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45 会議の行く末

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宴で自分が踊り子に対して取った行動から、ああいうのが好みか、と突っ込まれたが、化粧が濃くて好みの顔かどうかわからなかったと正直に答えた。

なら、なぜマントを、とソーヤ伯爵に聞かれ、そう言えばどうしてだろうと暫く考えて、イヤらしい目で見られていた彼女が可哀想だったからだと言った。
ニヤニヤと兄たちに「へえ」とか「お優しいですね」とかからかわれたが、宰相とハレス子爵はそこに加わらなかったのが救いだった。

散々からかわれて辟易していた時、宰相邸から使者が訪れているという情報が届き、話の筋は本来の所へ戻った

やはり、というか奴らは自分達に依頼を出した本当の人物の名は知らされていなかった。

そして、あの門番は、宰相が本来雇おうとしたベックスという人物ではなく、バスターと言う全くの別人だった。

つまり、宰相が雇おうとしたベックスは別にいて、バスターが何かしらの伝を使って、ベックスに成りすましていたということだった。

「仲間の男たちはどうだ?」

「どうやら、本当に単純にお金目当て。最近急激に勢力を伸ばしてきている連中だそうです」

「ああいう者たちを雇って殺らせるということは、とことん尻尾を掴ませたくないのでしょう」

報告を全て聞き、また何かあったら報告をと言って、宰相は使者を帰らせた。

「第三近衛騎士団の方でも、ボロロ一家に接触した者について調べよう」

ハロルドがアフルレッドと頷き合う。

「では、よろしくお願いします。ソーヤ団長、お願いしていた件はどうなりましたか?」

「これがそうだ」
伯爵は持っていた書類を宰相に渡した。

「それは何だ?」

王が宰相が受け取った書類を覗き込む。

「王都から地方に散った、かつて先々代と王位を争った方々の状況調査です。と、言ってもご本人たちは全員が亡くなられ、今は次代や孫の代になっていますが」

答えたのはソーヤ伯爵だ。宰相はさっと書類に目を通すと、それを王に渡す。

「もちろん、マイン国の残党の可能性も捨てられません」

「当時、マイン国軍部の上層部にいる多くが戦を望んでいたが、穏健派と呼ばれる者もいて、彼らの協力で戦は回避できたが、戦を推奨する一派の全員をどうにかできたわけではなかった。密かに逃れて生き延びた者や、処刑された者の身内、恨みを持つ者はあげればきりがない」

「国内にいる誰かが関わっていたのが間違いないなら、まずはここに名前のある者たちに的を絞ってはどうか?それに、一部の者は名前がわかっているのだろう?」

「はい、こちらです」

宰相は別の書類を王に渡す。
王都に戻ってきてすぐにキルヒライルが宰相に渡し、今までその裏付けを取るために預かっていたものだ。

「今回、キルヒライル様が持ち帰ってくれたものです。命がけで」

その場にいる全員がキルヒライルを見る。

この証拠を持っていたため追っ手に追われたのだった。

「それで、調査の結果は?」

「すでに王都内での屋敷には第三近衛騎士団を張り付かせておりますが、地方の領主ばかりです」

「地方であるがゆえに、中央の目も届きにくく、領主として権力も持ちやすく、隠れて不正なことも行いやすい。とも言えますね」

「キルヒライル様が持ってきたリストにあったのは三名。」

ナジェット侯爵。
アルセ伯爵。
アヴィエ侯爵。

「どれもシュルスに近い所に領地がある者ばかりだな」

王が記憶を頼りにその位置を頭の中に描いて呟いた。

「西の地域はあまり領地が豊かとは言えません。西へ行くほど乾燥地帯が続き、一部を除き作物もあまり育ちません」

「アイスヴァインとオルフェですね」

宰相が言うとハレスが続いてそのすぐ側の領地を指差す。

「当時先々代、ジェスティア陛下と王位を争った七名のうち、東の海を隔てたゼダンに婿入りされたすぐ上の兄上、エンリケ様の方は今回除外してもいいと思います」

「あそこはエンリケが亡くなる前から後続争いで揉めていて、他国の情勢に関わっている場合ではないな」

「ジェスティア陛下の叔父上のライアン様と一番上の兄上カイル様は王位争いに敗れた際にそれぞれ臣下に下られていますね」

「確か、南の商業都市カナンのクロエ侯爵家とイエルーク伯爵家だったな」

「ですので、完全に白とは言えませんが、こちらはシュルスと距離的にも離れていますし、直接彼らとつながりは薄いかと考えます」

「後はこの四名だな」

第二王子セイリオ
第三王子オーグ
第四王子ブルーノ
もう一人の叔父レイエバール

「セイリオ様は第二王子でしたが、お母上があまり裕福でない男爵ということで、後ろ楯もなく初めから最も王位から遠いと言われていましたね」

「反対に第三、第四王子の母親は筆頭侯爵家の娘。後ろ楯は一番強かったな」

「ジェスティア陛下が即位した際に、謀反の疑いで侯爵家は取り潰しとなっております。その後平民にくだったと聞いております」

「セイリオ殿は精神を病んでどこかで療養していたのではなかったか」

「報告によるとあの後しばらくして亡くなられたようですね」

ソーヤ伯爵の持ってきた書類に目を遠し、そこに書かれた内容を読み上げる。

「ですが、セイリオ様が療養していたのはアルセ領です。オーグ様とブルーノ様もナジェット侯爵の領地預りとなっています」

「彼らの後継者はどうなっている?」

「セイリオ様は婚姻もせず、お子も残されず亡くなられたようです。オーグ様は、その、恋愛対象が男性にあったようで、お子もいらっしゃいません。ブルーノ様はナジェット領の平民出の女性と婚姻されたようですが、お子さまは女性ばかりですね」

二人は跡継ぎを残さず亡くなっていた。
もう一人は子どもは全て女ばかり。
男性でなければ王位継承権は持っていない。例え彼女達が男の子を生んだとしても、今の法律では継承権が隔世でめぐってくることはない。

「レイエバール殿は?」

祖父に聞いたところによると、レイエバールは正妃の生んだ王子であるが、その出自について黒い噂があった。
表向きは祖父の父の一番下の王子ということになっている。
一番上の王子とは親子ほども年が離れて生まれた。その頃すでに父王は病身の身であり、とても子作りにかまけている体力があったようには見えなかったそうだ。
それなのに王妃のいきなりの懐妊。
王妃の不義の子ではないか、表立っていう者はなかったが多くの者がそう思った。
加えて当時王妃の側に仕えていた女官の殆どが宿下がりや病気などにより亡くなるなどして王宮からいなくなったので、口封じかと勘ぐる者もいた。
更に悪いことに、レイエバールはあまりに王妃に似ていて、父が誰なのかその容姿から推測することができなかった。

レイエバールは叔父とは言え、ジェスティアとは僅か五歳上なだけだった。

「レイエバール様の行方がまったく掴めていないのです」

そう、ソーヤ伯爵が言った。

「表向きは王妃様の生家に一時預りということになり、そちらに行かれたことはわかっているのですが、生死のほどがわかっていません。年齢を考えると既に亡くなっていることは明らかなのですが、いつどうやって亡くなったのか、調べてもわかりませんでした」

「ジェスティア王が、かつての政敵のその後について、そのようなあやふやな調査をしているとは思えない」

イースフォルドがソーヤ伯爵の報告について意義を唱える。

「もちろん、預り先であるカーマイン侯爵家所有の墓地に墓もあり、墓碑の年代から王位争いからは数年のうちに病気で亡くなっているとありますが、亡くなられた以降、彼を見かけたいう者があり、その頃あの辺りで無念の王子が死んだのちも浮かばれずさ迷っていると噂がたったらしいのです」

「つまり、亡くなったとこちらの目を欺き、密かにどこかへ雲隠れしたと?」

幽霊騒ぎは人民の勝手な思い込みで、実は死を偽装して密かに生き延びたと考えるのが妥当だろう。

「その可能性はあります」

「それが本当だとしたなら、レイエバール卿が国内か国外のどこかに潜み、王位奪還を目論んでいる可能性が捨てきれないね」

キルヒライルの言葉にその場にいた誰もが頷いた。

「では、引き続きレイエバール卿について調査を続けろ。他の者についても、玉座への関心がないとはっきりわかるまで、もう少し周辺を探れ。キルヒライルが上げたこの三名については、領地にも人を送り糾弾できるに足る証拠を掴み、的確な時期に捕らえろ」

やらねばならないことは山積みだった。
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