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47 モーリスのもう一人の息子
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しばらくは特別なこともなく過ぎた。
変わったことと言えばベックスの代わりの門番が一人新たに雇い入れられたことだ。
ベックスは愛想も悪く不真面目だったので、首にしたというジャックさんの説明に、皆が納得した。
新しい門番はカークと言い、愛想も良く仕事熱心で、いい人が来たね、と皆で喜んだ。
私は毎朝、ジャックさんとシリアさんと共に公爵の朝の仕度を手伝い、午前中の執務の間に(普通に)お茶を入れ、午後公爵は王宮に行き、私はメイドの仕事をこなす。
夜は二日おきにみんなとヨガをする。
男性完全シャットアウトのこの集まりに、男性の使用人たちは何をやっているのか探りをいれてきたが、事情をきいているジャックさんのとりなしで、しつこく聞いてくることはなくなった。
クリスさんたち三人も日常はいつものように仕事をしていたが、時折公爵の帰宅後執務室に呼ばれるようになった。
他の使用人たちの手前、公にはされていなかったが、公爵には正式な護衛として認定されたみたいだ。
ボロロ一家は取り潰されたらしい。
周辺の者はある日突然煙のように彼らが消えたことについて、色々な憶測をしたが、嫌なやつがいなくなったということで、総じて安堵していた。
王様の弟、公爵に手を出そうとしたのだ。当然と言えば当然だが、国家権力の闇を見た気がして身震いがした。
「ボロロ一家にはキナ臭い連中が頻繁に出入りしていたので、今回の侵入について話を持ち込んだ人物は特定できていない」
つまりは、ボロロ一家から遡って探ることは無理だということだ。
「そっちの方は捜索を断念するそうだ」
彼らが聞かされていたのは、そこまでだった。
◇◇◇◇◇◇◇
侵入事件があってから一週間後、私はお休みをもらってウィリアムさんからの呼び出しに答え、彼の家に行った。
離宮の警備で王都を離れていた師匠のもう一人の息子さんのマシューさんが来るという連絡をくれたからだ
ウィリアムさんの家に着いてホリイさんに挨拶を済ませ居間に入ると、ウィリアムさんとその隣に座っていた男の人が立ち上がった。
「いらっしゃい、ローリイ」
「はじめまして、マシューです」
そう言ってにこやかに挨拶をしてくれたマシューさんは、背丈だけはモーリス師匠のように高いが、それ以外は美魔女エミリさんによく似た男性だった。
エミリさんの遺伝子の方が強くて良かったなぁとつくづく思う。
「さっきから兄に君のことを聞いていたのだけど、話に聞くのと実際に会うのとではやっぱり違いますね」
「誉めてくれていたならいいですが」
「当たり前じゃないですか」
その日の午後、私たちとお茶を運んでくれたホリイさんとでモーリス師匠やエミリさんの話題で盛り上がった。
夕食の支度にホリイさんが席を外すと、ウィリアムさんは最近の仕事について話を始めた。
「俺は第三近衛騎士団団長付きになって、マシューは今度第二近衛騎士団団長直轄で仕事をすることになった」
「それって出世ですか?」
「どうだろうな?普段は都の警備に当たったりいつも通りだが、警備の班体制から離れて、団長から命令があれば、そっちを優先しなくてはならない。ホリイには何も言ってないんだ」
マシューさんも今まで勤めていた離宮での警備の仕事は一時休業ということにして、妻子も置いてきている。
こちらはさすがに妻子に黙ってというわけにいかないので、表向きは訓練のためということにしているそうだ。
公爵邸への侵入事件以降、近衛騎士団では慌ただしく人事異動が行われているらしい。
「僕はシュルスの近く、西の方に行く。今回はその打ち合わせのために来たんだ。アイスヴァインも近いので、時間があれば親父たちにも会ってくる」
アイスヴァインを出てからまだひと月近くしか経っていないが、ひどく懐かしく感じる。
「もし行くことがあればお二人によろしく」
「ああ」
マシューさんとはほんの短い間の対面だったが、私には頼もしいお兄さんがもう一人できたみたいで嬉しかった。
マシューさんは明日は第二近衛騎士団の詰所に出勤し、明後日には任地へ赴くということだった。
出発の日は見送ることができないため、私は体には十分気をつけてと言って、ウィリアムさんの家を後にした。
変わったことと言えばベックスの代わりの門番が一人新たに雇い入れられたことだ。
ベックスは愛想も悪く不真面目だったので、首にしたというジャックさんの説明に、皆が納得した。
新しい門番はカークと言い、愛想も良く仕事熱心で、いい人が来たね、と皆で喜んだ。
私は毎朝、ジャックさんとシリアさんと共に公爵の朝の仕度を手伝い、午前中の執務の間に(普通に)お茶を入れ、午後公爵は王宮に行き、私はメイドの仕事をこなす。
夜は二日おきにみんなとヨガをする。
男性完全シャットアウトのこの集まりに、男性の使用人たちは何をやっているのか探りをいれてきたが、事情をきいているジャックさんのとりなしで、しつこく聞いてくることはなくなった。
クリスさんたち三人も日常はいつものように仕事をしていたが、時折公爵の帰宅後執務室に呼ばれるようになった。
他の使用人たちの手前、公にはされていなかったが、公爵には正式な護衛として認定されたみたいだ。
ボロロ一家は取り潰されたらしい。
周辺の者はある日突然煙のように彼らが消えたことについて、色々な憶測をしたが、嫌なやつがいなくなったということで、総じて安堵していた。
王様の弟、公爵に手を出そうとしたのだ。当然と言えば当然だが、国家権力の闇を見た気がして身震いがした。
「ボロロ一家にはキナ臭い連中が頻繁に出入りしていたので、今回の侵入について話を持ち込んだ人物は特定できていない」
つまりは、ボロロ一家から遡って探ることは無理だということだ。
「そっちの方は捜索を断念するそうだ」
彼らが聞かされていたのは、そこまでだった。
◇◇◇◇◇◇◇
侵入事件があってから一週間後、私はお休みをもらってウィリアムさんからの呼び出しに答え、彼の家に行った。
離宮の警備で王都を離れていた師匠のもう一人の息子さんのマシューさんが来るという連絡をくれたからだ
ウィリアムさんの家に着いてホリイさんに挨拶を済ませ居間に入ると、ウィリアムさんとその隣に座っていた男の人が立ち上がった。
「いらっしゃい、ローリイ」
「はじめまして、マシューです」
そう言ってにこやかに挨拶をしてくれたマシューさんは、背丈だけはモーリス師匠のように高いが、それ以外は美魔女エミリさんによく似た男性だった。
エミリさんの遺伝子の方が強くて良かったなぁとつくづく思う。
「さっきから兄に君のことを聞いていたのだけど、話に聞くのと実際に会うのとではやっぱり違いますね」
「誉めてくれていたならいいですが」
「当たり前じゃないですか」
その日の午後、私たちとお茶を運んでくれたホリイさんとでモーリス師匠やエミリさんの話題で盛り上がった。
夕食の支度にホリイさんが席を外すと、ウィリアムさんは最近の仕事について話を始めた。
「俺は第三近衛騎士団団長付きになって、マシューは今度第二近衛騎士団団長直轄で仕事をすることになった」
「それって出世ですか?」
「どうだろうな?普段は都の警備に当たったりいつも通りだが、警備の班体制から離れて、団長から命令があれば、そっちを優先しなくてはならない。ホリイには何も言ってないんだ」
マシューさんも今まで勤めていた離宮での警備の仕事は一時休業ということにして、妻子も置いてきている。
こちらはさすがに妻子に黙ってというわけにいかないので、表向きは訓練のためということにしているそうだ。
公爵邸への侵入事件以降、近衛騎士団では慌ただしく人事異動が行われているらしい。
「僕はシュルスの近く、西の方に行く。今回はその打ち合わせのために来たんだ。アイスヴァインも近いので、時間があれば親父たちにも会ってくる」
アイスヴァインを出てからまだひと月近くしか経っていないが、ひどく懐かしく感じる。
「もし行くことがあればお二人によろしく」
「ああ」
マシューさんとはほんの短い間の対面だったが、私には頼もしいお兄さんがもう一人できたみたいで嬉しかった。
マシューさんは明日は第二近衛騎士団の詰所に出勤し、明後日には任地へ赴くということだった。
出発の日は見送ることができないため、私は体には十分気をつけてと言って、ウィリアムさんの家を後にした。
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