転生して要人警護やってます

七夜かなた

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11 王都ナダル

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予定より一日遅く、私は王都ナダルに辿り着いた。

あの後次の街まで行き、あわてて生地屋を探して胸当て用の布地を買い求め、希望の大きさに裁断してもらい、宿屋を探して部屋を取ると、縫い物を始めた。
彼に与えた胸当てはエミリが作ってくれてたものなので、縫い目も完璧な仕上がりだった。
まる一日かけて出来あがったものは少々いびつな縫い目はまばらの仕上がりだった。
指先は針の傷だらけになった。
あんな怪しいやつにあそこまでしてやる必要があったのか。いや、命を救えたのだから、よしとする。

そのせいで一日余計にかかった。

今、私は城壁前の審査の列に並び、順番を待っている。
馬から降り、手綱を引きながら、少しずつ前に進む。

「ローリィ・ハインツさん?」

城壁の審査官は通行手形の名前を確認し、チラッと顔を見た。

ハインツは伯爵位を退いた時に新たに父が名乗った姓だった。
今私は男装しているので、本名のローゼリアでは怪しまれると考え、ローリィという愛称を使っている。アイスヴァイン伯爵に手形を発行してもらう際にそのようにお願いした。

「ようこそ、ナダルへ。次の方」
年配の女性審査官は、にっこりと微笑み、手形を返し、次に並んでいる人を呼んだ。

分厚い城壁をくぐり抜けると、そこはもう別世界だった。
広い大通りが城壁からまっすぐ伸び、道も馬車が四台並んで走れる位の幅があった。
道の両脇にはさまざまな商店が、並び、広場ではマーケットも開かれている。街の遥か向こうにはひときわ高いところに、いくつもの尖塔が立ち並ぶ王城がそびえて建っている。

「シンデレラ城みたい…」

ドイツのどこかの城をモデルにした某ネズミの国で見た城を思い出した。ここからでもそれなりの大きさなのだから、近くでみるともっと広くて大きいのだろう。

「えっと、モーリスの息子さんの住所は…」

モーリスには息子さんが二人いる。二人とも近衛騎士団所属と聞いていたが、もらったのは長男のウィリアムさんの住所だけだった。何でも次男のマシューさんは今は任務で王都を離れているらしい。
いつ着くかどうかも知らないだろうし、初めて訪ねていきなりご厄介になるのも気がひける。それにシューティングスターをつれ歩いて王都をうろうろも出来ないため、宿を取って厩に預けた。

「やっぱり王都だ。物価が半端ない」

王都に近づくに連れ、宿の料金が上がってきていたが、これまで利用してきた宿の費用と比べると、かなり高めだ。

できるだけ節約してきたので懐はまだ余裕があるが、これは早々に仕事を見つけないと、広場で寝泊まりすることになりそうだ。

宿屋の料金が今までと段違いだったのだから、食堂やそのほかの所もそれなりだと考えた方がいい。

比較的安い屋台で串焼きを買い、噴水のある広場のベンチに腰掛けて頬張った。
どこかから教会の鐘の音が聞こえてくる。人の喧騒と馬や馬車の車両の音、ずいぶん賑やかだと思った。

広場は中心に噴水があり、噴水を囲むように丸く屋台が建ち並んでいる。
屋台の奥には放射線状に道が広がり、私が宿屋から通ってきた道も含めて十本の道が繋がっている。
道の広さはまちまちで、比較的広い所は馬車も通ることが出来るので、馬車を利用する人達が住んでいるのだろう。

「さて、そろそろ行くか」

さっきの屋台の人に聞いたウィリアムさんの住まいへ向かった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「…………迷った…………?」

王都の広さを私は甘くみていた。

アイスヴァイン領は大きな道が一本。家も高くても二階建てまで。道は舗装されておらず土埃が舞うが、見通しもいい。

反して王都は建物も大きく、よく似た建物が多く、見通しも悪い。路地を一本入るとますますわからなくなる。

進めば進むほど路地は細くなり、とても近衛騎士団の住居がある一角とは思えない。そして人もいない。

「戻った方がいいかも…」

そう思って引き返そうとしたが、帰り道もわからなくなった。

「こっちかな…?」

(わあ…)

曲がったところは突き当たりだったが、そこは無人ではなかった。

「なんだあ、お前」

人相最悪なお兄さん達が数人、凄みをきかせて睨み付けてきた。

「助けて!」

お兄さん達の向こうから、女性の声がした。

「助けてとは、穏やかではないですね」

「おい、黙らせろ!」

リーダーらしい人が命令し、一人が奥の女性に向き直った。

「何よ!あんたたちな…んか怖くないわ!どんな…に脅したって、言う…こときかないわよ」

怖くないといいながら、彼女の声はぶるぶる震えている。

「悪いな、兄ちゃん、こっちは少々立て込んでるんだ。そのおキレイな顔に傷をつけたくなかったら、ここは何も聞かなかったことにして、あっち行ってくれないか?」

リーダー格の男が凄みをきかせて近寄ってきた。

「えっと、実は僕もそうしたいんですか、どうも道に迷ってしまったみたいで…出来れば、道を教えていただければと…」

モゴモゴとそう言うと、男は一瞬呆気に取られ、その後大声で笑った。
つられて他の男たちも笑う。

「こいつはおもしれぇ!兄ちゃんその年で迷子かよ!おいおいどこの田舎もんだよ!」

男はひとしきり笑って言った。

「困ってるとこ悪いが、こっちも忙しいんだ。すまんが他をあたってくれ」

笑われる方はおもしろくない。
男が私の肩に伸ばそうとした左手をさっと掴み、背後に振り払った。

「ぎゃっ!」

リーダー格の男は壁にぶつかり、倒れこんだ。

「てめぇ」

「ばかにされるのは好きじゃない」

眼差しに怒りを込めて男たちに向き直った。

「俺たちが誰かわかってケンカ売ってんのか?」

「知らないし、知りたくもない」

「なんだと!」

一番近くいた男が右拳をふるってきてので、さっと避けて突き出した拳を掴み、勢いのまま突進する男の腹に右膝をお見舞いした。
そのまま左足を軸に後ろ向きに回転し、次に殴りかかってきた男の腹を後ろ蹴りした。
後ろ蹴りを入れた男がぶっ飛んだ先にはもう一人男がおり、一緒に倒れ混む。右足を下ろしざま、左足を振り上げ、最後の男の顎を蹴りあげた。

「こっちへ!」

座りこんでいた助けてを求めた女性に手を差し出し、伸ばした手を引っ張りあげて立ち上がらせると、そのまま走り出した。

「ごめん!道がわからないから教えて!」
「えっと、右!」
「次は?」
「そのまままっすぐ、二つ目を左!」
「次は?」
「四つ目を右!」

私は彼女の手を引っ張り、誘導してもらいながら走った。

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