転生して要人警護やってます

七夜かなた

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17 王宮からの招待状

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「ただいま…え、どうしたの?」

ウィリアム邸を訪れてから三日後、私はウィリアムさんからシューティングスターの預かり先が決まったと連絡を受け、早速宿屋に赴いて新しい預かり先に行ってきたところだった。
ウィリアムさんのところに話を聞きに行くと、ホリィさんが案内してくれた。
なんでもウィリアムさんはここのところ忙しくしていて、殆ど泊まり込みで帰って来ていないそうで、ホリィさんに後のことを頼んでくれていた。
そんなに忙しいのに、私のことまで気にかけてくれて、ウィリアムさんの仕事が落ち着いたら、改めてお礼に伺おうと思った。
新しいシューティングスターの預かり先は何と第二近衛騎士団の副団長さんでハレス子爵のお宅だった。
ウィリアムさんは第三近衛騎士団だが、弟さんのマシューさんが第二近衛騎士団ということもあり、よく見知った間柄なのだそうだ。
副団長さんは勤務に出られているため、相対してくれたのは副団長さんはのところの執事さんだった。
初老のその方とシューティングスターの世話のことで打ち合わせをし、毎日は無理なので、三日ごとの頻度でお邪魔することを話あった。
直接副団長さんにお礼をと申し出たが、旦那様は忙しいと言われてあきらめた。


舞屋は玄関を入ったところがすぐに来客を迎える応接室となっており、そこを通りすぎてもう一枚扉を開けると、そこがみんなの共有スペース、居間を挟んで右に手洗い場兼風呂場、左側台所、正面奥がお母さん、ティータの執務室兼寝室になっている。踊りの衣装などは執務室にあるクローゼットにしまっている。
踊り子たちは二階にそれぞれ個室があるが、見習いのうちは二人部屋となっている。ティータの舞屋は今は見習いはおらず、一月前結婚して一人辞めたため、ローリィはそこを使わせてもらっている。
個室だが、寝台と小さな机と椅子を置いたらもういっぱいだった。

「と、どうしたの、みんな」

共有の居間に足を踏み入れると、五人全員がこの世の終わりのようにうなだれていた。

「もう…もう…うちは終わりだわ」

あ、ほんとに終わりとか言ってる。

この世の終わりのようだと思ったので、ティータさんがそう呟いたのには驚いた。

「あの…何があったんですか?」

ここまでみんなを打ちのめすとは、一体何があったのか。

「ローリィ…う、う、私が私がいけないのよ」

そう言ってミリイがわっと泣きながら私に抱きついてきた。
ちなみにミリイの右頬の腫れはだいぶひいていたが、右手首は骨にヒビが入っていたらしく、全治二週間と医者に言われていた。

「ずるいミリイ!私もローリィの胸で泣きたい!」

フラーが言うと、カーラもモニクも私にしがみついてきた。

皆には出会った日に女であることを打ち明けている。
旅をするのに女では物騒だったからと説明すると、何だか凄くビックリというかショックを受けた顔をされた。

「わ、ちょっとちょっと、そんなに抱きつかれたら、く、苦しい!」

四方八方から抱きつかれて私は呼吸困難に陥った。

「みんな、ローリィから離れなさい、わたしだって抱きつきた…いえ、そんなに抱きついたらローリィの骨がおれるでしょうが!」

ティータが一人一人引き剥がしにかかった。

え、お母さんも…?

私は用心棒としてお世話になるので、普段は男装をしている。…というか、みんなからの力強いオファーがあったので、そうしているのだ。今回、髪は染めず色は素のまま、ストロベリーブロンドだ。
でも今のところ用心棒らしい仕事はしていない。なぜか皆と一人ずつ入れ替わり立ち替わり一緒に買い物に行ったり散歩に行ったり、お茶に出掛けたりにつれ回されている。
本当にこれでいいのか、何の役にもたっていないので心苦しいと言うと、なら腕を組んで歩けとか、ケーキを食べさせてくれとか、服をコーディネートしてくれとか言われた。
それって用心棒の仕事…?

「で、何があったんですか?」

一通り皆が離れたので、改めて訊いた。

「ミリイが自分のせいだとか何とか…」

「王宮から手紙が来てね」

ふうっと息を吐いて、ティータが説明した。

「三日後、王宮であるパーティーが開かれる。そこで'英雄の舞,を披露することという命令だよ」
「すごいじゃないですか!王様の前で躍るんですよね」
「ああ、確かにすごい。名誉だよ。披露できればね」
ティータの顔が苦悩で歪んだ。
「……え、出来ない…んですか?だって'英雄の舞,できるんですよね」
「そう、踊れるよ。ミリイとモニクだけだけどね」
意味がわからず、頚を傾げる私に、ティータが告げた内容は、次のようなものだった。

'英雄の舞,は二人舞で、互いに剣を持って行う剣舞だということ。舞といえども使うのは両刃を潰した本物。重さもそれなりにあり、両手でなければ持てない。
足さばきも複雑でしかも、それぞれが剣を持って舞ながら、時々撃ち合う。加えて撃ち合いも舞のように優雅でなければならない。
かつてティータもこの舞を得意としていたが、今この舞屋でその舞を踊れるのはミリイとモニクの二人。そして今、ミリイは右手首を負傷している。

「私も今練習してるんだけど、撃ち合いがまだ上手くできなくて、とても王様の前でなんて…」

カーラが申し訳なさそうに言った。

「今この王都でこの舞ができる舞屋はうちとマリアのとこだけ。そして今回、どうやらあっちにも届いてるみたいなんだよ」
「'英雄の舞,は競い舞とも言われてる。二組同時に踊り、より評価の高かった舞屋には今後、'英雄の舞,の依頼が優先的に回ってくるし、箔もつく」
「競い合いで負けても、まあ、それなりに踊れていれば、二番手で仕事が回ってくるから、特に支障はないけど」
「もし、競い合いにすら参加出来なかったら?」
「そう、今回うちが'英雄の舞,を披露できなかったら、もううちは'英雄の舞,の看板を降ろさなきゃならない。悪くすれば不敬を問われ、ここを畳むことになるかもしれない」

終わったとは、そういう意味だったとは…

「せめてこのパーティーが後一週間先だったら、私のケガも治ってるだろうけど」
「ううん、それを言ったら、私がもっと早くに舞をマスターしていたら…」
ミリイとカーラが互いに自分を責め合う。
「せめて、あたしがもう十歳若かったら…」
ティータも悔しがる。
ん…お母さん、確か、五十前?十歳若くてもお母さん三十代にもならないんじゃ。
ティータ以外の誰もが心の中でツッコミを入れた。

「ここを畳むことになっても、あんたたちを路頭に迷わすことはしないよ。他の舞屋に入れてもらえるよう頼んでみるし、なんなら地方にだって職はあるよ」

取り潰し確実な発言だった。

私はふとある考えが浮かんだが、それを言っていいのかちょっと迷った。
何せ本番まで三日しかないのだ。

「悪いねローリィちゃん、来た早々こんなことになって…とりあえず、王宮に断りの返事を…」
「待って下さい!」
諦めて白旗をあげようとするティータお母さんの言葉を、私は慌てて止めた。

十個の目が私を向いた。

「諦めるのはまだ早いです。競い合いに出て負けても、それは問題ないんですよね?用は不戦勝にならなければいいんですよね?」

「ローリィちゃん、だからって、初めから負けるような状態で出ていっても、王室侮辱罪に問われるんだよ」
棄権せずに参加したところで、明らかに実力不足とわかっていて挑むのはもっと悪い。悪くすれば牢獄行きだ。

「わかっています。それなりの踊りが出来なければ、勝負になりませんからね」

私が考えている打開案は一か八かの大博打だ。
マリアさんとこの舞の実力がいかほどかも知らないのに、対戦相手との勝負にそこそこのものを持っていかなければ、同じ負けるにしても上手くいかない。

「とりあえず、今日一日待って下さい」
(今日中に何とか振り付けだけでも覚えて、それで、モニクと踊ってみて、上手く撃ち合えれば………)

「待ってと言われても、お断りを伝えるのに、あまり時間を空けては…」

「わかっています。ティータさん、ミリイ、私に振り付けを教えて下さい!モニク、その後私と一緒にお願いします」

「え、え…ローリィちゃん、どういうことだい?あんたまさか…正気かい」

五人は私の言わんとしていることを察したようだ。

「はい!私が、ミリイの変わりにモニクと踊ります!」
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