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41 苛立ち
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クリスは自分の知る範囲で伝えた。
ただし、捕縛に関わったのは、自分とレイ、そしてエリックの三人だということにした。
自分たちが単なる使用人でないことは、遅かれ早かれ殿下の知るところになることは、最初から想定の範囲内だ。
ローリィのことは、今はまだ伏せておくことにしようと、四人で話し合った。
だから、彼女には濡れた衣服を着替えに行かせた。
ウィリアム・ドルグランから秘密裏に今回の依頼を受け、レイたちと共に宰相邸を訪れた際に、初めて彼女に会った。
その場には邸の主である宰相を始め、第二近衛騎士団副団長とドルグラン隊長もいた。
始めは宰相邸のメイドだと思った。女性にしては背が高いが、メイドの服装をしていれば誰でもそう思う。
実は彼女も今回一緒に公爵邸へ行く一人だと聞かされた時は驚いた。
穏健な自分でさえ、女などと思った程だ。血の気の多いレイは途端に不機嫌さを顕にした。
目上の方たちがいなければ、冗談じゃないと叫んでいたかもしれない。
自分たちの反応は当然予想していた子爵たちは、百聞は一見にしかず、ということで、自分たちと彼女の腕試しの場を設けた。
結果はこちらの惨敗。
女と侮ったせいもあったが、三対一でも勝てたかどうか怪しい。
第三近衛騎士団でも伝説の人だったウィリアム・ドルグランの父、モーリス・ドルグランの弟子だときいたのは、敗北をきした後だった。
「わかった。疲れているだろうが、交代で見張りを頼む」
「畏まりました」
言われてクリスは執務室を出た。
廊下の途中で着替えを済ませたローリィが待っていた。
彼女はすっと握り拳を自分に向ける。
通りすがりにクリスも握り拳を出して彼女の拳に軽くぶつける。
騎士団の中で健闘を讃える時にする合図だ。
「なかなかの蹴りだったぞ」
乾いたタオルを渡され、濡れた髪を拭く。
「つい」
悪びれもせず肩をすくめる。
「朝早く宰相邸にあいつらを連れて行く」
翌朝、まだ夜が明けきらないうちにクリスたちは宰相邸に出かけていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日、キルヒライルはいつもより早くに王宮へ出かけていった。
朝の仕度の際には帰りは遅くなる。とだけ言っていた。
クリスさんたちは宰相邸から帰ってくると、いつもどおりの仕事をこなしている。
聞くところによると、朝早く賊を乗せた馬車で乗り込み、そのまま宰相邸の使用人に引き渡してきただけだった。
三人が騎士団所属の騎士であること、殿下はとうにお気付きだったらしい。
案外見る目あるのかも。
ベックスをはじめ夕べの奴らに対する尋問は宰相邸のどこかで行うらしいと、クリスさんたちは言っていた。
どこ、とははっきり言わなかったが、取調室みたいな地下牢とか拷問部屋とか、そんなものがあるのかも知れない。
それにしても、今回の件は、何だか釈然としない。
確実に襲撃を成功させるなら、もっと大勢でもっと腕のたつ者を寄越す方が確実だ。
中途半端な襲撃はこちらの警戒を強めるだけだ。
または、この程度の者しか手配できなかったか。
もしくは、この失敗に懲りて相手がもう仕掛けてこないだろうと油断させるのが目的か。
本当の目的を隠すためのフェイク、誘導かもしれない。
色々な憶測をさせて疑心暗鬼に陥らせ、こちらが疲弊するのを待とうという作戦かもしれない。
そういえば、あの街道で彼が怪我を負って倒れていたのは、誰がどういう理由でしたことなのだろう。
ハレス子爵は彼が命を狙われていると言っていたが、あの時の怪我も今回も相手は同じなのだろうか。
持っているピースが少な過ぎて、どんな絵が出来上がることになるのかわからないことに、私は苛立ちを覚えた。
ただし、捕縛に関わったのは、自分とレイ、そしてエリックの三人だということにした。
自分たちが単なる使用人でないことは、遅かれ早かれ殿下の知るところになることは、最初から想定の範囲内だ。
ローリィのことは、今はまだ伏せておくことにしようと、四人で話し合った。
だから、彼女には濡れた衣服を着替えに行かせた。
ウィリアム・ドルグランから秘密裏に今回の依頼を受け、レイたちと共に宰相邸を訪れた際に、初めて彼女に会った。
その場には邸の主である宰相を始め、第二近衛騎士団副団長とドルグラン隊長もいた。
始めは宰相邸のメイドだと思った。女性にしては背が高いが、メイドの服装をしていれば誰でもそう思う。
実は彼女も今回一緒に公爵邸へ行く一人だと聞かされた時は驚いた。
穏健な自分でさえ、女などと思った程だ。血の気の多いレイは途端に不機嫌さを顕にした。
目上の方たちがいなければ、冗談じゃないと叫んでいたかもしれない。
自分たちの反応は当然予想していた子爵たちは、百聞は一見にしかず、ということで、自分たちと彼女の腕試しの場を設けた。
結果はこちらの惨敗。
女と侮ったせいもあったが、三対一でも勝てたかどうか怪しい。
第三近衛騎士団でも伝説の人だったウィリアム・ドルグランの父、モーリス・ドルグランの弟子だときいたのは、敗北をきした後だった。
「わかった。疲れているだろうが、交代で見張りを頼む」
「畏まりました」
言われてクリスは執務室を出た。
廊下の途中で着替えを済ませたローリィが待っていた。
彼女はすっと握り拳を自分に向ける。
通りすがりにクリスも握り拳を出して彼女の拳に軽くぶつける。
騎士団の中で健闘を讃える時にする合図だ。
「なかなかの蹴りだったぞ」
乾いたタオルを渡され、濡れた髪を拭く。
「つい」
悪びれもせず肩をすくめる。
「朝早く宰相邸にあいつらを連れて行く」
翌朝、まだ夜が明けきらないうちにクリスたちは宰相邸に出かけていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日、キルヒライルはいつもより早くに王宮へ出かけていった。
朝の仕度の際には帰りは遅くなる。とだけ言っていた。
クリスさんたちは宰相邸から帰ってくると、いつもどおりの仕事をこなしている。
聞くところによると、朝早く賊を乗せた馬車で乗り込み、そのまま宰相邸の使用人に引き渡してきただけだった。
三人が騎士団所属の騎士であること、殿下はとうにお気付きだったらしい。
案外見る目あるのかも。
ベックスをはじめ夕べの奴らに対する尋問は宰相邸のどこかで行うらしいと、クリスさんたちは言っていた。
どこ、とははっきり言わなかったが、取調室みたいな地下牢とか拷問部屋とか、そんなものがあるのかも知れない。
それにしても、今回の件は、何だか釈然としない。
確実に襲撃を成功させるなら、もっと大勢でもっと腕のたつ者を寄越す方が確実だ。
中途半端な襲撃はこちらの警戒を強めるだけだ。
または、この程度の者しか手配できなかったか。
もしくは、この失敗に懲りて相手がもう仕掛けてこないだろうと油断させるのが目的か。
本当の目的を隠すためのフェイク、誘導かもしれない。
色々な憶測をさせて疑心暗鬼に陥らせ、こちらが疲弊するのを待とうという作戦かもしれない。
そういえば、あの街道で彼が怪我を負って倒れていたのは、誰がどういう理由でしたことなのだろう。
ハレス子爵は彼が命を狙われていると言っていたが、あの時の怪我も今回も相手は同じなのだろうか。
持っているピースが少な過ぎて、どんな絵が出来上がることになるのかわからないことに、私は苛立ちを覚えた。
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