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19 踊り子の矜持
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「「月下の花」の皆さん、ごきげんよう」
侍従に促され、部屋の外に出ると、向かいの部屋から同じように出てきた踊り子たちに遭遇した。
「マリア…」
ティータが最後に出てきた同じ年くらいの女性に声をかけた。
何というか、派手なおばさんだった。
オレンジ色の髪に濃い緑の瞳、舞台にでるわけでもないのに派手な化粧をしていた。荒れた肌を隠そうとしているのがありありな化粧だ。
「ミリイはどうしたの?」
ちらりとこちらを見てミリイがいないので聞いてきた。
「あの子はちょっとケガをしてね、今日は連れてこなかったわ」
「…そう、こちらは初めて見る顔ね」
当然のことながら、私の方を見て紹介してくれないのかという、顔をした。
「この子はクレア、ミリイが踊れない間、臨時で雇い入れたの」
それ以上話すつもりがないという様子を見せ、私たちを早く連れていってもらうよに案内の侍従に言った。
「ふ~ん」
マリアは何やら言いたげな顔をしてこちらを伺い、ちょっとと言って、自分のところの踊り子に何やら耳打ちした。
「え!」
何を言われたかわからないが、彼女は驚いて思った以上に大きな声を出した。
「…わかりました…」
彼女はマリアと目配せし、にやりと笑った。
「頑張りなさい!」
マリアはにっこり笑って彼女の手を握った。
「では、まいりましょう」
それぞれの侍従に先導され、私たちは各々の剣を持って広間へ向かった。
私はマリアのところの踊り子とモニクの間に割り込み、モニクを護るように歩いた。横目で様子を伺い、警戒する。
鎖骨が見えるくらい襟の空いたぴったりとした上着は、薄いふんわりとした長袖になっている。私とモニクの見頃の色は淡い緑で統一され、金糸で唐草のような模様が刺繍されている。
淡いベージュの腰布を巻き、下履きはくるぶしの辺りで絞りをきかせ、太もものあたりがふんわりとしている。色は上着と同系色になっている。足元は上着と同じ色の布製の靴を履いている。
対するマリアのところはマリアの髪と同じような暖色系で揃えられている。
モニクは髪を両サイドから編み込み、左側でまとめている。
私は高めの位置でポニーテールにしていた。
「こちらで呼ぶまでしばらくお待ち下さい」
マリアの方に付いていた侍従がそう言って中の様子を確認するため、一旦その場を離れた。
先ほど何やらマリアに耳打ちされた踊り子を警戒しつつ、反対側のモニクを見ると、彼女も自分の剣を胸に抱えて呼吸も忘れたように立っていた。
「モニク、緊張し過ぎ」
私が声をかけるとビックリしてこちらを見た。
「だ、だって、王さまだよ?ロ、クレアは緊張しないの?」
「緊張しないおまじない教えてあげようか?」
「え、そんなのあるの?教えて」
「こうやって、手の平に指で三回書いて、飲み込むの」
人という字を書いてやって見せる。
「後、周りにいる人を芋かカボチャだと思ったらいいよ」
「え、…それは」
国王や参列する貴族たちをつかまえて芋やカボチャ扱いしたことに、側にいた侍従が咎めるように睨んだ。
その時、扉の向こうから大きなどよめきが起こり、皆の注意がそちらに向いた。
その瞬間、右隣にいた踊り子が私の方に派手に転んだ。
ピリッといやな何かが裂ける音がしたので見下ろすと、私の下履きの生地が縦に裂かれていた。
倒れた踊り子の指輪の装飾が引っ掛かったようだ。
「ちょっと、やだ、あんた何やってるの!」
モニクが叫び、控えていた侍従も慌てた。
「何ということを!」
私は破れた下履きを見つめ、次に破った張本人の顔を見た。
「あら、ごめんなさい……」
意地の悪い彼女の笑顔に私は静かな怒りを覚えた。
「おい、大変だ!誰が来ていると思う?エドワルド公爵、王弟殿下が六年ぶりに公の場にいらっしゃ…どうした」
中の様子を見に行っていた侍従が興奮して戻ってきたが、その場に漂う異様な空気を察して黙った。
「それが…」
縦に裂かれた私の右足の下履きを見て側にいた侍従が言いかけると、内側から広間の扉が開かれた。
もう衣装をどうすることも出来ない。破れた下履きのまま、踊るしかない。
「踊り子なら…」
剣の柄をきつく握り、私はひときわ低い声で凄んだ。
「仮にもこれで生活してるなら、下手な小細工なんかしないで、正々堂々と踊りで勝負すべきだったわね」
言って私は青ざめるモニクの背中を擦り、安心させるように笑った。
「「月下の花」の意地を見せてやろうね、モニク」
「踊り子は御前へ」
男の声が響き、私は広間に足を踏み入れた。
侍従に促され、部屋の外に出ると、向かいの部屋から同じように出てきた踊り子たちに遭遇した。
「マリア…」
ティータが最後に出てきた同じ年くらいの女性に声をかけた。
何というか、派手なおばさんだった。
オレンジ色の髪に濃い緑の瞳、舞台にでるわけでもないのに派手な化粧をしていた。荒れた肌を隠そうとしているのがありありな化粧だ。
「ミリイはどうしたの?」
ちらりとこちらを見てミリイがいないので聞いてきた。
「あの子はちょっとケガをしてね、今日は連れてこなかったわ」
「…そう、こちらは初めて見る顔ね」
当然のことながら、私の方を見て紹介してくれないのかという、顔をした。
「この子はクレア、ミリイが踊れない間、臨時で雇い入れたの」
それ以上話すつもりがないという様子を見せ、私たちを早く連れていってもらうよに案内の侍従に言った。
「ふ~ん」
マリアは何やら言いたげな顔をしてこちらを伺い、ちょっとと言って、自分のところの踊り子に何やら耳打ちした。
「え!」
何を言われたかわからないが、彼女は驚いて思った以上に大きな声を出した。
「…わかりました…」
彼女はマリアと目配せし、にやりと笑った。
「頑張りなさい!」
マリアはにっこり笑って彼女の手を握った。
「では、まいりましょう」
それぞれの侍従に先導され、私たちは各々の剣を持って広間へ向かった。
私はマリアのところの踊り子とモニクの間に割り込み、モニクを護るように歩いた。横目で様子を伺い、警戒する。
鎖骨が見えるくらい襟の空いたぴったりとした上着は、薄いふんわりとした長袖になっている。私とモニクの見頃の色は淡い緑で統一され、金糸で唐草のような模様が刺繍されている。
淡いベージュの腰布を巻き、下履きはくるぶしの辺りで絞りをきかせ、太もものあたりがふんわりとしている。色は上着と同系色になっている。足元は上着と同じ色の布製の靴を履いている。
対するマリアのところはマリアの髪と同じような暖色系で揃えられている。
モニクは髪を両サイドから編み込み、左側でまとめている。
私は高めの位置でポニーテールにしていた。
「こちらで呼ぶまでしばらくお待ち下さい」
マリアの方に付いていた侍従がそう言って中の様子を確認するため、一旦その場を離れた。
先ほど何やらマリアに耳打ちされた踊り子を警戒しつつ、反対側のモニクを見ると、彼女も自分の剣を胸に抱えて呼吸も忘れたように立っていた。
「モニク、緊張し過ぎ」
私が声をかけるとビックリしてこちらを見た。
「だ、だって、王さまだよ?ロ、クレアは緊張しないの?」
「緊張しないおまじない教えてあげようか?」
「え、そんなのあるの?教えて」
「こうやって、手の平に指で三回書いて、飲み込むの」
人という字を書いてやって見せる。
「後、周りにいる人を芋かカボチャだと思ったらいいよ」
「え、…それは」
国王や参列する貴族たちをつかまえて芋やカボチャ扱いしたことに、側にいた侍従が咎めるように睨んだ。
その時、扉の向こうから大きなどよめきが起こり、皆の注意がそちらに向いた。
その瞬間、右隣にいた踊り子が私の方に派手に転んだ。
ピリッといやな何かが裂ける音がしたので見下ろすと、私の下履きの生地が縦に裂かれていた。
倒れた踊り子の指輪の装飾が引っ掛かったようだ。
「ちょっと、やだ、あんた何やってるの!」
モニクが叫び、控えていた侍従も慌てた。
「何ということを!」
私は破れた下履きを見つめ、次に破った張本人の顔を見た。
「あら、ごめんなさい……」
意地の悪い彼女の笑顔に私は静かな怒りを覚えた。
「おい、大変だ!誰が来ていると思う?エドワルド公爵、王弟殿下が六年ぶりに公の場にいらっしゃ…どうした」
中の様子を見に行っていた侍従が興奮して戻ってきたが、その場に漂う異様な空気を察して黙った。
「それが…」
縦に裂かれた私の右足の下履きを見て側にいた侍従が言いかけると、内側から広間の扉が開かれた。
もう衣装をどうすることも出来ない。破れた下履きのまま、踊るしかない。
「踊り子なら…」
剣の柄をきつく握り、私はひときわ低い声で凄んだ。
「仮にもこれで生活してるなら、下手な小細工なんかしないで、正々堂々と踊りで勝負すべきだったわね」
言って私は青ざめるモニクの背中を擦り、安心させるように笑った。
「「月下の花」の意地を見せてやろうね、モニク」
「踊り子は御前へ」
男の声が響き、私は広間に足を踏み入れた。
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