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22 迷子になりました
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競い舞で「月下の花」の勝利が宣言され、隣でチッとフィリアの舌打ちが聞こえたが、次にモニクに抱き締められ我に帰った。
退出するように促された時に一瞬公爵の瞳と視線が絡まり、彼があの後無事に生き延びたのだという事実に気付き、安堵の笑みを向けた。
少なくとも、1人の命は救えた。
私が向けた笑みの意味がわからなかったのか、公爵は眉根を寄せた。
私たちは壇上の陛下たちに会釈し、後ろ向きに扉まで下がり広間を辞した。
「すごいね、すごい、すごい!!」
控え室に戻るとモニクはピョンピョンと跳ねて部屋中を走り回った。
「王宮から手紙がきた時は死刑宣告の手紙かと思ったけど、ありがとーローリィ!あんたは幸運の女神だよ」
ぎゅうぎゅうと抱きついてティータも興奮気味である。
「それにしても、マリアのとこはミリイへの嫌がらせといい、腹が立つったらありゃしないね!」
ティータが裂けた私の下履きを見ていった。
「でも、うちが勝ったって知った時の顔を見たら、溜飲も下がりましたよ」
彼女たちは負けがわかるとすごすごと王宮から逃げるように帰って行った。
私たちも少し遅れて褒美をいただき、帰りもきちんと送っていただいた。
借りたマントは丁寧に折り畳み、侍従の方にお礼を伝え、殿下にお返しいただくようにお願いした。
舞屋に帰ると、みんな寝ないで待っていてくれ、結果を聞いて有頂天になり、朝まで宴会が続いた。
翌朝、何人かは二日酔いで苦しんでいたみたいだったが、私は有難いことに二日酔いにもならず、シューティングスターの世話をするため子爵邸に向かった。
今日はいつものようにズボンを履き、男装をしている。
ここ暫く舞の練習で体を動かしていたが、アイスヴァインでは、ほぼ毎日モーリスと鍛練を積んでいたので、今度ウィリアムさんにお願いして、相手をしてもらうかと考えた。
幸い(?)なことにウィリアムさんはモーリスに似ず、体格は大きくないが、あのモーリスの息子さんなのだから、きっといい鍛練になるに違いない。
王都に来てから私が覚えた道と言えば、ウィリアムさんの家と子爵邸への道、そして最初に泊まった宿屋への道だった。
ミリイたちに引っ張り回されて色々な店にも行ったが、腕に掴まられて歩きまわったので、はっきり言って道は覚えていない。
どうやら私は体の動きはすぐ覚えるくせに、勉強で覚えることは人並、そして道を覚えるのは人並み以下、方向音痴だったことに、十八になって初めて知った。
まあ、人間誰しも得手不得手があるものだ。
だって、アイスヴァインではこんな複雑な路地ないもの。
舞屋から伯爵邸までの道はわかった。三日ぶりに私が行くとシューティングスターはすごく喜んだ。馬丁さんと軽く世間話をしていると、メイドさんたちが入れ替わり立ち代わりお茶やお菓子を持ってきてくれる。
奥様からです、と言われて、いかにも高級そうなチョコレートもあった。
ここでは厩舎にまでサービスがあるかと聞くと、馬丁さんは今日は特別だと苦笑いした。
食べきれないお菓子をお土産にもらい、そこからウィリアムさんのところに行こうと思い、馬丁さんにウィリアムさん宅までの道順を聞いたのだが、どこかで曲がる所を間違えたらしい。
「………迷った」
気づけば大きな屋敷が建ち並ぶ、閑静な住宅地?
高い塀に囲まれ、屋敷の様子もまるっきり見えない。塀、塀、塀。
道を尋ねようにも、誰も通らない。
こんな大きなお屋敷があるなら、どこかに門番さんもいるのではと曲がり角を曲がって、私はようやく人影を見つけた。
「あ、すいませ~ん、ちょっとお伺いしたいんですが」
放っていかれてなるものかと、私はブンブン手を振ってその人影に声をかけた。
遠くでよく見えないが、多分男の人。
その人は私が声をかけたのが自分だと気付き、逃げようとした。
「あ、ちょっと、待ってくださいよ!怪しいものじゃないです。ちょっと道を…」
都会の人って冷たい(涙)
男の人は私が引き止めるのも聞かず、さっさっと立ち去って行った。
ウィリアムさん夫妻は師匠の身内と思って私に親切だったけど、ミリイたちみたいに初めて会ったのに一緒に住もうと言ってくれる人が珍しいのかな。
「逃げなくてもいいのに…」
男の人が立っていた場所まで行くと、そこは大きな門の前だった。馬車が並んで通れるくらいに広い門の横に、人が通れるくらいの幅の扉がついている。
「大きい…誰の屋敷かな」
実家も大きかったが、そこはもっと大きそうだ。
門から奥は木々が繁り、左にゆるくカーブを描いて道が曲がっているので、奥の屋敷は見えない。
ちょうど門から中へ歩いて行こうする人を見かけ、私は天の思し召しだとばかりに栗色の髪をしたおじさんに声をかけた。
「あのーすいません、道を…」
おじさんは振り返り私をジロリと睨み付けた。
「なんだよ、あんた、ここはあんたみたいなのがウロウロしていいところじゃないぜ」
話しかけるなとばかりに、しっしっと犬を追い払うようにされた。
「ちょっと迷子に…」
「とっとと帰りな!」
まったく取り合ってもらえず、男は屋敷の奥へ引っ込んでしまった。
「何、あいつむかつく~」
JKばりの言い方で毒付いた。死んだのは三十才なので、かなり無理があるが、そこは突っ込まないでくれると有難い。
「あいつの顔は忘れない」
いつか私に親切にしなかったことを後悔させてやる。
それから何とか人に尋ねながら、ウィリアムさんのお宅にたどり着いた。
偶然非番で自宅にいたウィリアムさんと話をすることができ、手合わせのことを話すと喜んで引き受けてくれた。
ウィリアムさんのお宅には手合わせできるほどの広さの庭がないので、馬を預かってくれた第二近衛騎士団の副団長に庭を貸してくれるように頼むと言ってくれた。
子爵の都合をきいて、また連絡するということになり、知っている場所に私は安堵した。
退出するように促された時に一瞬公爵の瞳と視線が絡まり、彼があの後無事に生き延びたのだという事実に気付き、安堵の笑みを向けた。
少なくとも、1人の命は救えた。
私が向けた笑みの意味がわからなかったのか、公爵は眉根を寄せた。
私たちは壇上の陛下たちに会釈し、後ろ向きに扉まで下がり広間を辞した。
「すごいね、すごい、すごい!!」
控え室に戻るとモニクはピョンピョンと跳ねて部屋中を走り回った。
「王宮から手紙がきた時は死刑宣告の手紙かと思ったけど、ありがとーローリィ!あんたは幸運の女神だよ」
ぎゅうぎゅうと抱きついてティータも興奮気味である。
「それにしても、マリアのとこはミリイへの嫌がらせといい、腹が立つったらありゃしないね!」
ティータが裂けた私の下履きを見ていった。
「でも、うちが勝ったって知った時の顔を見たら、溜飲も下がりましたよ」
彼女たちは負けがわかるとすごすごと王宮から逃げるように帰って行った。
私たちも少し遅れて褒美をいただき、帰りもきちんと送っていただいた。
借りたマントは丁寧に折り畳み、侍従の方にお礼を伝え、殿下にお返しいただくようにお願いした。
舞屋に帰ると、みんな寝ないで待っていてくれ、結果を聞いて有頂天になり、朝まで宴会が続いた。
翌朝、何人かは二日酔いで苦しんでいたみたいだったが、私は有難いことに二日酔いにもならず、シューティングスターの世話をするため子爵邸に向かった。
今日はいつものようにズボンを履き、男装をしている。
ここ暫く舞の練習で体を動かしていたが、アイスヴァインでは、ほぼ毎日モーリスと鍛練を積んでいたので、今度ウィリアムさんにお願いして、相手をしてもらうかと考えた。
幸い(?)なことにウィリアムさんはモーリスに似ず、体格は大きくないが、あのモーリスの息子さんなのだから、きっといい鍛練になるに違いない。
王都に来てから私が覚えた道と言えば、ウィリアムさんの家と子爵邸への道、そして最初に泊まった宿屋への道だった。
ミリイたちに引っ張り回されて色々な店にも行ったが、腕に掴まられて歩きまわったので、はっきり言って道は覚えていない。
どうやら私は体の動きはすぐ覚えるくせに、勉強で覚えることは人並、そして道を覚えるのは人並み以下、方向音痴だったことに、十八になって初めて知った。
まあ、人間誰しも得手不得手があるものだ。
だって、アイスヴァインではこんな複雑な路地ないもの。
舞屋から伯爵邸までの道はわかった。三日ぶりに私が行くとシューティングスターはすごく喜んだ。馬丁さんと軽く世間話をしていると、メイドさんたちが入れ替わり立ち代わりお茶やお菓子を持ってきてくれる。
奥様からです、と言われて、いかにも高級そうなチョコレートもあった。
ここでは厩舎にまでサービスがあるかと聞くと、馬丁さんは今日は特別だと苦笑いした。
食べきれないお菓子をお土産にもらい、そこからウィリアムさんのところに行こうと思い、馬丁さんにウィリアムさん宅までの道順を聞いたのだが、どこかで曲がる所を間違えたらしい。
「………迷った」
気づけば大きな屋敷が建ち並ぶ、閑静な住宅地?
高い塀に囲まれ、屋敷の様子もまるっきり見えない。塀、塀、塀。
道を尋ねようにも、誰も通らない。
こんな大きなお屋敷があるなら、どこかに門番さんもいるのではと曲がり角を曲がって、私はようやく人影を見つけた。
「あ、すいませ~ん、ちょっとお伺いしたいんですが」
放っていかれてなるものかと、私はブンブン手を振ってその人影に声をかけた。
遠くでよく見えないが、多分男の人。
その人は私が声をかけたのが自分だと気付き、逃げようとした。
「あ、ちょっと、待ってくださいよ!怪しいものじゃないです。ちょっと道を…」
都会の人って冷たい(涙)
男の人は私が引き止めるのも聞かず、さっさっと立ち去って行った。
ウィリアムさん夫妻は師匠の身内と思って私に親切だったけど、ミリイたちみたいに初めて会ったのに一緒に住もうと言ってくれる人が珍しいのかな。
「逃げなくてもいいのに…」
男の人が立っていた場所まで行くと、そこは大きな門の前だった。馬車が並んで通れるくらいに広い門の横に、人が通れるくらいの幅の扉がついている。
「大きい…誰の屋敷かな」
実家も大きかったが、そこはもっと大きそうだ。
門から奥は木々が繁り、左にゆるくカーブを描いて道が曲がっているので、奥の屋敷は見えない。
ちょうど門から中へ歩いて行こうする人を見かけ、私は天の思し召しだとばかりに栗色の髪をしたおじさんに声をかけた。
「あのーすいません、道を…」
おじさんは振り返り私をジロリと睨み付けた。
「なんだよ、あんた、ここはあんたみたいなのがウロウロしていいところじゃないぜ」
話しかけるなとばかりに、しっしっと犬を追い払うようにされた。
「ちょっと迷子に…」
「とっとと帰りな!」
まったく取り合ってもらえず、男は屋敷の奥へ引っ込んでしまった。
「何、あいつむかつく~」
JKばりの言い方で毒付いた。死んだのは三十才なので、かなり無理があるが、そこは突っ込まないでくれると有難い。
「あいつの顔は忘れない」
いつか私に親切にしなかったことを後悔させてやる。
それから何とか人に尋ねながら、ウィリアムさんのお宅にたどり着いた。
偶然非番で自宅にいたウィリアムさんと話をすることができ、手合わせのことを話すと喜んで引き受けてくれた。
ウィリアムさんのお宅には手合わせできるほどの広さの庭がないので、馬を預かってくれた第二近衛騎士団の副団長に庭を貸してくれるように頼むと言ってくれた。
子爵の都合をきいて、また連絡するということになり、知っている場所に私は安堵した。
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