、来年も豊作でありますようにと祈る大事な行事だという。
領主館はワインの醸造所と同じ敷地内に建っていて、裏庭はたくさんの人たちが集まってパーティーができるようになっているということだ。
そんな話を聞いているうちに馬車は正門をくぐり、正面に据え付けられた噴水の周囲を時計周りに進み、馬車は領主館の前に止まった。
公爵が身を寄せていた側の扉が開き、彼はさっと外に出た。
「お久しぶりでございます、旦那様」
「久しいな、チャールズ」
まだ馬車にいたので出迎えた人の顔は見えなかったが、先ほど説明にあった領主館の執事さんだとわかった。
私も馬車を降りるため身を起こし、扉の方へ近づくと、外からすっと手が伸びた。
一瞬何をされているのかわからず、差し出された手を眺め、それが馬車を降りるため私に差し出された殿下の右手だと気づいた。
「私はただの使用人です。そのようなことはお気遣い不要です」
パタパタと手をふり、差し出された手を断った。
「気にするな」
言われて、差し出した手を今さら引かせるのも申し訳ないと考え、素直に従った。
「ありがとうございます」
おずおずとそう言って左手をそっと出して殿下の手に重ねた。
馬車から踏み出す一瞬力強く手を握りしめられ、軽く支えられるようにして馬車を降りた。
私もけっして可憐な手とは言えないが、殿下の手はそんな私の手よりも大きかった。
「こちらは?」
ジャックさんよりはいくぶん若い感じのチャールズさんが馬車から出てきた私を不思議そうに見た。
公爵は一人で来ると思っていたようだ。
「王都から連れてきたメイドのローリィだ。ネヴィルも寝込んでいることだし、人手がいると思い連れてきた」
「ローリィと申します。何なりとお申し付けください」
着ていたワンピースのスカートを持って軽く会釈すると、チャールズさんは少しがっかりしたような顔をした。
公爵と同じ馬車で来たので、別の関係を期待されていたことに気づいた。
女性を連れて来たのが珍しく、変に誤解されたみたい。
「お心づかい、痛み入ります」
チャールズさんは礼を言い、さっと後ろに下がり公爵に道を譲った。
「ネヴィルの容態は?」
「先ほど目を覚ましましたが、まだ意識がはっきりしません。どうやら落馬した際、頭を強く打ち付けたようで、体もあちこち打ち身や骨折している箇所もありました」
「そうか。目が覚めたのならよかった」
背中を向けているため私からは顔が見えないが、安堵しているのが声色でわかる。
脳震盪でも起こしているのかもしれない。
さすがにここではCTも脳波を計測する医療機器もない。
領主館は王都の公爵邸の半分ほどの大きさだったが、それでもかなり大きい。
私は広い玄関を公爵とチャールズさんの後に続いて入っていった。
「キルヒライル様」
玄関に入ると、恰幅のいい女性が公爵のそばに走り寄ってきた。
「マーサ、元気だったか」
小柄でぽっちゃりした彼女は、涙を浮かべて彼を抱きしめた。
マーサさんは殿下の乳母でシリアさんのお母さんだ。
「よくご無事で」
抱きしめたまま下から彼の顔を見上げ、右頬に走った彼の傷にそっと触れる。
「たいへんでございましたね」
頬を撫でられながら、マーサさんを優しく見下ろしている殿下の顔は、王弟でもなく、公爵でもなく、一人の青年に見えた。
「あら、こちらは?」
マーサさんは玄関に立つ私に気付き殿下に尋ねる。
「王都の邸で働くメイドのローリィだ。ジャックが人手がいるだろうと言うので連れてきた」
「まあ、そうでしたの」
先ほどのチャールズさんと同じ目で見られた。
着ている服を見れば使用人だとすぐわかるのに、どうしてみんな勘違いするのだろう。
というか、女の人を連れてきたことないの?
「ローリィといいます。よろしくお願いします。シリアさんやロッテさんにはよくしていただいております」
「あなたが、ローリィさんね。シリアから話は聞いていましたよ。お会いできてうれしいわ」
マーサさんは殿下から離れて私のところに駆け寄ると、私の手を握りしめた。
身長差があるため、彼女の顔の前まで上げた手は、私には胸元あたりになる。
「本当に背が高いわね。キルヒライル様も背がお高いけど、ちょうどいいのでなくて」
何に?
「それに、聞いていた以上に美人さんねぇ」
「……ありがとうございます」
社交辞令だろうが誉められて悪い気がしない。
素直にお礼を言う。
「ねえ、キルヒライル様」
マーサさんは殿下に同意を求める。
いや、そこで殿下にふるのはやめて欲しい。
シリアさんから色々聞いてると言っていたが、まさか勝手に応援隊のことも聞いてるんじゃないかと疑うくらい、私を推してくる。
使用人など仕事ができるかどうかで判断してもらえればいいわけで、顔なんてどうでもいい方でしょ。
マーサに同意を求められ、殿下はまじまじと、濃い藍色の瞳を向け、私の顔を凝視する。
チャールズさんもおもしろそうに見ている。
「ネヴィルの所へ案内してくれ」
しばらく私の顔を見ていた殿下だったが、マーサにふられた話題には何も答えず、チャールズさんにそう言った。
褒め言葉を期待していたわけではないが、何の感想ももらえなかった。
まさかのスルー。
「キルヒライル様は相変わらずねぇ」
ごめんなさいね、とマーサさんが謝る。
「大丈夫ですよ」
気にしていないことを伝える。
殿下はそのままチャールズさんとネヴィルさんがいる部屋に行ってしまったので、私はマーサさんに連れられて自分の荷物を持って使用人達が集まる部屋に行った。
「馬車ですぐとは言え、疲れたでしょ」
マーサさんはそう言ってお茶を入れてくれた。
「ネヴィルさん、目が覚められたんですね。よかった」
取るものもとりあえず駆けつけたが、まだぼんやりとは言え、命に別状がなくてよかったと素直に伝えた。
「本当に、ネヴィルが領内の見廻りに乗っていった馬だけが戻ってきたのには驚いたわ」
その時のことをマーサさんは語った。
収穫も山場を迎え、ネヴィルさんは各畑の葡萄の収穫状況を調べるため、馬であちこちまわっていたそうだ。
一人で廻っていたのと、目撃者が誰もいなかったので、落馬の状況を見た人はいない。
ネヴィルさんの奥さんが今日は帰りが遅いなあと表に様子を見に行った時、無人の馬が戻ってきた。
何があったのではと、その日に廻る予定だった周辺を探しに行くと、地面に仰向けに倒れていた彼を見つけたということだった。
「フィリアもひと安心ね」
フィリアさんはネヴィルさんの奥さんの名前だ。
一昨日、倒れたネヴィルさんを部屋に運び込んでから、殆ど寝ていないそうだ。
「目が覚めたとは言え、ネヴィルもしばらくは起き上がらないだろうから、ローリィ達が来てくれてよかったよ。収穫祭までにやらなきゃいけないことがたくさんあるからね」
「何でも言って下さい」
ガッツポーズを作ると、マーサさんは頼もしいわね、と言って笑った。
その間に馬車の中で私は公爵領についてと、領内にいる主だった方たちについての説明を聞いた。
この時期、夏から始まったブドウの収穫がようやく終わり、これから本格的にワインの醸造が始まる。
報告によると今年はまあまあの豊作だったらしく、いいワインができるだろうということだった。
近いうち領内では収穫を終え、一段落したお祝いに、収穫祭りが三日間開かれる。領主館でも最終日に領民を招待しての宴会が開かれるということだった。
祭りはいいワインができるようにという祈願と、来年も豊作でありますようにと祈る大事な行事だという。
領主館はワインの醸造所と同じ敷地内に建っていて、裏庭はたくさんの人たちが集まってパーティーができるようになっているということだ。
そんな話を聞いているうちに馬車は正門をくぐり、正面に据え付けられた噴水の周囲を時計周りに進み、馬車は領主館の前に止まった。
公爵が身を寄せていた側の扉が開き、彼はさっと外に出た。
「お久しぶりでございます、旦那様」
「久しいな、チャールズ」
まだ馬車にいたので出迎えた人の顔は見えなかったが、先ほど説明にあった領主館の執事さんだとわかった。
私も馬車を降りるため身を起こし、扉の方へ近づくと、外からすっと手が伸びた。
一瞬何をされているのかわからず、差し出された手を眺め、それが馬車を降りるため私に差し出された殿下の右手だと気づいた。
「私はただの使用人です。そのようなことはお気遣い不要です」
パタパタと手をふり、差し出された手を断った。
「気にするな」
言われて、差し出した手を今さら引かせるのも申し訳ないと考え、素直に従った。
「ありがとうございます」
おずおずとそう言って左手をそっと出して殿下の手に重ねた。
馬車から踏み出す一瞬力強く手を握りしめられ、軽く支えられるようにして馬車を降りた。
私もけっして可憐な手とは言えないが、殿下の手はそんな私の手よりも大きかった。
「こちらは?」
ジャックさんよりはいくぶん若い感じのチャールズさんが馬車から出てきた私を不思議そうに見た。
公爵は一人で来ると思っていたようだ。
「王都から連れてきたメイドのローリィだ。ネヴィルも寝込んでいることだし、人手がいると思い連れてきた」
「ローリィと申します。何なりとお申し付けください」
着ていたワンピースのスカートを持って軽く会釈すると、チャールズさんは少しがっかりしたような顔をした。
公爵と同じ馬車で来たので、別の関係を期待されていたことに気づいた。
女性を連れて来たのが珍しく、変に誤解されたみたい。
「お心づかい、痛み入ります」
チャールズさんは礼を言い、さっと後ろに下がり公爵に道を譲った。
「ネヴィルの容態は?」
「先ほど目を覚ましましたが、まだ意識がはっきりしません。どうやら落馬した際、頭を強く打ち付けたようで、体もあちこち打ち身や骨折している箇所もありました」
「そうか。目が覚めたのならよかった」
背中を向けているため私からは顔が見えないが、安堵しているのが声色でわかる。
脳震盪でも起こしているのかもしれない。
さすがにここではCTも脳波を計測する医療機器もない。
領主館は王都の公爵邸の半分ほどの大きさだったが、それでもかなり大きい。
私は広い玄関を公爵とチャールズさんの後に続いて入っていった。
「キルヒライル様」
玄関に入ると、恰幅のいい女性が公爵のそばに走り寄ってきた。
「マーサ、元気だったか」
小柄でぽっちゃりした彼女は、涙を浮かべて彼を抱きしめた。
マーサさんは殿下の乳母でシリアさんのお母さんだ。
「よくご無事で」
抱きしめたまま下から彼の顔を見上げ、右頬に走った彼の傷にそっと触れる。
「たいへんでございましたね」
頬を撫でられながら、マーサさんを優しく見下ろしている殿下の顔は、王弟でもなく、公爵でもなく、一人の青年に見えた。
「あら、こちらは?」
マーサさんは玄関に立つ私に気付き殿下に尋ねる。
「王都の邸で働くメイドのローリィだ。ジャックが人手がいるだろうと言うので連れてきた」
「まあ、そうでしたの」
先ほどのチャールズさんと同じ目で見られた。
着ている服を見れば使用人だとすぐわかるのに、どうしてみんな勘違いするのだろう。
というか、女の人を連れてきたことないの?
「ローリィといいます。よろしくお願いします。シリアさんやロッテさんにはよくしていただいております」
「あなたが、ローリィさんね。シリアから話は聞いていましたよ。お会いできてうれしいわ」
マーサさんは殿下から離れて私のところに駆け寄ると、私の手を握りしめた。
身長差があるため、彼女の顔の前まで上げた手は、私には胸元あたりになる。
「本当に背が高いわね。キルヒライル様も背がお高いけど、ちょうどいいのでなくて」
何に?
「それに、聞いていた以上に美人さんねぇ」
「……ありがとうございます」
社交辞令だろうが誉められて悪い気がしない。
素直にお礼を言う。
「ねえ、キルヒライル様」
マーサさんは殿下に同意を求める。
いや、そこで殿下にふるのはやめて欲しい。
シリアさんから色々聞いてると言っていたが、まさか勝手に応援隊のことも聞いてるんじゃないかと疑うくらい、私を推してくる。
使用人など仕事ができるかどうかで判断してもらえればいいわけで、顔なんてどうでもいい方でしょ。
マーサに同意を求められ、殿下はまじまじと、濃い藍色の瞳を向け、私の顔を凝視する。
チャールズさんもおもしろそうに見ている。
「ネヴィルの所へ案内してくれ」
しばらく私の顔を見ていた殿下だったが、マーサにふられた話題には何も答えず、チャールズさんにそう言った。
褒め言葉を期待していたわけではないが、何の感想ももらえなかった。
まさかのスルー。
「キルヒライル様は相変わらずねぇ」
ごめんなさいね、とマーサさんが謝る。
「大丈夫ですよ」
気にしていないことを伝える。
殿下はそのままチャールズさんとネヴィルさんがいる部屋に行ってしまったので、私はマーサさんに連れられて自分の荷物を持って使用人達が集まる部屋に行った。
「馬車ですぐとは言え、疲れたでしょ」
マーサさんはそう言ってお茶を入れてくれた。
「ネヴィルさん、目が覚められたんですね。よかった」
取るものもとりあえず駆けつけたが、まだぼんやりとは言え、命に別状がなくてよかったと素直に伝えた。
「本当に、ネヴィルが領内の見廻りに乗っていった馬だけが戻ってきたのには驚いたわ」
その時のことをマーサさんは語った。
収穫も山場を迎え、ネヴィルさんは各畑の葡萄の収穫状況を調べるため、馬であちこちまわっていたそうだ。
一人で廻っていたのと、目撃者が誰もいなかったので、落馬の状況を見た人はいない。
ネヴィルさんの奥さんが今日は帰りが遅いなあと表に様子を見に行った時、無人の馬が戻ってきた。
何があったのではと、その日に廻る予定だった周辺を探しに行くと、地面に仰向けに倒れていた彼を見つけたということだった。
「フィリアもひと安心ね」
フィリアさんはネヴィルさんの奥さんの名前だ。
一昨日、倒れたネヴィルさんを部屋に運び込んでから、殆ど寝ていないそうだ。
「目が覚めたとは言え、ネヴィルもしばらくは起き上がらないだろうから、ローリィ達が来てくれてよかったよ。収穫祭までにやらなきゃいけないことがたくさんあるからね」
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