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30 メイドさんになりました
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それから今後の手順について細かい打ち合わせをするということになった。
けれど、例の貴人が王弟殿下だと聞いてから、最初の意気込みがすっかり衰えた私の様子を二人は見逃さなかった。
「王弟殿下について、何かあるのか?」
ハレス子爵に聞かれ、私は王宮へ踊り子として行ったことを話した。かなりどぎつい化粧をし、髪の色も変えていたし、ほとんど会話らしい会話もしなかったので、ばれないとは思うが、知っているべきだと思った。
このことはウィリアムさんにも言っていなかったから。
「………なんだそれは………」
「ローリイ……無茶苦茶だぞ」
二人に絶句されてしまった。
ウィリアムさんは第三近衛騎士団なので、もちろん宴の会場にはいなかったが、第二近衛騎士団のハレス子爵はその場にはいなかったとは言え、話は知っていたようだ。
「まあ、偽名を名乗り、髪の色も変えていたみたいなので、大丈夫だとは思うが、念のため眼鏡なども用意した方がいいな」
「…すいません」
本当は、もっと前に関わっているのだが、それは私の胸にだけ留める。
その後、舞屋の方々にどう説明するか、どういう伝で公爵邸に紹介するかなどを決めた。
当分来ることができなくなるので、シャイニングスターの世話の件は、子爵様の方できちんとしてくれるということになった。
また、私はメイドの研修のためにどこかのお屋敷に行く必要ができた。
子爵邸では色々不都合があるだろうということで、宰相さんの所に顔見せも兼ねてメイドの仕事をひととおり教えてもらうことを決め、その日夕方には子爵邸から引き上げた。
舞屋に帰ってから、王都から馬で3日ほど行ったところに王室の夏の離宮があり、そこにいるウィリアムさんの弟のマシューさんに会いに行き、彼の奥さんの出産前後の間、手伝いに行くので、しばらく王都を留守にすると告げると、皆が泣いて行かないでと一晩中すがりつかれた。
そのため私は次の日弱冠寝不足気味になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ローリイ、このシーツを客間に持って行って、それから庭へ行って庭師から花をもらって玄関の花を入れ換えて、それが終わったら厨房に行って夕食の手伝いをお願い」
「はい、わかりました。シリアさん」
私は一階の洗濯室から干したばかりのシーツを受け取って、二階の客間に向かった。
洗ったシーツを寝台に敷き直すのは本来二人でする仕事だし、シーツを変えたり花を変えたり、厨房の手伝いまで同じメイドがすることはない。
だが、このエドワルド公爵邸は極端な人手不足だった。
メイドの仕事を指示して取り仕切るのは、メイド頭のシリアさん。その次に偉いのがロッテさん。後は同列で私とルルさん、ミアさん、コニーさんの六人だ。
男性は執事のジャックさん、執事見習いのトムさん、クリスさん、レイさんの五人で屋内の仕事を分担している。
厨房にいたっては料理長のマイクさんと副料理長のロイさん、見習いのシャルルさんの三人だ。
後は外回りの仕事をする庭師、厩舎係、門番がいる。
公爵邸に来て驚いたのは、ここが数日前に私が迷っていた地域であり、私にぞんざいな扱いをした茶髪の男がいた屋敷だった。
例の男は門番の一人で、名前はベックスと言った。
直接接する機会はほとんどないし、私のことは当然覚えていなかった。
公爵邸は三階建ての主寝室を含めた部屋数が二十、サロンに音楽室、図書室、書斎、朝食室に居間、ダイニングなどがある。そこに使用人部屋や厨房など、とにかく広い。
幸いなのが仕える主人が公爵ただ一人だということだ。
私は宰相さんのお宅でメイドの仕事をひととおり教えてもらい、完璧とは言えないが、掃除や洗濯など、最低限の仕事はできるという結果をもらい、三日後には公爵邸に入った。
お茶を入れるのはお墨付きをいただいたが、裁縫は落第点でした。
宰相のジーク・テインリヒ伯爵は、ハレス子爵の人選に男三人については特に異論はなかったが、やはりというか私について難色を示した。
私が踊り子クレアとして宴に出ていたということも、その理由のひとつだったみたいだが、人選はハレス子爵に一任したことを突かれ、不承不承納得した。
ウィリアムさんが他に候補とした三人はクリスさんとレイさん、後一人は厩舎にいるエリックさんだ。
三人は元からの知り合いだったが、今回、皆で公爵邸に行くにあたり、宰相邸で顔合わせを行った。
今、公爵邸にいる執事さんのみが、私たちのことを知らされている。
私はハレス子爵の領地の管財人の奥さんの従兄弟の娘ということで、紹介された。
ちなみに公爵は明日この屋敷に来ることになっている。
公爵の身の回りの世話をするのはシリアさんとロッテさんということになっている。
髪の色は地のストロベリーブロンド、眼鏡をかけ、化粧でソバカスを施した。過度な変装は毎日だとめんどくさいので、最低限の細工にとどめた。
シーツを敷いて、玄関の花を変え終わり、厨房の手伝いに向かう。
公爵邸のメイド服は袖口と襟元が白、濃紺のワンピース、白いフリルの上下エプロン。頭にはフリルのヘッドドレス。裾にはレースがあしらわれている。前世では着る機会のなかったメイド服だが、世界観の違いから、丈は踝まで。
有名なメイド喫茶なら膝くらいは見えていたかもしれない。
(お帰りなさい、ご主人さま)
って言えばいいのかな。
けれど、例の貴人が王弟殿下だと聞いてから、最初の意気込みがすっかり衰えた私の様子を二人は見逃さなかった。
「王弟殿下について、何かあるのか?」
ハレス子爵に聞かれ、私は王宮へ踊り子として行ったことを話した。かなりどぎつい化粧をし、髪の色も変えていたし、ほとんど会話らしい会話もしなかったので、ばれないとは思うが、知っているべきだと思った。
このことはウィリアムさんにも言っていなかったから。
「………なんだそれは………」
「ローリイ……無茶苦茶だぞ」
二人に絶句されてしまった。
ウィリアムさんは第三近衛騎士団なので、もちろん宴の会場にはいなかったが、第二近衛騎士団のハレス子爵はその場にはいなかったとは言え、話は知っていたようだ。
「まあ、偽名を名乗り、髪の色も変えていたみたいなので、大丈夫だとは思うが、念のため眼鏡なども用意した方がいいな」
「…すいません」
本当は、もっと前に関わっているのだが、それは私の胸にだけ留める。
その後、舞屋の方々にどう説明するか、どういう伝で公爵邸に紹介するかなどを決めた。
当分来ることができなくなるので、シャイニングスターの世話の件は、子爵様の方できちんとしてくれるということになった。
また、私はメイドの研修のためにどこかのお屋敷に行く必要ができた。
子爵邸では色々不都合があるだろうということで、宰相さんの所に顔見せも兼ねてメイドの仕事をひととおり教えてもらうことを決め、その日夕方には子爵邸から引き上げた。
舞屋に帰ってから、王都から馬で3日ほど行ったところに王室の夏の離宮があり、そこにいるウィリアムさんの弟のマシューさんに会いに行き、彼の奥さんの出産前後の間、手伝いに行くので、しばらく王都を留守にすると告げると、皆が泣いて行かないでと一晩中すがりつかれた。
そのため私は次の日弱冠寝不足気味になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ローリイ、このシーツを客間に持って行って、それから庭へ行って庭師から花をもらって玄関の花を入れ換えて、それが終わったら厨房に行って夕食の手伝いをお願い」
「はい、わかりました。シリアさん」
私は一階の洗濯室から干したばかりのシーツを受け取って、二階の客間に向かった。
洗ったシーツを寝台に敷き直すのは本来二人でする仕事だし、シーツを変えたり花を変えたり、厨房の手伝いまで同じメイドがすることはない。
だが、このエドワルド公爵邸は極端な人手不足だった。
メイドの仕事を指示して取り仕切るのは、メイド頭のシリアさん。その次に偉いのがロッテさん。後は同列で私とルルさん、ミアさん、コニーさんの六人だ。
男性は執事のジャックさん、執事見習いのトムさん、クリスさん、レイさんの五人で屋内の仕事を分担している。
厨房にいたっては料理長のマイクさんと副料理長のロイさん、見習いのシャルルさんの三人だ。
後は外回りの仕事をする庭師、厩舎係、門番がいる。
公爵邸に来て驚いたのは、ここが数日前に私が迷っていた地域であり、私にぞんざいな扱いをした茶髪の男がいた屋敷だった。
例の男は門番の一人で、名前はベックスと言った。
直接接する機会はほとんどないし、私のことは当然覚えていなかった。
公爵邸は三階建ての主寝室を含めた部屋数が二十、サロンに音楽室、図書室、書斎、朝食室に居間、ダイニングなどがある。そこに使用人部屋や厨房など、とにかく広い。
幸いなのが仕える主人が公爵ただ一人だということだ。
私は宰相さんのお宅でメイドの仕事をひととおり教えてもらい、完璧とは言えないが、掃除や洗濯など、最低限の仕事はできるという結果をもらい、三日後には公爵邸に入った。
お茶を入れるのはお墨付きをいただいたが、裁縫は落第点でした。
宰相のジーク・テインリヒ伯爵は、ハレス子爵の人選に男三人については特に異論はなかったが、やはりというか私について難色を示した。
私が踊り子クレアとして宴に出ていたということも、その理由のひとつだったみたいだが、人選はハレス子爵に一任したことを突かれ、不承不承納得した。
ウィリアムさんが他に候補とした三人はクリスさんとレイさん、後一人は厩舎にいるエリックさんだ。
三人は元からの知り合いだったが、今回、皆で公爵邸に行くにあたり、宰相邸で顔合わせを行った。
今、公爵邸にいる執事さんのみが、私たちのことを知らされている。
私はハレス子爵の領地の管財人の奥さんの従兄弟の娘ということで、紹介された。
ちなみに公爵は明日この屋敷に来ることになっている。
公爵の身の回りの世話をするのはシリアさんとロッテさんということになっている。
髪の色は地のストロベリーブロンド、眼鏡をかけ、化粧でソバカスを施した。過度な変装は毎日だとめんどくさいので、最低限の細工にとどめた。
シーツを敷いて、玄関の花を変え終わり、厨房の手伝いに向かう。
公爵邸のメイド服は袖口と襟元が白、濃紺のワンピース、白いフリルの上下エプロン。頭にはフリルのヘッドドレス。裾にはレースがあしらわれている。前世では着る機会のなかったメイド服だが、世界観の違いから、丈は踝まで。
有名なメイド喫茶なら膝くらいは見えていたかもしれない。
(お帰りなさい、ご主人さま)
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