22 / 266
22 迷子になりました
しおりを挟む
競い舞で「月下の花」の勝利が宣言され、隣でチッとフィリアの舌打ちが聞こえたが、次にモニクに抱き締められ我に帰った。
退出するように促された時に一瞬公爵の瞳と視線が絡まり、彼があの後無事に生き延びたのだという事実に気付き、安堵の笑みを向けた。
少なくとも、1人の命は救えた。
私が向けた笑みの意味がわからなかったのか、公爵は眉根を寄せた。
私たちは壇上の陛下たちに会釈し、後ろ向きに扉まで下がり広間を辞した。
「すごいね、すごい、すごい!!」
控え室に戻るとモニクはピョンピョンと跳ねて部屋中を走り回った。
「王宮から手紙がきた時は死刑宣告の手紙かと思ったけど、ありがとーローリィ!あんたは幸運の女神だよ」
ぎゅうぎゅうと抱きついてティータも興奮気味である。
「それにしても、マリアのとこはミリイへの嫌がらせといい、腹が立つったらありゃしないね!」
ティータが裂けた私の下履きを見ていった。
「でも、うちが勝ったって知った時の顔を見たら、溜飲も下がりましたよ」
彼女たちは負けがわかるとすごすごと王宮から逃げるように帰って行った。
私たちも少し遅れて褒美をいただき、帰りもきちんと送っていただいた。
借りたマントは丁寧に折り畳み、侍従の方にお礼を伝え、殿下にお返しいただくようにお願いした。
舞屋に帰ると、みんな寝ないで待っていてくれ、結果を聞いて有頂天になり、朝まで宴会が続いた。
翌朝、何人かは二日酔いで苦しんでいたみたいだったが、私は有難いことに二日酔いにもならず、シューティングスターの世話をするため子爵邸に向かった。
今日はいつものようにズボンを履き、男装をしている。
ここ暫く舞の練習で体を動かしていたが、アイスヴァインでは、ほぼ毎日モーリスと鍛練を積んでいたので、今度ウィリアムさんにお願いして、相手をしてもらうかと考えた。
幸い(?)なことにウィリアムさんはモーリスに似ず、体格は大きくないが、あのモーリスの息子さんなのだから、きっといい鍛練になるに違いない。
王都に来てから私が覚えた道と言えば、ウィリアムさんの家と子爵邸への道、そして最初に泊まった宿屋への道だった。
ミリイたちに引っ張り回されて色々な店にも行ったが、腕に掴まられて歩きまわったので、はっきり言って道は覚えていない。
どうやら私は体の動きはすぐ覚えるくせに、勉強で覚えることは人並、そして道を覚えるのは人並み以下、方向音痴だったことに、十八になって初めて知った。
まあ、人間誰しも得手不得手があるものだ。
だって、アイスヴァインではこんな複雑な路地ないもの。
舞屋から伯爵邸までの道はわかった。三日ぶりに私が行くとシューティングスターはすごく喜んだ。馬丁さんと軽く世間話をしていると、メイドさんたちが入れ替わり立ち代わりお茶やお菓子を持ってきてくれる。
奥様からです、と言われて、いかにも高級そうなチョコレートもあった。
ここでは厩舎にまでサービスがあるかと聞くと、馬丁さんは今日は特別だと苦笑いした。
食べきれないお菓子をお土産にもらい、そこからウィリアムさんのところに行こうと思い、馬丁さんにウィリアムさん宅までの道順を聞いたのだが、どこかで曲がる所を間違えたらしい。
「………迷った」
気づけば大きな屋敷が建ち並ぶ、閑静な住宅地?
高い塀に囲まれ、屋敷の様子もまるっきり見えない。塀、塀、塀。
道を尋ねようにも、誰も通らない。
こんな大きなお屋敷があるなら、どこかに門番さんもいるのではと曲がり角を曲がって、私はようやく人影を見つけた。
「あ、すいませ~ん、ちょっとお伺いしたいんですが」
放っていかれてなるものかと、私はブンブン手を振ってその人影に声をかけた。
遠くでよく見えないが、多分男の人。
その人は私が声をかけたのが自分だと気付き、逃げようとした。
「あ、ちょっと、待ってくださいよ!怪しいものじゃないです。ちょっと道を…」
都会の人って冷たい(涙)
男の人は私が引き止めるのも聞かず、さっさっと立ち去って行った。
ウィリアムさん夫妻は師匠の身内と思って私に親切だったけど、ミリイたちみたいに初めて会ったのに一緒に住もうと言ってくれる人が珍しいのかな。
「逃げなくてもいいのに…」
男の人が立っていた場所まで行くと、そこは大きな門の前だった。馬車が並んで通れるくらいに広い門の横に、人が通れるくらいの幅の扉がついている。
「大きい…誰の屋敷かな」
実家も大きかったが、そこはもっと大きそうだ。
門から奥は木々が繁り、左にゆるくカーブを描いて道が曲がっているので、奥の屋敷は見えない。
ちょうど門から中へ歩いて行こうする人を見かけ、私は天の思し召しだとばかりに栗色の髪をしたおじさんに声をかけた。
「あのーすいません、道を…」
おじさんは振り返り私をジロリと睨み付けた。
「なんだよ、あんた、ここはあんたみたいなのがウロウロしていいところじゃないぜ」
話しかけるなとばかりに、しっしっと犬を追い払うようにされた。
「ちょっと迷子に…」
「とっとと帰りな!」
まったく取り合ってもらえず、男は屋敷の奥へ引っ込んでしまった。
「何、あいつむかつく~」
JKばりの言い方で毒付いた。死んだのは三十才なので、かなり無理があるが、そこは突っ込まないでくれると有難い。
「あいつの顔は忘れない」
いつか私に親切にしなかったことを後悔させてやる。
それから何とか人に尋ねながら、ウィリアムさんのお宅にたどり着いた。
偶然非番で自宅にいたウィリアムさんと話をすることができ、手合わせのことを話すと喜んで引き受けてくれた。
ウィリアムさんのお宅には手合わせできるほどの広さの庭がないので、馬を預かってくれた第二近衛騎士団の副団長に庭を貸してくれるように頼むと言ってくれた。
子爵の都合をきいて、また連絡するということになり、知っている場所に私は安堵した。
退出するように促された時に一瞬公爵の瞳と視線が絡まり、彼があの後無事に生き延びたのだという事実に気付き、安堵の笑みを向けた。
少なくとも、1人の命は救えた。
私が向けた笑みの意味がわからなかったのか、公爵は眉根を寄せた。
私たちは壇上の陛下たちに会釈し、後ろ向きに扉まで下がり広間を辞した。
「すごいね、すごい、すごい!!」
控え室に戻るとモニクはピョンピョンと跳ねて部屋中を走り回った。
「王宮から手紙がきた時は死刑宣告の手紙かと思ったけど、ありがとーローリィ!あんたは幸運の女神だよ」
ぎゅうぎゅうと抱きついてティータも興奮気味である。
「それにしても、マリアのとこはミリイへの嫌がらせといい、腹が立つったらありゃしないね!」
ティータが裂けた私の下履きを見ていった。
「でも、うちが勝ったって知った時の顔を見たら、溜飲も下がりましたよ」
彼女たちは負けがわかるとすごすごと王宮から逃げるように帰って行った。
私たちも少し遅れて褒美をいただき、帰りもきちんと送っていただいた。
借りたマントは丁寧に折り畳み、侍従の方にお礼を伝え、殿下にお返しいただくようにお願いした。
舞屋に帰ると、みんな寝ないで待っていてくれ、結果を聞いて有頂天になり、朝まで宴会が続いた。
翌朝、何人かは二日酔いで苦しんでいたみたいだったが、私は有難いことに二日酔いにもならず、シューティングスターの世話をするため子爵邸に向かった。
今日はいつものようにズボンを履き、男装をしている。
ここ暫く舞の練習で体を動かしていたが、アイスヴァインでは、ほぼ毎日モーリスと鍛練を積んでいたので、今度ウィリアムさんにお願いして、相手をしてもらうかと考えた。
幸い(?)なことにウィリアムさんはモーリスに似ず、体格は大きくないが、あのモーリスの息子さんなのだから、きっといい鍛練になるに違いない。
王都に来てから私が覚えた道と言えば、ウィリアムさんの家と子爵邸への道、そして最初に泊まった宿屋への道だった。
ミリイたちに引っ張り回されて色々な店にも行ったが、腕に掴まられて歩きまわったので、はっきり言って道は覚えていない。
どうやら私は体の動きはすぐ覚えるくせに、勉強で覚えることは人並、そして道を覚えるのは人並み以下、方向音痴だったことに、十八になって初めて知った。
まあ、人間誰しも得手不得手があるものだ。
だって、アイスヴァインではこんな複雑な路地ないもの。
舞屋から伯爵邸までの道はわかった。三日ぶりに私が行くとシューティングスターはすごく喜んだ。馬丁さんと軽く世間話をしていると、メイドさんたちが入れ替わり立ち代わりお茶やお菓子を持ってきてくれる。
奥様からです、と言われて、いかにも高級そうなチョコレートもあった。
ここでは厩舎にまでサービスがあるかと聞くと、馬丁さんは今日は特別だと苦笑いした。
食べきれないお菓子をお土産にもらい、そこからウィリアムさんのところに行こうと思い、馬丁さんにウィリアムさん宅までの道順を聞いたのだが、どこかで曲がる所を間違えたらしい。
「………迷った」
気づけば大きな屋敷が建ち並ぶ、閑静な住宅地?
高い塀に囲まれ、屋敷の様子もまるっきり見えない。塀、塀、塀。
道を尋ねようにも、誰も通らない。
こんな大きなお屋敷があるなら、どこかに門番さんもいるのではと曲がり角を曲がって、私はようやく人影を見つけた。
「あ、すいませ~ん、ちょっとお伺いしたいんですが」
放っていかれてなるものかと、私はブンブン手を振ってその人影に声をかけた。
遠くでよく見えないが、多分男の人。
その人は私が声をかけたのが自分だと気付き、逃げようとした。
「あ、ちょっと、待ってくださいよ!怪しいものじゃないです。ちょっと道を…」
都会の人って冷たい(涙)
男の人は私が引き止めるのも聞かず、さっさっと立ち去って行った。
ウィリアムさん夫妻は師匠の身内と思って私に親切だったけど、ミリイたちみたいに初めて会ったのに一緒に住もうと言ってくれる人が珍しいのかな。
「逃げなくてもいいのに…」
男の人が立っていた場所まで行くと、そこは大きな門の前だった。馬車が並んで通れるくらいに広い門の横に、人が通れるくらいの幅の扉がついている。
「大きい…誰の屋敷かな」
実家も大きかったが、そこはもっと大きそうだ。
門から奥は木々が繁り、左にゆるくカーブを描いて道が曲がっているので、奥の屋敷は見えない。
ちょうど門から中へ歩いて行こうする人を見かけ、私は天の思し召しだとばかりに栗色の髪をしたおじさんに声をかけた。
「あのーすいません、道を…」
おじさんは振り返り私をジロリと睨み付けた。
「なんだよ、あんた、ここはあんたみたいなのがウロウロしていいところじゃないぜ」
話しかけるなとばかりに、しっしっと犬を追い払うようにされた。
「ちょっと迷子に…」
「とっとと帰りな!」
まったく取り合ってもらえず、男は屋敷の奥へ引っ込んでしまった。
「何、あいつむかつく~」
JKばりの言い方で毒付いた。死んだのは三十才なので、かなり無理があるが、そこは突っ込まないでくれると有難い。
「あいつの顔は忘れない」
いつか私に親切にしなかったことを後悔させてやる。
それから何とか人に尋ねながら、ウィリアムさんのお宅にたどり着いた。
偶然非番で自宅にいたウィリアムさんと話をすることができ、手合わせのことを話すと喜んで引き受けてくれた。
ウィリアムさんのお宅には手合わせできるほどの広さの庭がないので、馬を預かってくれた第二近衛騎士団の副団長に庭を貸してくれるように頼むと言ってくれた。
子爵の都合をきいて、また連絡するということになり、知っている場所に私は安堵した。
4
お気に入りに追加
1,930
あなたにおすすめの小説

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?


異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる