転生して要人警護やってます

七夜かなた

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25 公開練習

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舞屋の皆もウィリアムさんとの手合わせを見たがり、大勢で押し掛けるのは失礼にあたると言ったが、行ってみて断られれば諦めるからと言われ、私は五人を引き連れて子爵邸を訪れた。

私の後ろにズラリと並んだ踊り子たちと舞屋の主を見て、出迎えてくれた執事さんは一瞬腰が引けたようになったが、そこはプロの執事らしく、すぐさま平静を装い、彼女達も見学していいか子爵に尋ねに行ってくれた。

「旦那様のお許しが出ました。裏庭にご案内しますので、私についてきてください」

暫く待って執事さんが戻ってきて、そう言ったので、私たちは彼の後に続いて中に入る。
ウィリアムさんは既に着いているとのことだった。
鍛練場所として使わせて頂く庭は、屋敷を通り抜けたところにある。
通り抜けながら、屋敷の中が妙にシンとしていて、人の気配があまりしないことに気づいた。
こちらのお屋敷って人が少ないのかなぁ。
そう思って執事さんの後をついていく。

「こちらが今日使っていただく庭でございます」
「「「「「わぁ!」」」」」

執事さんが開け放した扉の向こうには、広すぎとは言えないが、そこそこに広い庭が広がっていた。
驚いたのは、そこに、大勢の人間がいたからだ。

良く見ると、制服なのか、同じような服を着ている人が多く、ここで働いている人達のようで、老若男女問わず集まっているようだ。

「あの、執事さん……これは?」

「皆さん、見学を希望されているようです」

「け、見学?」

単なる肩慣らしの撃ち合いを希望していただけなのに。

「ハインツ殿はあちらに、他の方々はこちらへ、もちろん皆さまはハインツ側陣地でよろしいですよね?」

「「「「「もちろん!」」」」」

え、陣地とか何ですか?

そう思って見ると、庭にいる人たちは二つに別れて固まっている。右奥にはほぼ全員が女性という塊。
そして、左奥には殆ど男性ばかりが固まっている。

執事さんは舞屋の人たちを当然のように右の奥へ案内した。

私はウィリアムさんを見つけ、ちょっといいですか?と執事さんに言ってから、慌ててウィリアムさんのところに走っていった。

ウィリアムさんは苦笑しながら近づく私に手を振っている。

「ウィリアムさん、こ、これは?」

「うーん、俺は副団長に、場所を貸して欲しいって頼んだだけなんだが…」

副団長…ハレス子爵は、場所を貸してくれる方なので、見学は当然の権利だが、見学自由とは言った。しかし、そのことを聞いた子爵夫人も是非ということになり、するとそれが屋敷中に広がったのだと、ウィリアムさんも、先ほど子爵から聞いたのだった。

「でも、どうして皆さん別れて立ってるんですか?」

見渡して、対立するように別れていることを不思議に思い尋ねる。

「それは、あっちがあなたの応援、こっちが俺の応援。ちなみにホリイもそっち側だ」

「え!?」

女性が多い方があっち。男が多い方がこっち。ウィリアムさんが指し示した方向を見ると、屋敷の使用人さん達に混じってホリイさんが居るのはあっち側、つまり私の応援。
ホリイさんは、私がそちらを見たことに気づくと、嬉しそうに手を振っている。
「ええ!ホリイさんが?旦那さんのウィリアムさんでなく?どうして?」

「知らん、あっちがいいんだと。ちなみに俺の応援は女たちがあなたを応援するから、面白くなくて俺を応援するらしい」

ほとほととウィリアムさんがぼやいた。

「とりあえず、副団長と奥方様に挨拶に行くか?」

ウィリアムさんがそう言って、二つに別れた集団の中央に座る子爵夫妻の所へ連れていってくれた。

「副団長、ローリイ・ハインツです。ローリイ、こちらが第二近衛騎士団の副団長で、ハレス子爵様だ。そして、お隣が子爵夫人のアンジェリーナ様」

「ローリイ・ハインツです。お初にお目にかかります。子爵様におかれましては、此度のことといい、馬の件についても過分なご配慮をいただき、ありがとうございます」

ドレスを着ていれば優雅にカーテンシーをするところだが、今日はズボンを履いているので、その場に片膝を立てて座り、お辞儀する。

「うむ、多忙であったので、執事に全て任せたが、厩舎は気に入ってくれたか?」

女性のような見目をした……確かにそうだと子爵は思った。
それにしても、複数の女性を引き連れて来るとは思わなかった。
モーリス・ドルグランは気はいいが、見た目は熊のような体格だったはずだ。
その弟子が、目の前にいる明るい赤みがかった金髪の、この少年だとは、話には聞いていたが、実際に目の当たりにしても信じられない。

「はい、とても立派な厩舎ですね。それに厩舎の皆さん始め、とてもよくしていただき、奥方様にも何かと親切にしていただいております」

右に座る子爵夫人の方を向いてそう言うと、夫人は「あら、そんな」と言って照れている。

子爵はすぐ横に夫である自分がいることを忘れたような妻の反応が気に入らない。

「……気に入ってくれたなら良い、今日はウィリアムと撃ち合いの稽古をしたいと言うことだったな、あのモーリス・ドルグランの弟子だそうだが、期待しているぞ」

モーリス師匠が有名なのは知っていたが、近衛騎士団の副団長にそう言われて何だか照れ臭さを感じた。

「いえ、そのような恐れ多いことです……ですが、その、本当に今日は肩慣らしの稽古のつもりなのですが、どうしてこのような……」

これではちょっとしと見せ物だ。

「それは許せ」

子爵としては使用人達が仕事を放り出してこの場にいることを職務怠慢として、いつもなら叱り飛ばしているところだが、自分や妻が単なる稽古に見学を申し出てこの場に居座る手前、あまり強く言えないとのことだった。

「もちろん、ただの稽古だから、どちらが勝った負けたを決めるつもりもない。気にせずやってくれ」

「はあ………」

それはそれで見ている方は面白くないのでは、と思ったが、勝っても負けても恐ろしいことになりそうな気がして、ちらりと横に立つウィリアムさんを見ると、相変わらず困ったように笑っている。

「ウィリアムさんもそれでいいんですか?」

「騎士団でも練習でこんなに注目集めたことはないが、今さら見るなと言っても無理だし、仕方ない」

殆ど諦めの境地だ。
これは有名スポーツ選手が報道陣を集めてやる公開練習と思ってやるしかない。

「それではよろしくお願いします」

気を取り直し、子爵夫妻に断ってその場を離れると、私とウィリアムさんは互いに剣を持って向き合った。

試合ではないので、勝敗を決めることはせず、子爵の手元にある砂時計が落ちたら一度鐘を鳴らし、砂時計を返して再び落ちるまで、とにかく撃ち合いを続けるというルールだと子爵が言った。

騎士団では持久力を養うため、よくやる訓練だそうだ。訓練ではもっと長い間落ちる砂時計が使われるらしい。

「ちゃんと稽古をするのは久しぶりですので、お手柔らかにお願いします」

「謙遜だな。親父にしごかれたなら、少しくらいの間があいても大差ないだろう?」

「………確かに」

同じ人物に教えてもらった者同士のあるあるで、互いに微笑み合った。

「ローリィ、頑張って!」

女性陣営から黄色い声があがる。

「ドルグラン殿!頑張ってください!」

男性陣営から野太い声があがる。

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