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27 最適な人材
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「なかなかの見応えだったぞ」
周りで皆が賑やかに盛り上がっている中、私とウィリアムさんにハレス子爵が労いの言葉をかけた。
「さすがモーリスの息子と弟子だ。私も騎士の端くれ、是非お相手したいところだ」
副団長という地位は身分だけでなれる生易しいものではない。実力があってこそ。その彼に誉められ悪い気はしない。
「お褒めいただき、恐悦至極にございます」
素直に礼を述べる。
「モーリスの太刀筋とはまた違ったな。色々剣術以外にも心得があるように見えたが」
鋭い指摘に、やはり子爵は見る目もあるらしい。
「私も撃ち合って感じました。父の太刀筋ならよく知っていますが、なかなか太刀筋が見えず苦労しました」
「モーリス師匠の太刀筋は、彼ほどの体格があってこそです。私は彼ほどの体格も腕力も持ち合わせておりません。あれは自分なりに自分に合った戦い方を編み出したものです。もちろん、師匠の協力は大きかったですが」
「そうか」
「あなた、よろしくて?」
子爵の隣でやり取りを聞いていたアンジェリーナ夫人がそわそわと割って入ってきた。
「む、なんだ?」
あまりこういった鍛練の場に来ることのない妻が同席することも珍しい。
しかもその観戦ぶりが、まるで劇場の俳優を見ているようだった。
「ハインツさん、とても素晴らしかったですわ。旦那様や他の騎士団の方々の練習も何度か見学いたしましたが、何だか無骨で汗臭くて好きではなかったのです」
ちらりと自分に視線をむけられ、だからあまり詰所にも来なかったのかと納得する。
「でも、ハインツさんの撃ち合いは、まるで踊っているみたいで優雅で、舞台のようでしたわ」
恍惚とした表情で話す妻の様子に子爵はこめかみを押さえた。
「無骨で汗臭くて悪かった」
ウィリアムも苦笑いを浮かべる。
「あ、いえ旦那様がそうとは……」
慌てて扇で口元を隠して取り繕う。
「あの、もしよろしければ、ハインツさんをあちらにお連れしてよろしいかしら?ほら、お連れの方々もお待ちになっておりますし、お茶もサロンにご用意いたしますわ」
ホリイさんやミリイたちが、駆け寄りたいが子爵夫妻に遠慮して来れない様子なので、夫人が気を利かせて言ってくれた。
「まあ、そうだな、他の者は持ち場に戻れ!休憩は終わりだ」
子爵の一括で、使用人たちは蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの持ち場に戻って行った。
「では、旦那様、先に行っておりますわね」
「ああ、後で行く」
アンジェリーナ夫人に誘われて、ローリイは一礼をしてミリイたちの所へ行った。
二人が立ち去ると、子爵はウィリアムに自分が先ほどから考えているとこを告げた。
「ドルグラン、先ほどのリストにハインツを加えたいと思うのだが、どうだ」
「え、それは……!」
子爵の言葉にウィリアムは仰天した。
今日、ウィリアムがローリイたちより早く子爵邸を訪れたのは、昨日頼まれた件で、条件に当てはめる人物についてのリストを渡すためだっだ。
「昨日の今日で仕事が早くて助かるが、そなたも言っていたではないか、あのリストにある三人もギリギリ条件に当てはまるが、最上とは言えないと、ハインツは最適の人材だと思うが」
「いえ、しかし…」
ウィリアムは真っ向から否定できなかった。
今日、副団長に渡したリストの者達は人柄も能力も申し分ない。加えて裕福な商家の出や地方の下級とはいえ貴族の出の者ばかりなので、それなりに礼儀作法も身に付いている。
だが、やはり騎士の風情は隠しきれず、屋敷の使用人に紛れ込ませても、違和感を感じ得ないだろう。
ローリィは、腕前も申し分ないが、屋敷の使用人として潜り込ませても、護衛とは見えないだろう。
ローリイが女であると知っているウィリアムの頭から、完全にこの件から除外していたが、男だと思って見れば、確かに今回の件にはうってつけの人材だ。
「どうした?何か事情があるのか?身元は確かなんだろう?」
歯切れの悪い返事に子爵が訝しむ。
「はあ、それは、確かですが……」
「もちろん、リストにあった者たちと違い、騎士団に所属していない民間人だから、無理矢理命令して、というわけにも行かないだろう。あまり詳しい事情は話せないが、概要だけでも話をして、引き受けるかきいてみようと思うが」
断れる道もあるのなら、事情を知れば副団長も諦めてくれるかも知れない。
「後で時間を作って、二人で私の書斎に来てくれるか?」
「はい、承知しました」
二人はお茶会に参加するため、サロンへ赴いた。
そこで二人が見たのは、アンジェリーナ夫人を始め、ドルグラン夫人と舞屋の面々に取り囲まれ、あれやこれや世話を焼かれているローリイの姿だった。
周りで皆が賑やかに盛り上がっている中、私とウィリアムさんにハレス子爵が労いの言葉をかけた。
「さすがモーリスの息子と弟子だ。私も騎士の端くれ、是非お相手したいところだ」
副団長という地位は身分だけでなれる生易しいものではない。実力があってこそ。その彼に誉められ悪い気はしない。
「お褒めいただき、恐悦至極にございます」
素直に礼を述べる。
「モーリスの太刀筋とはまた違ったな。色々剣術以外にも心得があるように見えたが」
鋭い指摘に、やはり子爵は見る目もあるらしい。
「私も撃ち合って感じました。父の太刀筋ならよく知っていますが、なかなか太刀筋が見えず苦労しました」
「モーリス師匠の太刀筋は、彼ほどの体格があってこそです。私は彼ほどの体格も腕力も持ち合わせておりません。あれは自分なりに自分に合った戦い方を編み出したものです。もちろん、師匠の協力は大きかったですが」
「そうか」
「あなた、よろしくて?」
子爵の隣でやり取りを聞いていたアンジェリーナ夫人がそわそわと割って入ってきた。
「む、なんだ?」
あまりこういった鍛練の場に来ることのない妻が同席することも珍しい。
しかもその観戦ぶりが、まるで劇場の俳優を見ているようだった。
「ハインツさん、とても素晴らしかったですわ。旦那様や他の騎士団の方々の練習も何度か見学いたしましたが、何だか無骨で汗臭くて好きではなかったのです」
ちらりと自分に視線をむけられ、だからあまり詰所にも来なかったのかと納得する。
「でも、ハインツさんの撃ち合いは、まるで踊っているみたいで優雅で、舞台のようでしたわ」
恍惚とした表情で話す妻の様子に子爵はこめかみを押さえた。
「無骨で汗臭くて悪かった」
ウィリアムも苦笑いを浮かべる。
「あ、いえ旦那様がそうとは……」
慌てて扇で口元を隠して取り繕う。
「あの、もしよろしければ、ハインツさんをあちらにお連れしてよろしいかしら?ほら、お連れの方々もお待ちになっておりますし、お茶もサロンにご用意いたしますわ」
ホリイさんやミリイたちが、駆け寄りたいが子爵夫妻に遠慮して来れない様子なので、夫人が気を利かせて言ってくれた。
「まあ、そうだな、他の者は持ち場に戻れ!休憩は終わりだ」
子爵の一括で、使用人たちは蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの持ち場に戻って行った。
「では、旦那様、先に行っておりますわね」
「ああ、後で行く」
アンジェリーナ夫人に誘われて、ローリイは一礼をしてミリイたちの所へ行った。
二人が立ち去ると、子爵はウィリアムに自分が先ほどから考えているとこを告げた。
「ドルグラン、先ほどのリストにハインツを加えたいと思うのだが、どうだ」
「え、それは……!」
子爵の言葉にウィリアムは仰天した。
今日、ウィリアムがローリイたちより早く子爵邸を訪れたのは、昨日頼まれた件で、条件に当てはめる人物についてのリストを渡すためだっだ。
「昨日の今日で仕事が早くて助かるが、そなたも言っていたではないか、あのリストにある三人もギリギリ条件に当てはまるが、最上とは言えないと、ハインツは最適の人材だと思うが」
「いえ、しかし…」
ウィリアムは真っ向から否定できなかった。
今日、副団長に渡したリストの者達は人柄も能力も申し分ない。加えて裕福な商家の出や地方の下級とはいえ貴族の出の者ばかりなので、それなりに礼儀作法も身に付いている。
だが、やはり騎士の風情は隠しきれず、屋敷の使用人に紛れ込ませても、違和感を感じ得ないだろう。
ローリィは、腕前も申し分ないが、屋敷の使用人として潜り込ませても、護衛とは見えないだろう。
ローリイが女であると知っているウィリアムの頭から、完全にこの件から除外していたが、男だと思って見れば、確かに今回の件にはうってつけの人材だ。
「どうした?何か事情があるのか?身元は確かなんだろう?」
歯切れの悪い返事に子爵が訝しむ。
「はあ、それは、確かですが……」
「もちろん、リストにあった者たちと違い、騎士団に所属していない民間人だから、無理矢理命令して、というわけにも行かないだろう。あまり詳しい事情は話せないが、概要だけでも話をして、引き受けるかきいてみようと思うが」
断れる道もあるのなら、事情を知れば副団長も諦めてくれるかも知れない。
「後で時間を作って、二人で私の書斎に来てくれるか?」
「はい、承知しました」
二人はお茶会に参加するため、サロンへ赴いた。
そこで二人が見たのは、アンジェリーナ夫人を始め、ドルグラン夫人と舞屋の面々に取り囲まれ、あれやこれや世話を焼かれているローリイの姿だった。
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