転生して要人警護やってます

七夜かなた

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18 王宮へ

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それから三日後の夕方、ティータの舞屋の前に1台の馬車が止まった。
王宮からの迎えの馬車だ。
乗っていた侍従が玄関の扉を叩くと、すかさず舞屋の主が応対し、侍従とマントを羽織った二人の踊り子と共に馬車に乗り込んだ。

「いってらっしゃい」

「後のことは頼んだよ」

留守番の踊り子達が見送るなか、馬車は王宮に向けて走り出した。

「それで、準備は万全でしょうか?」

馬車が動きだすと、侍従は自分の左隣に座る舞屋の主と外套を目深に被り、それぞれ布に包んだ舞用の剣を持って向かい側に座っている踊り子をみやり、もう一度主の方を見て尋ねた。

「はい、まだ最終の身支度は王宮に着いてからですが」

そう言って、主は傍らの風呂敷に包んだものを叩いた。そこには化粧道具や装飾品が入っている。

侍従は満足して頷くと、今回の競い舞の詳細について説明した。

「着きましたらまず控え室として用意している部屋にご案内します。軽食もご用意しておりますので、お呼びするまでそちらでお待ちください。
競い舞は最初に行われます。列席者の方々が全員広間にお集まりになりましたら、扉の前に待機していただき、陛下がご口上を述べられ後、入場を促しますので、もう一組の方々とともに順にお入り下さい。あ、主殿は部屋でお待ち下さい。お連れするのは踊り子だけです。
陛下から合図がありましたら、宰相閣下がそれぞれ所属の舞屋と名前を告げるようにおっしゃいますので、簡潔にその二つだけ口にしてください。本当にそれだけですよ。間違っても頑張りますとか、国王陛下に媚びを売るような言葉は慎んでください」

王宮で上位の人たちに接する時は訊かれたことだけ答え、間違っても自分から声をかけたりするな、と侍従は念を押した。
三人が黙って頷いたのを見て侍従は話を続けた。
「二組が名乗り終えましたら、係の者がそれぞれの立ち位置に誘導します。始まりの姿勢を取っていただき、楽団が音楽を奏でます。失敗しても舞は最後までお願いします。ご来場の皆さまも評価をいたしますが、最終勝敗を決定されるのは陛下と王妃様です。
それと、今回の褒賞ですが、勝利した方に金貨五十枚と王室推奨の札が与えられます。負けた方にも金貨二十枚を賜ることができます」

剣を持つ踊り子たちの手が強ばった。
一人は心なしかかたかたと震えている。緊張しているのだろう。
もう一人も深く外套を被っているせいで顔を見ることはできないが、こちらはまったく震えていない。
馬車に乗り込む時にずいぶん背が高い踊り子だなと思いつつ、手元の書類を見る。

舞屋の屋号は「月下の花」、主の名前はティータ。踊り子はモニクとクレア。どちらがどちらかわからない。

しかし、今回のパーティーは本当に急に決まった。
国王陛下から直接開催の決定が下され、携わるすべての者が残業必須で準備を行った。
招待を受けた貴族たちも、奥方やご令嬢のドレスの支度が当然間に合わず、一度着たドレスを着ざるを得ないはめになった。

ナダルは広い。ティータたちの舞屋から王宮の門まで馬車で一時間程かかる。

一時間後、王宮の門をくぐり抜け、馬車止めに馬車が止まった。御者が御者台から降りて馬車の出入り口に踏み台を置くと、中から侍従がまず先に出てきた。
次いで年配の女性、外套を被った踊り子が続いて二人降りてきた。
侍従は後から出てきた踊り子の背の高さに改めて驚いた。
大体の男よりは低いが、女性の中では頭ひとつ抜きん出ている。

「こちらへどうぞ」

王宮の正面は王族や貴族、外国の賓客のための出入り口であるため、侍従は商人や官僚、騎士たちが出入りする扉に一行を案内した。

用意された控え室に案内すると、侍従は二時間程で呼びにくると言って、一旦下がった。

「ああ、緊張が止まらない~!」

侍従が下がるとモニクは羽織っていた外套を脱いで叫んだ。

「今からそんなんじゃ、本番まで持たないよ」

テーブルの上に持っていた荷物を置いてお母さんが心配して言った。

「だってねえ、ローリィ」

モニクがプウッと頬を膨らまし、そういうと、同じテーブルに剣を置くと、ローリィと呼ばれたもう一人の踊り子が外套を脱いだ。

「こら、踊り子の時は私はクレアよ」

「あ、そうでした」

しょうがないなぁ、ローリィ…ことクレアは苦笑した。

この三日の間に、ティータは新たにクレアという踊り子を臨時で登録した。
踊り子は舞屋組合に所属の舞屋と名前を登録する決まりになっている。
踊り子として貴族や有力商人の所に出入りするので、身元が保証されていないと問題になるからだ。

登録するにあたり、あくまでも臨時であり、用心棒として雇われているローリィ・ハインツと区別するため、彼女は亡くなった母の名前を使った。
髪も地色ではなく、鮮やかな濃い金色に染めた。

「さあ、二時間しかないから、さっさと支度しましょう。特にクレアはローリィとばれないように念入りにしないと」

別人になれるメイクをしてくれるということで、ローリィはちょっとわくわくしていた。
本格的な化粧をするのはこれが初めてで、大事な出番が待っているというのに、テンションが上がっていることにローリィ自身も驚いた。

先にモニクの方に化粧をし、髪型を整える。
次に私の方に時間をかけて化粧を施す。

下地をきちんと塗り、ファンデーションを丁寧に塗っていく。舞台用なので目元も少々派手目に仕上げる。最後に紅を引き、完成する。

「さあ、出来た!どうだい?」

鏡を渡され、覗きこむと、そこにはキツメの印象はなく、亡くなった母を思わせる柔和な顔があった。
一瞬みただけではローリィ・ハインツと結びつける人はいないだろう。
あくまで臨時の、この仕事が終わったらいなくなるクレアという踊り子の完成だ。

「でも、ほんとにすごいね。一回見ただけで本当に振り付け全部覚えちゃったんだから」

軽食のサンドイッチを紅が剥がれないように少量ずつ啄みながら、モニクが感心したように言った。

「まあ、昔からの特技?かな」

前世でも、振り付けや型を覚えるのが得意な方だったが、こっちに転生して、それに拍車がかかったようだ。これが俗にいうチート能力?

舞の振りも一度で覚えたが、難しかったのはモニクとの撃ち合いだった。こればかりは長年の付き合いがないとなかなか上手くいかない。

「撃ち合いはある程度即興が入ってもいいわよ」

ティータの言葉でとりあえずモニクが型通り踊り、それに合わせるように踊ると、驚くほど上手く出来た。

化粧が終わり、最終の調整をしていると、侍従が呼びに来た。
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