上 下
14 / 266

14 モーリスの息子

しおりを挟む
ロイシュタール国の近衛騎士団は大きく分けて三つに分けられている。

王族に付き添い、王族を守護する第一近衛騎士団
王宮や離宮の治安に勤める第二近衛騎士団
王都や王都周辺を護る第三近衛騎士団

第一近衛騎士団は王族に付き従い、その身の安全を護るだけでなく、文官として公務を補佐している。
王族と接するため、多くが貴族出身である。
第二近衛騎士団は王宮や離宮の警備の他、公爵、外国からの賓客の警護に就く。特に身分というよりは騎士学校で成績優秀だった者が多く登用される。
第三近衛騎士団は騎士学校でひととおりの履修を受け、騎士学校の教師からのお墨付きがあれば就くことができる。このお墨付きは、別に特別優秀であるとかの評価は必要なく、学生の間、大きな問題もおこさず、騎士としての心構えがきちんとあるという程度の評価でもらえる。

もちろん、入団してからの行いや功績、上司からの推薦があればそれぞれの所属を変えることも可能だ。

ウィリアム・ドルグランは今年で三十歳、第三近衛騎士団に所属し、五年前から三個隊を指揮する総長に昇進した。
父のモーリス・ドルグランは熊のような体格で鬼のような面相の持ち主だったが、自分も二つ下で第二近衛騎士団に所属する弟のマシューも体は大きいが、母親に似ている。
第三近衛騎士団は一から二十までの隊があり、隊ごと交代で勤務している。所属する騎士の数は一番多い。


その日、ウィリアムは日勤となっていて、もうすぐ今日の勤務が終わろうとしていた。

父のモーリスが騎士団を退職するとすぐに生まれ故郷のアイスヴァインに母とともに移り住んだ。

それ自体、特段気にすることもない。

両親がアイスヴァインに移り住んでからこれまで、一度も会っていない。
父は筆不精のため、便りもほとんど母からで、こちらからの便りは読んでいるみたいだと、母からの便りからうかがえる。

そんな父から、父直筆の便りが二週間ほど前に届いた時には、天変地異の前触れかと恐れおののいた。

そしてその内容に再び驚いた。

「弟子が今度王都に行くので、面倒をみてやってくれ」という内容だったからだ。

父が弟子を取っていたことも知らされておらず、父の手紙には弟子のことを誉める内容が書かれていたのも驚いた。

「あの親父どのが、誰かを誉めるなど…」

父として息子たちを指導はしてくれたが、それはあくまでも息子で、そこそこ武術の腕前もあったからだ。赤の他人をそこまで懐にいれるのは初めてではないどろうか。
俄然興味がわいたが、父の手紙には弟子が優秀であることは書かれていたが、どのような経緯で弟子にしたのか、弟子の素性も何も書かれていなかった。

自分の興味のあることにしか頓着しない、筆不精の父らしいと思ったが、そのうち弟子という人物が自分を訪ねて来るのであれば、その者に聞けばいいだろう。

件の人物が自分を訪ねて来たと家にいる妻から詰所に連絡が来たのは今日の昼過ぎのことだった。
ついに来た、とウィリアムは沸き上がった期待に胸をわくわくさせた。今日は何がなんでも定時に帰宅せねばなるまい。そう思っていたのだが、もうすぐ今日の勤務という頃、隊長級以上に会議の召集がかかった。
事前に予定されていない会議。ウィリアムは嫌な予感がした。



しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...