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15 モーリスの弟子
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結局、会議は二時間ほどかかり、会議の内容の処理にさらに一時間。ウィリアムは予定よりかなり遅れて帰宅した。
モーリスの弟子という人物は、妻が引き留めてくれため、居間で待っていてくれた。
夫が帰宅したことに気付き、妻が玄関まで迎えに来た。
「お疲れ様でした」
にこやかに自分を出迎えてくれた妻のホリィに上着を預けた。
「すまん、急な会議があって遅れた。で、親父の弟子という人は?」
「居間でお待ちですよ、あなたが遅くなりそうだから日を改めるとおっしゃったのですが私が引き留めてしまいましたわ」
「助かる」
普通なら遅くに来客の相手をするのは億劫だが、父の弟子という人物にかなり興味があったので、もし帰ってしまっていたら、お預けをくらった気分になっただろう。
会議の内容も頭の痛い問題だった。そのことはいったん頭の隅に置くことにした。
「いいえ、私も話が弾んで楽しかったですわ」
ニコニコとそう答える妻を見て、相手が自分の想像していたような人物と違うようだと思った。
あの、熊のような父の弟子である。
自分も弟も父と面と向かって対峙できたのは十歳くらいだった。
その父の弟子。
勝手に父を若くした仏頂面の男を想像していた。
「待たせて申し訳ない」
居間に入り、声をかけると、入り口に背を向けて座っていた人物が立ち上がり、こちらを向いて挨拶をした。
「こちらこそ、お忙しいところ、突然約束もなしに申し訳ありませんでした。ローリィ・ハインツと申します。お父上のモーリス・ドルグラン殿には大変お世話になっております」
明るい赤色の髪に、アメジストの瞳、キリッとした目元の細身の少年、いや、少女が目の前に立っていた。
ウィリアムはその髪色がストロベリーブロンドと言われていることを知らない。
「あなた…?」
入り口で立ち尽くす自分に妻が声をかけ、自分が呆けていたことに気づいた。
それほど衝撃だった。
何かの間違いではなかろうか。
「や、いやすまない…ウィリアム・ドルグランだ」
騎士として叩き込まれた礼儀作法で、その場で一礼する。
そのまま向かい側の席に腰を降ろした。
座るように促すと、彼女も同じように座った。
「いや、失礼…親父の、父の手紙には弟子が王都に行くので面倒をみてやってくれとだけで、どのような人物とまでは書いておらず、その、てっきり、男だとばかり…」
そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「モーリス殿らしいですね。その様子なら、私がどのように弟子となったかなどの話だけでなく、弟子を取ったことも知らせていなかったのではないですか?」
それは父を良く知るからこその言葉だった。
やはり父の弟子というのは本当のことなのだろうか。
ローリィは旅の間、黒く染めていた髪を元の色に戻し、男装を解いていた。
モーリスの、師匠の子に対面するのに偽りの姿では悪いと思ったのだ。
女性の服は持っていなかったので、カーラの服を借りた。踊り子達の中で一番背の高いカーラだったが、ローリィの方が拳二つ分まだ高かった。
それせいでスカートが少し短く、ふくらはぎ丈が膝下丈になってしまったが、既成品では、やはりローリィは少し規格外の高さなので同じような結果になっただろう。
「あなた、お話しもあるでしょうから、私、少し失礼して夕食の支度をしてまいりますわ。ローリィさんも一緒に」
ホリィが気遣いをみせ、言った。
「あ、ああ、そうだなホリィ、ありがとう。ハインツさんもそれでよろしいですか?いや、遅くなったのは私のせいですので、是非夕食を一緒に、なんなら今夜は我が家に泊まっていってください。大したもてなしはできませんが」
「いえ、そんな…」
相手は遠慮を見せたが、父の弟子の話は是非聞きたかった。
「父の弟子は私にとっても家族同然。それにアイスヴァイン領での父と母の様子も聞かせていただきたい。生まれ故郷なので知り合いも多く、不自由はしていないと思いますが」
これは本当だった。母からの手紙で筒がなく暮らせていることはわかっていたが、細かい様子も聞きたい。
そう言うと、彼女も納得したようで頷いた。
モーリスの弟子という人物は、妻が引き留めてくれため、居間で待っていてくれた。
夫が帰宅したことに気付き、妻が玄関まで迎えに来た。
「お疲れ様でした」
にこやかに自分を出迎えてくれた妻のホリィに上着を預けた。
「すまん、急な会議があって遅れた。で、親父の弟子という人は?」
「居間でお待ちですよ、あなたが遅くなりそうだから日を改めるとおっしゃったのですが私が引き留めてしまいましたわ」
「助かる」
普通なら遅くに来客の相手をするのは億劫だが、父の弟子という人物にかなり興味があったので、もし帰ってしまっていたら、お預けをくらった気分になっただろう。
会議の内容も頭の痛い問題だった。そのことはいったん頭の隅に置くことにした。
「いいえ、私も話が弾んで楽しかったですわ」
ニコニコとそう答える妻を見て、相手が自分の想像していたような人物と違うようだと思った。
あの、熊のような父の弟子である。
自分も弟も父と面と向かって対峙できたのは十歳くらいだった。
その父の弟子。
勝手に父を若くした仏頂面の男を想像していた。
「待たせて申し訳ない」
居間に入り、声をかけると、入り口に背を向けて座っていた人物が立ち上がり、こちらを向いて挨拶をした。
「こちらこそ、お忙しいところ、突然約束もなしに申し訳ありませんでした。ローリィ・ハインツと申します。お父上のモーリス・ドルグラン殿には大変お世話になっております」
明るい赤色の髪に、アメジストの瞳、キリッとした目元の細身の少年、いや、少女が目の前に立っていた。
ウィリアムはその髪色がストロベリーブロンドと言われていることを知らない。
「あなた…?」
入り口で立ち尽くす自分に妻が声をかけ、自分が呆けていたことに気づいた。
それほど衝撃だった。
何かの間違いではなかろうか。
「や、いやすまない…ウィリアム・ドルグランだ」
騎士として叩き込まれた礼儀作法で、その場で一礼する。
そのまま向かい側の席に腰を降ろした。
座るように促すと、彼女も同じように座った。
「いや、失礼…親父の、父の手紙には弟子が王都に行くので面倒をみてやってくれとだけで、どのような人物とまでは書いておらず、その、てっきり、男だとばかり…」
そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「モーリス殿らしいですね。その様子なら、私がどのように弟子となったかなどの話だけでなく、弟子を取ったことも知らせていなかったのではないですか?」
それは父を良く知るからこその言葉だった。
やはり父の弟子というのは本当のことなのだろうか。
ローリィは旅の間、黒く染めていた髪を元の色に戻し、男装を解いていた。
モーリスの、師匠の子に対面するのに偽りの姿では悪いと思ったのだ。
女性の服は持っていなかったので、カーラの服を借りた。踊り子達の中で一番背の高いカーラだったが、ローリィの方が拳二つ分まだ高かった。
それせいでスカートが少し短く、ふくらはぎ丈が膝下丈になってしまったが、既成品では、やはりローリィは少し規格外の高さなので同じような結果になっただろう。
「あなた、お話しもあるでしょうから、私、少し失礼して夕食の支度をしてまいりますわ。ローリィさんも一緒に」
ホリィが気遣いをみせ、言った。
「あ、ああ、そうだなホリィ、ありがとう。ハインツさんもそれでよろしいですか?いや、遅くなったのは私のせいですので、是非夕食を一緒に、なんなら今夜は我が家に泊まっていってください。大したもてなしはできませんが」
「いえ、そんな…」
相手は遠慮を見せたが、父の弟子の話は是非聞きたかった。
「父の弟子は私にとっても家族同然。それにアイスヴァイン領での父と母の様子も聞かせていただきたい。生まれ故郷なので知り合いも多く、不自由はしていないと思いますが」
これは本当だった。母からの手紙で筒がなく暮らせていることはわかっていたが、細かい様子も聞きたい。
そう言うと、彼女も納得したようで頷いた。
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