転生して要人警護やってます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
15 / 266

15 モーリスの弟子

しおりを挟む
結局、会議は二時間ほどかかり、会議の内容の処理にさらに一時間。ウィリアムは予定よりかなり遅れて帰宅した。

モーリスの弟子という人物は、妻が引き留めてくれため、居間で待っていてくれた。

夫が帰宅したことに気付き、妻が玄関まで迎えに来た。

「お疲れ様でした」

にこやかに自分を出迎えてくれた妻のホリィに上着を預けた。

「すまん、急な会議があって遅れた。で、親父の弟子という人は?」
「居間でお待ちですよ、あなたが遅くなりそうだから日を改めるとおっしゃったのですが私が引き留めてしまいましたわ」
「助かる」
普通なら遅くに来客の相手をするのは億劫だが、父の弟子という人物にかなり興味があったので、もし帰ってしまっていたら、お預けをくらった気分になっただろう。
会議の内容も頭の痛い問題だった。そのことはいったん頭の隅に置くことにした。

「いいえ、私も話が弾んで楽しかったですわ」

ニコニコとそう答える妻を見て、相手が自分の想像していたような人物と違うようだと思った。
あの、熊のような父の弟子である。
自分も弟も父と面と向かって対峙できたのは十歳くらいだった。
その父の弟子。
勝手に父を若くした仏頂面の男を想像していた。

「待たせて申し訳ない」

居間に入り、声をかけると、入り口に背を向けて座っていた人物が立ち上がり、こちらを向いて挨拶をした。

「こちらこそ、お忙しいところ、突然約束もなしに申し訳ありませんでした。ローリィ・ハインツと申します。お父上のモーリス・ドルグラン殿には大変お世話になっております」

明るい赤色の髪に、アメジストの瞳、キリッとした目元の細身の少年、いや、少女が目の前に立っていた。

ウィリアムはその髪色がストロベリーブロンドと言われていることを知らない。

「あなた…?」

入り口で立ち尽くす自分に妻が声をかけ、自分が呆けていたことに気づいた。
それほど衝撃だった。

何かの間違いではなかろうか。

「や、いやすまない…ウィリアム・ドルグランだ」

騎士として叩き込まれた礼儀作法で、その場で一礼する。
そのまま向かい側の席に腰を降ろした。
座るように促すと、彼女も同じように座った。

「いや、失礼…親父の、父の手紙には弟子が王都に行くので面倒をみてやってくれとだけで、どのような人物とまでは書いておらず、その、てっきり、男だとばかり…」

そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。

「モーリス殿らしいですね。その様子なら、私がどのように弟子となったかなどの話だけでなく、弟子を取ったことも知らせていなかったのではないですか?」

それは父を良く知るからこその言葉だった。
やはり父の弟子というのは本当のことなのだろうか。

ローリィは旅の間、黒く染めていた髪を元の色に戻し、男装を解いていた。
モーリスの、師匠の子に対面するのに偽りの姿では悪いと思ったのだ。
女性の服は持っていなかったので、カーラの服を借りた。踊り子達の中で一番背の高いカーラだったが、ローリィの方が拳二つ分まだ高かった。
それせいでスカートが少し短く、ふくらはぎ丈が膝下丈になってしまったが、既成品では、やはりローリィは少し規格外の高さなので同じような結果になっただろう。

「あなた、お話しもあるでしょうから、私、少し失礼して夕食の支度をしてまいりますわ。ローリィさんも一緒に」

ホリィが気遣いをみせ、言った。

「あ、ああ、そうだなホリィ、ありがとう。ハインツさんもそれでよろしいですか?いや、遅くなったのは私のせいですので、是非夕食を一緒に、なんなら今夜は我が家に泊まっていってください。大したもてなしはできませんが」
「いえ、そんな…」

相手は遠慮を見せたが、父の弟子の話は是非聞きたかった。

「父の弟子は私にとっても家族同然。それにアイスヴァイン領での父と母の様子も聞かせていただきたい。生まれ故郷なので知り合いも多く、不自由はしていないと思いますが」

これは本当だった。母からの手紙で筒がなく暮らせていることはわかっていたが、細かい様子も聞きたい。

そう言うと、彼女も納得したようで頷いた。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...