転生して要人警護やってます

七夜かなた

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35 今からヨガを始めます

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「ねえ、本当に、あの格好するの?」

聞いてきたのはルルだ。

自分が好奇心で言い出したことに、少し責任を感じているのか、その後、ずっと心配そうに聞いてくる。

「仕方ないでしょう?許可してもらうためには、包み隠さず見せないと」

開き直った私に、でも、と、なおもルルが呟く。

シリアさんとロッテさん、ミアとコニーには、昼の休憩の間に普段どんな格好をしてヨガをやっているのか衣装を見せた。
四人は、一瞬たじろいだが、衣装は自分で用意してもらうので、そこは自分の大丈夫な範囲でやってくれたらいいと言うと、安心したようだ。
そして、私が男子禁制で、と言った意味も理解した。

夕食を終え、その日の仕事がすべて終わると、私は一旦部屋に着替えに戻った。

みんなは先に殿下とともに執務室で待っている。

ゆったりとしたズボンは、腰を紐でくくり、ずり上がらないように裾に紐を通し、固定するようになっている。

上半身は、まず、下着代わりのベストを前でひもで結ぶ。その上から七分丈の袖に、襟元の空いた腰丈のシャツを羽織る。
髪は両耳の下で二つに別けてまとめる。
バレエシューズに素足を突っ込み、その上から外套を着る。

ヨガ用に使っていた敷物は、あの日殿下に進呈したままなので、今はタオルを繋げて二枚重ねにしている。

くるくるとタオルを巻いて持ち、皆の待つ執務室へ向かった。


ノックをして中に入ると、殿下は執務机の椅子、シリアさんたちみんなはソファに腰かけていた。

私はソファと執務室備え付けの本棚との間に、タオルを繋げて作ったマットを広げてから、皆の方に向き直った。

「まず、ヨガでは呼吸が大事です。普段、皆さんは普通に息を吸って吐いてを繰り返していますが、ヨガでは特に意識して行います。まず息を吸う。鼻から吸って、吸うと同時にお腹を膨らませていきます。お腹に吸った空気を入れます。そして、吐くときはお腹を凹ます。お腹と背中がくっつくように」

私が吸って吐いてを言うと、皆お腹に手を当てて、何度となく繰り返す。

「これを腹式呼吸といいます」

机のせいでよくわからないが、殿下も腹式呼吸をやっているみたい。何だか意外。

「それでは、ヨガを始めます」

言って、私は外套を脱いだ。

「「「「!」」」」

ルル以外は実際に着たところを見たことなかったので、皆、困惑していた。

殿下に至っては……口元に手を当てて、顔を横に向けている。

やって見せろと言ったのは自分なんだから、覚悟しろよと思った。

私はその場に立ち、いくつかのポーズを取った。

太陽礼拝のポーズ、英雄のポーズ、半月のポーズ、ダウンドック、チャイルドポーズ。四つん這いから猫のポーズ……etc.

ひととおり説明を交えてやり終え、だいたいこんなものです。
と最後に合掌をして終わった。

「鍛えたいところや、目的によって、先ほどの姿勢も少しずつ変化を持たせることもできます。それにできない姿勢、やりにくい姿勢もありますが、無理にできなくてもかまいませんので、無理のない範囲ですることをお勧めします」

以上で終わり、と私は脇に置いた外套を羽織った。

シリアさんたちは、へぇ、とか、なるほどとか、それは熱心に観察していた。中には、出来ない~という呟きも聞こえたが、私が無理のない範囲で、というと、安心したようだった。

「あの、終わりましたよ。殿下」

机に肘をついて下を向いていたまま動かないでいる殿下に、近づいてもう一度声をかける。

「気に入らなかったのなら、すいません。ですが、見ないで許可していただいても、と申し上げましたのを、殿下が見せろ、とおっしゃるので、私は命令に従っただけです。無礼だと思うなら、首にしていただいても構いませんので」

「……いる」

ボソッと言われたので、よく聞き取れなかった。

これは、私の耳が悪かったのか?聞き返してもいいものだろうか?

「……申し訳ありません、殿下、よく聞き取れませんでした」

「わかっている、と言ったのだ。そなたはこうなるとわかっていて、ああ言ったのだろう?私が思っていたものではなかっただけだ」

一生懸命に、平静を取り繕うとしているが、耳まで真っ赤なので説得力がない。
前世からの年齢プラス今の年齢の私から見れば、殿下は精神的には私の半分くらいにしか過ぎない。
こちらでの結婚適齢期を考えれば、ちょっと初心過ぎませんか?

私が外套をすでに着こんでいるのを見て、明らかにホッとした様子なのも、何だかおもしろい。

顔には出しませんでしたよ。多分。

「では、不敬罪で問われることは」

「こんなことで、いちいち罰するほど私は狭量でもないし、暇でもない」

ようやく落ち着きを取り戻したようだった。

「皆は、今のを見て、それでもやりたいのか?その、今のような衣装を着て……」

ちらりと私の方を殿下が見た。説明に没頭していて良く見ていなかったが、どこら辺まで見ていたのだろう。
ポーズによっては、胸元やお腹も見えていたかも知れない。
我ながら、大胆だったかな、と反省する。

「衣装については、既成のものはないので、これから作ります。自分がいいと思う格好をすればいいと思います」

「どうなのだ?」

聞かれて五人は互いに顔を見合わせる。

ミリィたち舞屋の皆は、体を鍛えることに積極的だったので、もっとすんなり受け入れてくれた。
だが、彼女達は体が資本なのは同じだが、見せることに特化していた踊り子とは違う。

「やる気があるなら、許可はする。ただし、男は絶対立ち入り禁止、仕事に影響がでるのは厳禁だ」

「私は、やってみたいです。自信はありませんが」

シリアさんが、口を開いた。

その言葉を筆頭に、結局五人全員が手をあげた。

「では、ジャックにボウルルームの使用については話を通しておく。皆、夜遅く、疲れているところすまなかった。今夜はもう部屋に戻っていい」

殿下の言葉に、その日は解散となった。

皆が先に出ていく中、私はマット用のタオルを片付けていた。

「それと…シリア」 

後ろから殿下がシリアに話しかける声が聞こえた。

「はい、何でしょう」

巻き終えたマット用のタオルを抱え、二人に失礼しますと言って部屋を出ようとした。

「ローリィも聞いてくれ、明日から、私の朝の仕度は、シリアと君に任せる」

シリアさんもちょっとびっくりした様子だったが、私の方が驚いた。
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